恋のお悩み相談
その異変に気が付くのに時間はかからなかった。
帰宅してポストを開けたとき、見慣れない封筒が入っていた。
「なんだ、これ……?」
いたって普通の茶封筒。
表にはキレイな文字で【古谷陸翔様へ】と書かれていた。
けれど、郵便番号が書かれていないことが奇妙だった。
つまり、誰かが家のポストに直接投函したということか?
(誰からだろう……?何が入っているんだろう……?)
俺はリビングのソファーに腰かけ、恐る恐る封筒を開けた。
その中には、とある一通の手紙が入っていた。
――――手紙――――
古谷陸翔様へ
いつも海歌がお世話になっています。
お部屋の片付けと掃除までしてくれたと聞いて、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとう。
親である私がいくら声をかけても、なかなか部屋から出られなかったり、元気がなかったりする海歌を見ていて、正直どうすればいいのか悩む日もありました。
でも、陸翔さんが一緒に遊んでくれたり、学校へ連れ出してくれたりするおかげで、最近、海歌は少しずつ笑顔を取り戻しているように感じます。
これからも海歌と仲良くしてくれたら嬉しいです。
あと、感謝をお伝えするのが遅れてしまってごめんなさい。
またいつでも遊びに来てくださいね。
棚の中のお菓子は、自由に食べていいですよ!
本当にありがとう。
海歌の母
宮本美香より。
―――――――――
それは、海歌の母親からの手紙だった。
ボールペンで丁寧に手書きされていた。その丸っこい字は、どことなく海歌に似ている。
まさか、こんなに感謝されるとは思わなかった。
「ただいまー」
手紙をもう一度読み返していたら、玄関から溌剌とした声が響いた。
姉が帰宅したのだ。
俺は慌てて手紙を封筒に戻し、ポケットの中に突っ込んだ。
「お、お帰り、姉さん。今日は帰り早いね」
「サークルもバイトもなかったからね~」
「早く風呂入れ。臭い」
「うわ、ひどっ」
「冗談だよ。俺も早く風呂に入りたいから、早くしてほしかっただけだよ」
お決まりの冗談を言い合う。
姉はリビングの物干し台からパジャマと下着を取って、脱衣所に消えた。
しばらくして、姉さんが風呂から戻ってきた。
風呂上りの姉さんは、首にタオルをかけていた。ソファーにふんぞり返って座り、スマホを眺めながらアイスを食べている。
俺は、姉さんに聞いてみたいことがあった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
俺は勇気を出して開口した。
「姉さんってさ、これまで何人と付き合ったことある?」
「2人だよ。高校生の時に一人と、今付き合ってるカレシ」
「……すご。俺もそのぐらい人と付き合えるようになりたいな」
「陸翔ならできるよ。まずは練習で、男友達を作るところから頑張ってみれば?」
「ああ、そうするよ」
話のペースを整えながら、本題を切り出した。
「カレシさんから誕生日プレゼント貰ったこともあるだろ?どんなプレゼント貰ったの?」
俺が聞きたかったことは、付き合っているカップルの誕生日プレゼントについて。
海歌の誕生日まで、あと1週間後。
それまでに、何をプレゼントするかを決めたかった。
恋愛マスターの姉さんならば、有益な情報をくれると思う。女性目線で語ってくれるだろうから、なおさらだ。
ネットの情報を参考にしてもよかったが、やはり、姉さんのような女性のリアルな声が一番頼りになる。
「えーとね、高校生のときのカレシはスイーツタルトとか、ケーキとかの食べ物系をくれた。今のカレシはお揃いのブレスレットとか、ハンドクリームとか日焼け止めとかの詰め合わせギフトくれるね。わたし的には、形として残るブレスレットが一番嬉しかったな」
「なるほど……」
「突然そんなこと聞いてどうしたの?まさか、陸翔にもカノジョができたとか?気になってる人がいるとか?」
「……バレたか」
「お姉ちゃんの目を誤魔化すことはできないぞ!というか、何となく察してた。最近、お出かけが多いし、バイトがない日も遅く帰ってくることあったし」
どうやら、姉さんにはお見通しのようだった。
姉の性格上、隠そうとすればするほどしつこく聞いてくる。
なので、素直に海歌との関係と、誕生日プレゼントで悩んでいることを明かした。
「実は、最近クラスに気になってる人がいてさ、その人の誕生日が8月の後半なんだけど、何をプレゼントすればいいか悩んでて。プレゼントを受け取る女性目線の意見を、ぜひ聞きたいなって」
「なるほどね。よし、初心者の陸翔に、このお姉ちゃんがアドバイスしてあげよう!」
「よろしくたのむ!」
「……と言っても、プレゼントの内容は、その人との関係性とか、その人の趣味嗜好とか、性格に合わせて選ぶべきだよね~」
スマホで『カップル 誕生日プレゼント』と調べ出した姉さん。
けっこう話に乗ってくれている。
「……俺の気になってる人って、俺の幼なじみなんだよ」
「え、そうなの?今の関係は、どんな感じ?」
「一緒にお昼ご飯食べたり、一緒に帰ったり、その幼なじみの家に行って遊んだり……そんな感じ」
「おお、めっちゃ仲良しじゃん。もう、何をプレゼントしても喜んでもらえるよ」
「昔からゲーム好きなんだけど、会うの小学生ぶりだったから、今の好みとか気に入ってるもの、正直分からないんだよな」
「そうねぇ……ゲーム好きなら、音がいいイヤホンとか、ゲーミングマウスとか喜んでくれるんじゃない?」
姉はアイスを食べながらも、プレゼントの提案をしてくれた。
確かに、イヤホンとかマウスは、ゲーム好きな海歌なら喜んでくれそうだ。
「まあ、思う存分に悩みたまえ陸翔くん!それも、恋愛の醍醐味だよ」
姉はアイスを食べ終え、ソファーから立ち上がった。
「――でも、一番大事なのは、プレゼントする相手を喜ばせたいっていう【気持ち】だと思うよ」
「気持ちか……確かにそうかも。ありがとう姉さん。めっちゃ参考になった」
「へへ、どういたしまして。末永くお幸せに~」
「母さんと父さんには、このこと絶対に言うなよ!」
「へへへ、どうしようかな~」
姉は不敵な笑みを浮かべていた。
「絶対に言うな!もし言ったら、マジでぶっ飛ばす!」
「はいはい、わたしと陸翔だけの秘密、ね」
「よろしく頼む」
姉は食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に向かって投げて、2階の自室に消えた。
いや、アイスの棒、ゴミ箱に入ってないし……
俺は床に落ちたアイスの棒をしっかりゴミ箱に入れておいた。
そして、海歌の母親から頂いた手紙を自室の机の引き出しの中にしまった。
さて、海歌へのプレゼントはどうしようか。俺は大いに悩んだ。
授業中も、バイト中も、そのことばかり考えていた。
(海歌へのプレゼントって、何がいいんだろう……海歌ってゲーム好きだから、ゲーミングPCとか?いや、高すぎるな。じゃあ、姉さんが言ってた通りヘッドホンとか?お菓子のほうがいいのかな……?海歌、甘いもの好きだし。待てよ、【モノ】にこだわる必要はないな……)
悩みに悩んだ末、俺が出した結論は――




