『楽しそうだねwwwwwwww』
「はーいエブリワ~ン! これから英作文のグループワークを行いまーす。二人一組のペアを作るので、前に注目~」
教壇に立った英語の先生が手を叩く。
しかし、海歌はペン回しをしていて上の空。
空音は授業そっちのけで塾の宿題をやっていた。
(海歌と空音、良くも悪くも自由だな……)
黒板前のスクリーンには、先生のスマホの画面が表示されていた。
なるほど、座席に対してランダムに学籍番号が割り振られるということか。
うちのクラスは37人もいる。海歌とペアになれる可能性は低そうだ。
海歌と空音以外に仲の良い人もいないし、昔からグループワークは苦手だった。
「はーい、前の画面を見て移動してくださいね~。スタンダップ、プリーズ!」
先生がスマホをタップすると、一瞬にして座席表に学籍番号が割り振られた。
「はぁ……グループワークか」
小さく溜息を漏らしながらも、ひとまず、自分の学籍番号を探した。
「あ、陸翔くんと一緒だ!」
俺が自分の番号を見つける前に、空音にネタバラシされた。
「ああ、よろしく空音」
「よろしく、陸翔くん!」
俺はノートパソコンを持って、指定された窓側の席へ空音と移動した。
一方の海歌は、俺たちとは離れた廊下側の席に移動し、机に突っ伏した。
ペアとなった女子は、「よ、よろしく~」と気まずそうに挨拶していた。
「翻訳機能や生成AIは使わないでくださいね~。それでは、ペアで作業を始めてください」
先生の指示で、英作文の作業を始める。
教室は、クラスメイトたちの楽しげな声で満ちた。
「空音、やること分かる?」
「うん。教科書の内容を読んで、ペアで感想文を仕上げるんでしょ?ちゃんと聞いてたから分かるよ!」
「……塾の勉強しながら、先生の話はちゃんと聞いてるのか」
「ふふん。マルチタスクは得意なんだよね!」
塾の宿題をしながら授業内容まで把握している空音。
さすが、クラス1番の天才だ。どこまでも抜かりない。
「陸翔くんは、序論のところを読んで。本論と結論はウチが読むから」
「助かる。俺、英語はあんまり得意じゃないから」
役割分担は非常にスムーズ。自称真面目くんな俺と、天才の空音のペアは滞りなく作業を進めた。
「あ、ここ間違ってるよ陸翔くん。過去形にしないと」
空音は英文をカーソルで範囲選択して、間違いを指摘してくれた。
「あ、ほんとだ。ありがとう」
「分からないことあったら、何でも聞いてね!」
「空音がいると作業の安心感があるな」
「えへへ、それほどでも~」
分からない単語があったら、とりあえず空音に聞けば教えてくれる。
もはや、辞書を使う必要もなかった。
作業を早々と終えた俺と空音は、小声で雑談に興じた。
「ねぇねぇ陸翔くん、ゴールデンウィークに海ちゃんとカフェ行ったんだって?」
「何で知ってるの……って、海歌が教えてるのか」
海歌と空音が友達として繋がっているので、すべて筒抜けだ。
「最近駅前にできたカフェの【ティラミス・ラテ】が美味しかったよ」
「へぇ、美味しそう! こんど行ってみようかな!」
「ちょっとお高いけどね」
「ウチ、おいしいものには何万円でも使っちゃう! だから、値段は気にしない」
空音とは、ゲームや海歌という共通項があって、すごく話しやすかった。ずっとニコニコして明るく話してくれるので、口下手な俺も気まずくなかった。
「はーい、時間になりました! それでは、廊下側のペアから順番に発表してもらいます」
教室内に、タイマーのけたたましい音が鳴り響く。
他のペアの発表を聞きながら、俺と空音は文章の最終チェックをして、発表の時を待っていた。
そのとき、机の中にしまってあったスマホが静かに振動した。
(あ、絶対海歌だな)
俺はノートパソコンの画面で隠しながら、スマホで海歌とのチャットルームを開いた。
そこには、ただ一言『楽しそうだねwwwwwwww』という海歌からのメッセージが残されていた。
あからさまに連なる草、端的な文章……
間違いない、海歌はへそを曲げている。
俺と空音が仲睦まじく作業する様子を見て、嫉妬に駆られ、イライラしている。
(ごめんって。海歌、怒ってる?)
俺は慌てて返信した。
そのわずか5秒後、再び海歌からメッセージが飛んできた。
『別に』
うわ、絶対に怒ってる……
俺は静かにスマホの画面を閉じた。
「ふふ、陸翔くんいけないんだ~。また授業中にスマホいじってる~」
「いや、海歌からチャット送られてきてさ……」
「また先生に注意されちゃうよ~。ほどほどにしないと」
英語の授業が終わってから、俺は海歌に謝りに行った。
「空音と楽しそうに作業してごめん……」と謝るのは、変な感じがするけど。
「海歌……」
海歌はトイレに行くところだった。
「なに?」
「ごめん」
「なにが?」
海歌はいつもの無表情で、平静を装っている。
でも、心の底では嫉妬の炎をメラメラと燃やしている。何となく、そう思った。
「空音と一緒に課題やって、楽しそうにしてて、ごめん……」
「別に、怒ってない」
そう言い残し、海歌は女子トイレに入っていった。
昼休みにお弁当の卵焼きあげて、海歌のご機嫌取りしようかな……
俺は、空音とちょっとお喋りしただけで嫉妬されるぐらい、海歌に好かれているらしい。
嬉しい反面、好かれ過ぎるのもなかなか困りものだ。




