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両手に花なデパートデート

「私は、このジーンズが似合ってると思う。生地が薄いから、夏でも涼しいと思うよ」


「白Tシャツと黒のハーフパンツの組み合わせはどう? シンプル・イズ・ベスト!ってね」


 右からは海歌の落ち着いた低い声、左からは空音の溌剌はつらつとした高い声が響く。

 海歌と空音は何度も試着室と行き来して、俺に最も似合うコーデを探し回って、持ってくる。


 ここは駅前のデパートのアパレルショップ。


 夏物を買いにやって来たのだが……


「これ、試着してみて」

「こっちはどうかな~?」


「生地が厚くて、夏は厳しいかも」


 俺は、ひたすら着替えに奔走した。


 正直、着るものは何でもいいと思う。けれど、海歌と空音は、俺のコーデを選ぶのにすっかり夢中になっている。


「俺は着せ替え人形じゃないぞ」


 結局、海歌に選んでもらった深緑色のリネンシャツと、Tシャツ一枚をかごに入れた。


 そこから1時間ほどかけて、今度は海歌と空音のコーデ選びが行われた。

 俺は、スマホで漫画を読んだり、二人のコーデの審査員をやったりして待った。


「いい買い物したな~」

「次はどこ行く?」


 俺たちは多くの店が立ち並ぶデパートの通りを歩いた。


 週末ということもあって、学生グループや家族連れが多く行き交っているし、あちこちに『値引きセール』の旗が掲げられていた。


「そろそろお腹すいたな~陸翔と空ちゃんは?」


「俺も腹へった」

「ウチも!」


 時計は、午後12時半を指している。ちょうどお昼時だ。


 両手に紙袋をぶら下げた海歌に先導されて、俺たちはデパートの5階にある飲食店コーナーに向かった。


 そこには、いろいろな飲食店が建ち並んでいた。


 回転寿司、うなぎ丼、イタリアンピッツアにしゃぶしゃぶ、焼き鳥、そば屋にスイーツ専門店、中華まで、何でも揃っている。


「肉……とにかく肉が食べたい……」


 肉に飢えた《《肉好き》》の海歌が、とある店の前で立ち止まった。


 店先には『いきなり!ハンバーグ』という看板がデカデカと掲げられている。


 店内はデパートの通りと比べると少し暗くなっていて、暖色の光に照らされている。柱やはり、テーブル、椅子などが焦げ茶色の木材で統一されており、木造船の船内のようなシックな造りだ。


「雰囲気がオシャレなお店だね。さすが海ちゃん! お店を選ぶ目がある!」


「いや、海歌は雰囲気とか見た目じゃなくて、単純に肉が食べたくてここを選んだだけだと思うぞ……」


 お腹を空かせた俺たちは、窓際の席に案内された。

 海歌と空音が隣り合って座り、その対面には俺と、服がたくさん入った紙袋が座った。


 店内は肉やソースの香ばしさで満ち、あっちこっちから肉が鉄板の上で焼ける音が聞こえてきて、食欲をそそられる。


 注文を終えると、海歌が席を立った。


「ちょっとトイレ行ってくる」


 海歌が店内のトイレに消え、空音と二人きりになった。

 沈黙がちょっと気まずくて、俺はコップに注がれた水を飲んだ。


「……ねぇねぇ陸翔くん。最近海ちゃんとどうなの?」


 空音が、そのキレイな空色の瞳を俺に向けた。


「どうって?」


「ちょっとしたケンカとか、いろいろあったけど……お互いの距離感は縮まった? 最近はお泊り会してるって海ちゃんから聞いてるけど、何してるの? 二人きりで映画とか? 無難にゲームもいいよね! あと、一緒にお風呂は入ったの!?」


「待って待って……一つずつ話すから……」


 空音は早口になり、対面の椅子から身を乗り出す勢いだった。彼女の恋バナ好きは相変わらずだ。


「ケンカの件に関しては、空音のおかげで、すぐに仲直りできたよ。改めて、ありがとう。空音」


「どういたしまして。陸翔くんと海ちゃんがまた仲良しこよしの関係に戻ってよかった!」


 空音はニコニコしていた。


 空音には、感謝してもしきれない。

 空音がこっそりチャットを見せてくれて、海歌も謝りたがっていることを教えてくれたことは、俺の背中を押してくれた。


 お陰で海歌との誤解が解け仲直りできて、こうして3人で買い物に出かけられた。


「お泊り会では、まあ普通に、デリバリーのピザ食べながらサブスクの映画観たり、散歩に行ったり、夜更かししてゲームしたり、一緒のベッドで寝たりしてるな」


「うんうん!高校生のカップルの王道って感じだね」


「一緒にお風呂に入ったかは……ノーコメントで」


「そんな言い方されると、余計に気になるんだけど~!」


 そこは、俺と海歌のみぞ知るということで。


「いいなぁ。羨ましいな~ 陸翔くんと海ちゃんが仲良しなの見てたら、ウチもカレシ欲しくなってきちゃった!」


「空音は可愛いし、社交的だから、すぐにいい人を捕まえられると思うよ」


「わひゃ!陸翔くんに可愛いって言われちゃった!」


 空音が小動物みたいな鳴き声をあげた。


「陸翔くんと海ちゃんの話に戻るけど……二人が恋人として仲良くなるのは、見てて楽しいし、もっともっと、仲良くなってほしいなって思うよ。でも……」


「でも?」


 空音は意味ありげに言いよどんだ。

 

「でも、二人が仲良くなるほど、ウチが置いて行かれているような気がして、ちょっと寂しいな……」


「空音……」


「あ、でもね、二人に嫉妬してるとか、そういう悪い感情じゃないから! さっきも言った通り、ウチは陸翔くんと海ちゃんの恋愛を応援してるから!」


 常に、誰にでも明るく振る舞う空音が、まさかそんな本音を抱えていたとは思わなかった。


 やはり、人は外見だけでは判断できないものだ。


「どうすればいい? 俺にできることってあるかな……?」


「そんな深刻に考えないで! これまで通り、友達として仲良くしてくれたら、ウチは大満足だから!」


「そうか……じゃあ、また3人でお出かけしようか。夏休みに、ちょっと遠出するのはどう?」


「ウチ、海行きたい! ちょうどデパートに来てるし、あとで水着を買っちゃおう!」


 二人で夏休みの計画を話し合っていると、トイレから海歌が戻ってきた。眉間にシワを寄せている。


「おーい、イチャイチャすんな」


「あ、ごめーん、海歌ちゃん。おかえり!」


「まったく、空ちゃんは油断も隙もないんだから……」


 海歌は小さな溜息をつきながら、空音の隣に座った。


「今ね、陸翔くんと海に行きたいなっていう話をしてたところ」


「は? 陸翔と空ちゃんが二人きりで行くってこと?」


「そんなわけないじゃん~ もちろん、海ちゃんも一緒だよ!」


 海歌にも海に行く計画が共有されたところで、待ち兼ねた料理が運ばれてきた。


「鉄板がお熱くなっておりますのでお気をつけください。では、ソースをかけさせていただきます」


 店員さんが目の前で、ハンバーグにソースをかけてくれた。

 熱々の鉄板の上で焼けるハンバーグが「ジュー」と音をあげ、ソースがパチパチと踊っている。その見た目、その音、その匂いに食欲をそそられる。


「いただきます!」


 もう我慢ならないとばかりに、海歌がフォークとナイフを手に取った。

 切り出したハンバーグを口いっぱいに頬張った海歌は、満面の笑みを浮かべた。


「んはぁ、おいしい……幸せ…………」


 海歌に続き、俺と空音もハンバーグをいただいた。

 ナイフをスッと入れると、チーズがドロっと溢れ出す。噛む度に肉汁が溢れ出し、肉がほろほろと口の中で溶けるようだった。


「おいしいな、ここのハンバーグ!」

「んん~ベリーデリシャス! ここのハンバーグソース買いたいぐらい美味しい!」


 いい匂いが混じった湯気に包まれ、極上のハンバーグがお腹を満たす。


 目の前には笑顔のカノジョと親友がいる。


 こんな幸せな空間は、他にないだろう。


 

「「「ごちそうさまでした」」」



「忘れ物はない?」


 俺が呼びかけると、空音が持ち物の指さし確認をした。


「スマホよし、財布よし!」

「よし。じゃあ出発しようか」


 俺たちは支払いを割り勘で済ませ、デパート巡りを再開した。


「水着買いに行こう」


「待って、ガチャガチャ専門店があるよ! 行きたい!」


「えー」


「海歌は行きたくないのか? 面白そうだけど……」


「面白過ぎて、お金使いすぎちゃう」


「大丈夫だよ、海ちゃん! 5000円までなら、ウチが出してあげるから!」


「人生に一度でいいから言ってみたいな、そんなセリフ」


 空音に手を引かれて、俺たちはガチャガチャの機械の森に足を踏み入れた。


 俺たち3人の週末の楽しみは、まだまだ続く。

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