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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
死否谷《シブヤ》

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276/281

亜人商会②


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「リミさん!!」


 吉祥寺駅前に四カ所存在する聖碑が設置されている建物。


 その内もっとも駅から近い位置にある『リピア吉祥寺』の正面玄関から、大河を先頭に池袋に向かっていたメンバーが息を切らせて飛び出してくる。


 北町小から遠く離れた吉祥寺駅前。

 本来は数十分程度の距離しか離れていなかった筈のその場所は、拡大した廃都に於いては自転車やチュンチュでの移動でも丸一日ほど掛かる距離となっている。


 北町小を拠点に選んだケイオスは、聖碑でのファストトラベルを行うにはその一日と言う距離がどうしても必要だった。


 不便ではある。


 だが北町小の周囲の立地に敵対する可能性のあるクランの存在が無い事と、出現するフィールドモンスターのレベル帯とそのドロップ品と比率、そして多くのチュンチュを放牧するのに必要な牧草地と面積を考えると、現状では駅から丸一日分離れたあの立地が最適解だと判断したのだ。


「リーダー!! やっと来てくれた! とりあえずは建栄さんを止めて!!」


 駅前のバスロータリーで立ち往生していたリミが、大河の姿を見て安堵の息と涙を流す。


「建栄さん!?」


「私達が幾ら止めても、先に行くって聞かないの! 郁さんとお腹の子供が心配だからって!!」


 涙声のリミが差す場所に視線を動かせば、そこには秋也や他の戦闘班のメンバーに羽交い締めにされもがく建栄の姿があった。


「落ち着いて下さいよ建栄さん!!」


「そうっすよ! 幾ら建栄さんでもあの量のモンスターの群れを突っ切るのは無茶ですってば!!」


「郁さんや赤ちゃんの事が心配なのは分かるけど、海斗やリーダーが戻ってくるまで我慢してってば!!」


 皆その手に剣を持ち、必死に建栄の両手足と身体を押さえている。


「ぐぅうううっ!! これが落ち着いて居られるか!! 狙われているのはワシの子かも知れんのだ!! 後生だ!! 行かせてくれ!!」


 アスファルトに寝転び押さえつけられている建栄の右の先に、その愛剣である大盾剣ビッグシールダーが転がっている。


 建栄はケイオスでは大河と海斗、そして廉造と悠理の次にレベルが高い。


 レベルの数字的に言えば上から5番目だが、主な役割が戦闘員では無い廉造や悠理よりもその身体能力(ステータス)の数字が高く、そんな『咎人の剣』顕現状態の建栄を押さえつけるようとするならば、こうして複数人でかからないと無理であった。


「ああっ、もう!!」


 小声で詠唱を唱えた大河の右手に災禍の牙が顕現し、左手で髪の毛を掻きながら建栄へと駆ける。


「建栄さん落ち着いてくれ! もう少ししたら廉造や海斗さんも戻ってくるから!」


「リーダー頼む! 行かせてくれ!! 郁が! ワシの子が!」


 大河は今にも振りほどかれそうだったメンバーと位置を代わり、じたばたと藻掻(もが)く建栄の背中にしがみつく。


「ダメだ!! まだ状況がまったく分かってない!! 建栄さんが一人で飛び出したってなんの解決にもならないし! そもそもアンタが死んだら郁さんやお腹の子供はどうするんだよ!!」


 剣による身体能力(ステータス)の数値、その殆どを用いてそのずんぐりむっくりとした身体を押さえていても、気を抜けば今にも弾き飛ばされそうになる。


 それだけ建栄が必死だと言うことなのだろう。


「そうですよ!! 建栄さんだって見たでしょ!? あの頭おかしいくらいのゴブリンとデッカいバケモノの群れ!! あんなのに飛び込んだらアジトに辿り着く前に死んじゃうって!!」


「偵察に出てる奴らと海斗さんや廉造が戻ってくるまで待ちましょうよ! まだ向こうとは連絡が取れてる!! まだ三日の猶予があるんだってば!!」


「無策で飛び込んだってどうにかなるってもんでもないでしょうに!!」


 大河らがリミから連絡を貰って吉祥寺に戻ってくるまでの間、相当な時間をかけて暴れる建栄を宥めていたのだろう。


 みな顔や服に土埃をかぶり、髪の毛はボサボサである。


「まずは事態の確認と対策を練るのが先だ!! 向こうに残している人たちが心配なのは建栄さんだけじゃない!! 頼むから落ち着いてくれ!!」


 そう言って大河は建栄の首根っこを押さえてその背中に全体重をかける。


「ぐっ、ぐううううううっ!!」


 自分の身体能力(ステータス)より遙かに勝る大河に押さえ込まれようやく身動きが全く取れなくなったからだろうか。


 建栄は奥歯を噛み締めながら額を地面に数度打ち付け、悔しそうなうめき声を挙げて突っ伏した。


「はぁっ、はぁっ!!」


「よ、ようやく観念したぁ」


「気持ちは分かるんだけどさぁ」


 息も絶え絶えな他のメンバーは、まだ余力がある大河に後を任せて肩で荒い息を繰り返しながら地べたに座り込む。


「お疲れみんな、はい。これ飲んで」


 そんなメンバー一人一人に、悠理はラベルの貼られていないペットボトルを手渡した。


 暑さで水滴を纏わせたよく冷えた薄い青色のそれは、しゅわしゅわと泡立つ炭酸飲料だった。


「コレ何?」


 ペットボトルを受け取ったリミが、見覚えの無い


「私が調合した『ラムネポーション』だよ。怪我とかじゃなくて体力を回復させる効果があるの」


「へー、悠理ちゃんそんなの作れるの?」


「中野を出てからずっと試行錯誤しててね。味が安定してきたのは最近だけど、効果は自分で確かめて確認したから安心して良いよ」


 かつて中野の図書館で見つけた『調剤』や『調合』、『錬金』に関する書物を時間を見つけては読みあさり、独学ながらもコツコツと練習していた成果である。


「低ランクの調合品だから効果としてはあんまりだけど、わざわざ魔法を使うまでも無い体力の補給とかなら、こっちの方がコスパが良かったりするんだ。えっと、建栄さんもとりあえずこれ飲んで一回落ち着いてね」


 そう言って建栄の頭上に、小さめのペットボトルを置く。

 中身はどうやらコーヒー、それもカフェオレの様に見える。


「……す、すまんリーダー、悠理。だがワシは、郁や腹の中の子が心配で」


 顔を上げず小さな声で呟く建栄の姿に、もう拘束する必要は無いと判断した大河がゆっくりと身体を離す。


「それはみんな同じ気持ちだって。だから建栄さんが無茶しなくても、みんなでなんとかしよう」


 大河はそう言いながら悠理から『ラムネポーション』を受け取り、その蓋を回し開ける。

  

 身を起こした建栄は大河の隣にあぐらをかいて座り、悠理が置いたカフェオレを手に取って蓋を開け、そして口に含んだ。


「だ、だが……郁が妊娠したと知ったのは本当についさっきなんだ。亜人商会とか言う奴らがあの小学校に来たのは、他の子供達や郁のお腹の中の子供が目当てと向こうのメンバーからメッセージが届いて……わ、ワシはそれを知って居ても立って居られず……」


「だ、だからって一人で飛び出さなくても」


 普段は冷静な建栄がこうまで動揺するほどに、心配で堪らないのだろう。


 その気持ちは理解できるが、ここに来るまでにメッセで報告を受けた内容が確かならば、建栄一人でどうこう出来る事態ではない。


 むしろ単独行動が事態をより悪化させる可能性だってありえる。


「こ、こうしてる間にも郁や腹の中の子が、あ、あの気持ち悪いチビのバケモノどもに何かされてるんじゃないかと考えると──や、やっぱりワシだけでも先に『シールドバッシュ』であのモンスター共を突破して!!」


 グビグビとカフェオレを一気飲みし、建栄は空のペットボトルを握りつぶしながら勢いよく立ち上がる。


「建栄さんダメだってば!!」


「ちょ、また!?」


「もういい加減にしてよ!!」


 大河と他のメンバーが慌ててその身体に纏わり付き、なんとかその動きを制止させようと試みる。


 しかし謎の馬鹿力を発揮した建栄は、大河を含めた五人ほどの人間の力を持ってしてもその歩みを止めず、じりじりと前進を始めた。


「ええい止めてくれるなリーダー! ワシは郁が!! 腹の子が──ぐぅ!!」


「うわぁああ!!」


「ちょ、あぶなっ!!」


「い、いきなり倒れるなぁ!!」


「あだぁっ!!」


「お、重いぃいいっ!!」


 全力でその太い身体を引っ張っていた皆が、唐突に脱力した建栄の身体と共に盛大に後方へともんどり打つ。


(いった)いなぁもう!!」


 さすがにちょっと頭に来た大河が、覆い被さるように倒れ込んだ建栄の身体を雑に突き飛ばしてどかした。


「いい加減にしろよな! 建栄さ──ん?」


 顔からアスファルトに突っ伏す建栄は、大河や他の苛立ったメンバーに何度か身体を揺すられたが、ピクリとも動かない。


「こ、この親父……っ! ね、寝てやがる!?」


 その顔を覗き込んだ秋也が見た物は、とても安らかな寝顔であった。


「えええっ、なにそれ! 幾ら何でも唐突が過ぎる!!」


「情緒不安定にもほどがあるわよ!!」


 幾ら何でも目まぐるしすぎる建栄の姿に、他のメンバーから非難の声が上がった。


 みな少なからず苛ついていたのだろう。


 そんな一同を尻目に、悠理は建栄が握りつぶした空のペットボトルを拾い上げ、顎に手を当てて思案する。


「ふむふむ、こういう感じで効果が現れるのかぁ……睡眠薬のまま使うよりも強いなぁ」


「ゆ、悠理……?」


 誰よりも冷静な悠理のその姿に、大河の背筋に悪寒が走った。


「あ、さっき建栄さんに渡したカフェオレにね? 睡眠薬と牛乳を組み合わせた『ぐっすりホットミルク』が入ってたの。本来は〝不眠〟のバッドステータスを治すためのアイテムなんだけど、とりあえずまずは建栄さんを落ち着かせようと思ってさ」


「一応助かったけどさぁ……お、お前が中野を出てから調剤とか合成とかにハマってたのは知ってたんだけど……後でどんなアイテムが出来上がったのか全部教えてくれないか?」


「うん? もちろん。今まで作った薬とかアイテムはちゃんとリストアップして纏めてあるよ?」


「そ、そうか……」


 その穏やかな笑みにどこか含みを感じ、大河の口角がヒクヒクと痙攣する。


 兎にも角にも、これでようやく落ち着いて状況確認ができそうである。

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