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おサボり常習犯

 10月上旬、ようやく風が涼しい季節がやってきた。

 高校は2学期を迎え、文化祭の時期となった。


 1年3組は、カフェを開くことになっている。


「木工用ボンド足りないんだけどー!」

「買い出し行ってきてね!」

「えーめんどくさーい」

「3年5組の教室で落語イベントあるらしいよ!」

「え、なにそれ。独特すぎて、ちょっと気になるかも」

「当日さ、一緒に回ろうよ!」

「いいよ。午後からなら行ける」


 授業から解放されたクラスメイトたちの話し声で、教室はにぎやかだった。 

 そんな中、俺は一人黙々と段ボールを切り出したり、廊下の壁にモールを飾り付けたりといった雑務をこなしていた。


 和気あいあいと作業するクラスメイトたちと、一人で作業する俺。自分だけ浮いている気がして、少し気まずい。


古谷ふるやくん、」


 よく通る声に呼ばれた。

 振り向くと、そこには、文化祭実行委員の一人であるミサキさんがいた。


「宮本さんがどこにいるか知ってる?」

「いや、知らないな」


 教室と廊下をぐるっと見渡すも、海歌は見当たらない。


 そういえば、文化祭の準備が始まってから一度も海歌の姿を見ていないが、まさか、サボり?


「そっかー。古谷ふるやくんなら知ってると思ったんだけどなー」


「ごめん」


「宮本さんのこと見かけたら、呼び戻してほしいな。伝えたいことがあるからさー」


「伝えたいことって? 俺でよければ、伝えておくよ」


「当日、宮本さんには【メイドさん】として接客してもらいたいの。だから、メイド服を持ってきてほしいって話。ちなみに、空ちゃんの提案ね」


「ああ、そういうことか……分かったよ。見つかったら伝えておく」


「うん。よろしくー」


 そう言い残して、ミサキさんは再びクラスの全体指揮に戻った。


(なぜ、ミサキさんが海歌のメイド服の件を知っているのか不思議だったが、空音経由で知ったのか……)


 空音は何でもかんでも人に話したがる性格なので、納得した。


 俺は廊下の装飾が終わってから、海歌を探しに行くことにした。


 海歌がいるとすれば、トイレか、保健室か、あるいは5階の空き教室。

 特に、5階の空き教室は人の出入りが皆無で、俺と海歌が一緒にお弁当を食べている隠れ家的な場所だ。可能性があるとすれば、そこだろう。


 俺は渡り廊下を歩いて隣の校舎へ移り、例の空き教室に向かった。


「やっぱり、ここに居たか」


 予想は的中。

 いつもの空き教室の一番奥の席に海歌が座っていた。


 しかし、両耳にイヤホンをしてスマホをいじっているからか、俺に気づいていないようだ。


 俺は忍び足で海歌に近づいた。


「わっ!!」

「あ、いたんだ、陸翔」

「リアクション薄っ。せっかくこっそり近づいたのに……」


 海歌はいつも通り、低い声を響かせた。微塵も驚いていない。


 彼女は文化祭準備をサボって、音ゲーをしていたようだ。


「なんでこんなところで一人ぼっちになってるんだよ?」


「だって、空ちゃんは実行委員会の仕事でいなくなっちゃうし、陸翔は廊下の飾り付け担当だし、二人以外に仲いい人いないし、ぶっちゃけ、準備めんどくさいし……」


 教室はとても静かだった。

 海歌のイヤホンからの音漏れと、吹奏楽部の練習の音が聞こえる。


「教室戻ろうぜ。空音と、ミサキさんが話したいことがあるって」


「前に言ったよね? 私は、陸翔がいるから学校に頑張って来てるの。その他のことは興味ない」


「な、なんて我がままな……」


 まあ、海歌の我がままは昔からだ。


 海歌は再び、忙しなく指を動かし始めた。


 一人でいたい、騒がしいところは嫌いだという気持ちは、俺自身も痛いほどに理解している。だからこそ、海歌を無理矢理に教室に戻すのは気が引けた。


 けれど、せっかくの青春の時間だ。


 クラスメイトとの関わりを少しでも持って、少しでも文化祭を楽しめたほうがいい。


「当日、メイド服で接客してほしいんだってよ」


「え……?」


「ミサキさんからの伝言。提案は、空音らしいけど」


「あー……ほんとあの子は、何でもかんでも喋るなぁ……」


 海歌は頬杖をついた。


「おっけー。あとで教室に戻るって言っておいて。メイド服は明日持ってくることも伝えておいて」


「お、その気になったか」


 意外にも、海歌はメイド服を人前で着ることに前向きだった。


「自分のファッションセンスには自信あるんだよね」


「そりゃ良いことだ。実際、海歌のメイド服姿、俺は可愛いと思ってるよ」


「……ありがと。そう言ってもらえると嬉しい」


 海歌は以前、SNSに自分のメイド服姿をアップしていた。

 心の底では「誰かに自分の容姿を褒められたい」という思いがあるのだろう。


「ふふ、後ろ」

「え、後ろ?」


 突然、海歌が上目遣いで俺を見て笑った。


 何ごとかと思って振り返る前に、俺は何者かによって抱きつかれた。


「わ!」

「うわっ!?」


 背後から抱き着いてきた小柄な少女――それは、空音だった。

 視界の端で、空音の金色の髪が揺れていた。


「どう?びっくりした?」


「あ、ああ……マジで心臓が止まるかと思った」


「やった! ドッキリ大成功!」


「空音、委員会の仕事は大丈夫なのか?」


「うん。打ち合わせ自体はもう終わってて、忘れてた書類も今、提出してきたところだよ~♪」


 空音は俺に抱き着きながら、ニコニコ笑っている。

 静かな空き教室の空気が、一気に明るくなった。


「ふふっ、陸翔と空ちゃん、考えること同じでウケる」


「海ちゃんが隠れるならここだろうなぁって思って来たの!」


「空ちゃんだけずるい。私も!」


 海歌はスマホを置いて立ち上がり、俺を正面から抱きしめた。


 正面には、海歌。

 背後からは空音。

 美少女と美少女のサンドイッチ状態だ。


「というか、気軽にハグしないでよ。陸翔は、私と付き合ってるんだから」


「あ、ごめんね! えへへ~」


「可愛く謝れば許されると思ってるでしょ、このっ!」


 海歌は、空音のもちもちな頬を引っ張った。

 空音は、いつにも増してニコニコ笑っていた。


「さ、さて。そろそろ教室に戻ろうぜ。こんなところ誰かに見られたら、変なウワサが立つぞ」


 美少女二人をはべらせているなんて噂が流れだしたら、学校に居づらくなって、今度は俺が不登校になりかねない。



 俺たちは空き教室を出た。


 よりよい文化祭の時間を過ごすために。

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