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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
死否谷《シブヤ》

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269/280

攻略開始①


「三年?」


 吉祥寺北町小学校、正面玄関の下駄箱を抜けてすぐ目の前にある職員室。

 その広い部屋の中央で、ワーキングチェアに座る大河に愛蘭が問いかける。


「うん」


 大勢のメンバーに囲まれて、大河はシステムデスクに拡げた綾の日記を見ながら頷く。


 地雷天使レナとの邂逅と女神アウロアを名乗る親友の仇の襲来から、すでに一夜明けている。


 あれからレナはすぐに空へと飛び立ち、 名残惜しそうに大河を見ながら新宿方面の空へと消えていった。


 あまりにも沢山の事実に翻弄された大河の精神は尋常じゃ無いほどすり減り、それから程なくして意識を失うように眠ったと言う。


 大河本人は眠った記憶が無いので、全ては今朝起きた後に悠理から聞いた事だ。


 それから午前中を頭の整理に費やし、そして夕方。


 こうして子供達と子供達の面倒を見るメンバーを除いたケイオスの全ての面子が大河を囲んでいる。


 まず大河が打ち明けたのは、この世界が自分の親友──物心付いた頃からずっと一緒に居た幼馴染みが妄想していた架空のゲームを元にした世界に変貌していると言うこと。


 そしてその幼馴染みが、何者か──つまりは女神アウロアを名乗る遠い宇宙から来た超常の生命体に利用され、その命を自ら絶ったこと。


 そして女神アウロアが語った事が事実であり、地雷天使レナの言葉に導かれてこの吉祥寺を目指していたこと。


 それらを時間を掛けて説明した。


 そしてこれから話す事が、今後のケイオスの──いや、大河の行動指針。


「綾が繰り返し見た夢──100年以上見せられたテストプレイでは、巡礼者(プレイヤー)は何らかの理由で三年目を超えられていない。つまりあの異変から三年……もう二年も残ってないし詳しい日付まではわからないけど、その時に廃都中の巡礼者(プレイヤー)が全滅するようなナニかが起こる……」


「んなこと言われたってよ。何があるかもわかんねぇのに、どう対処すればいいんだよ」


 大河の対面、システムデスクに頬杖をついて、行儀悪く海斗がため息を吐く。


「この日記に書かれている綾の言葉が真実なら、今の俺らのレベルがシンプルに足りてないのと、まだ廃都の攻略を全然していないのが、三年目を超えられていない理由である可能性が高い」


 トントンと、今朝すぐに回収しに行った綾の日記の表紙を叩く。


 親友の日記を大勢の前で晒すのはかなりの抵抗があったが、もう背に腹は代えられない。 心の中で綾に謝りつつ、大河は日記を手に取りパラパラと眺める。


「本当なら聖碑で何度も死に戻りして少しずつ攻略する想定だった世界(ゲーム)だ。だけど今の廃都じゃ死んだらそれっきり、もう一回(リトライ)なんて許されない。だから綾が見たテストプレイの巡礼者(プレイヤー)達は、この世界(ゲーム)の攻略なんてする余裕もなく、生きていくだけで精一杯だった。だから三年目に間に合わなかった──って綾は書き残している」


「つまりそれぞれの街のイベント……例えば中野で言えばクラン・ロワイヤルみたいなのを一つずつ攻略していけば、いずれその三年目のナニかについて知れるようなイベントにぶつかるかも知れない──って事か?」


 廉造の言葉に、大河は無言で頷く。


「この世界(ゲーム)はその時その時でアイツがハマってたゲームの要素を節操なく詰め込んだ世界だ。アイツが一番好きだったのはオーソドックスなRPGで、シナリオがえげつないのが特にお気に入りだったのは知ってるけど、それ以外にもアクションRPGから各種シミュレーション……育成ゲームから脱衣麻雀や弾幕シューティングにアドベンチャーゲーム、インディーも含めるとそれこそ数え切れないくらいのゲームを一通り手広くプレイしてた。だから俺にはそのナニかが見当もつかない。廉造、秋也さん。思い当たるゲームイベントを知らないか?」


「えー……そんな急に言われてもなぁ」


 海斗の後ろに立って腕組みをしていた秋也が、首を傾げて考え込む。


「時間制限付きで……アクティブプレイヤー全員を巻き込んで……ゲームオーバーかそれに近い状況までシナリオに食い込むイベント……」


 ワーキングチェアでクルクルと回りながら、廉造はブツブツと呟く。


「一番最初に思い出せるのは、ソシャゲかなぁ……クリスマス翌日くらいから大晦日にかけて高難易度のレイドボスバトルが複数用意されてて、大晦日までにそのボス全部倒さないとダメって言われてて……でも結局大晦日よりもかなり早くクリアされちゃったせいで、負けるとシナリオがどうなるかは分かんなかったんだよなぁ」


「ソシャゲは──あんまりハマってた記憶ないなぁ。そもそもアイツ、スマホを買って貰ったの中学二年の時だったし……」


 秋也の話す内容を吟味しながら、大河はテーブルを右手の人差し指でトントンと叩く。


「有名なMMORPG(ネトゲ)でさ。最初期に発売したバージョンがかなり不評で、発売元が傾き掛けるぐらい叩かれたゲームがあったんだよ。運営もこれはマズイってなって、全てを作り直して一から再スタートする事になってさ。その時のシナリオが、最初のバージョンの世界を一度滅ぼして、新しいバージョンは違う世界からリスタートする──みたいな」


「全部作り直しとは、思い切ったな」


 廉造の言葉に、海斗が目を見開いて驚いている。


「グラフィックからシステムから、なにから何まで新しくしようとしてたんだ。継続して遊んでくれる既存プレイヤーを納得させる為なんだろうけど、世界をリセットさせる説得力をゲームイベントと連動させて持たせたんだろうね。これ、かなり有名な話だよ」


「ネトゲ……かぁ。やってるとこは見たことないけど、綾の父親(おじさん)が確か凄いハマってるって聞いた事はあったなぁ」


 背もたれに身体を預け、大河は腕を組んで考え込む。


「新條君、たしかTRPGもやってたよね?」


 大河が飲み干した湯飲みに新しいお茶を煎れて運んできた悠理が、テーブルに湯飲みを置きながら問いかけた。


「やって……たか? いや、誘われた事はあったけど、説明が細かすぎて付いていけなくて断ったことなら何度か」


「受験シーズンに入る前に、新條君とオタ研の子達と部室で盛り上がっているの何度か見たよ?」


「んじゃぁ……俺がこの街を出た後の話だなソレ。ていうか、お前よくTRPGなんて知ってたな?」


「パパが海外の人とPCで何度かセッションしてるの見たことがあるんだよね」


 大河のすぐ横のワーキングチェアに腰掛けながら、悠理は記憶の中から掘り返すように続ける。


「TRPGなんてそれこそプレイヤーの数ほどシナリオやイベントがあるじゃん。そんなのからインスピレーションを得たってなると、ここで僕らががん首揃えて考えても絶対辿り着けないって」


 大きなため息一つ。

 廉造は背もたれからずるずると腰を滑らせてみっともない姿勢で弛緩した。


「考え出すとキリが無さそうね。アンタとしてはこのままここで──みんなと一緒に生活を続けるだけじゃなくて、世界(ゲーム)を積極的に攻略していかないといけないって思ってるって事?」


 愛蘭は隣の廉造の頭をピシッと軽く叩き、姿勢を正させながら大河を見て問いかけた。


「今のままのペースじゃ、多分間に合わないんだろうなって。俺ら以外の巡礼者(プレイヤー)が他の街のイベントを攻略してくれているなんて楽観的に考えてちゃ、多分手遅れになる」


 大河と悠理が異変開始時に新宿を出てここ吉祥寺まで、この一年と少しで攻略できたと思われるイベントは三つ。


 ノーム達の強制イベントである岩石のシーラカンス『ラティメリア・ファミリア討伐戦』。


 池袋の都市を解放するイベントである『ルーインズオブセイレーン』。


 そして中野の覇者を決める戦い、『クラン・ロワイヤル』。


 その中で直接的に世界観に関わるような大きなイベントと言えば、一つの都市を水没から解放した『ルーインズオブセイレーン』のみ。


 ノームの強制イベントはセイレーン湖を渡る手段を得る為でしか無かったし、イベント内容も指定モンスターの討伐というシンプルな物。


 クラン・ロワイヤルに関してはケイオスの前にクラン〝覇王〟が既に一度勝利している、いわば焼き直しだ。


 唯一規模の大きかった『ルーインズオブセイレーン』ですら、イベントの内容から考えて初期イベントの一つでしか無い可能性が高い。


 つまり一年もの時間を掛けて、命を何度も危険に晒してまで戦っても、大河らはこの世界(ゲーム)の設定の片鱗にすら触れられていない。


 残す時間は約二年。正確には一年と十ヶ月と数日。


 今のままのペースで近隣の街のイベントを片っ端から攻略したとしても、とてもじゃないが間に合うとは思えない。


 そもそも、どこにどのようなイベントがあるかすら把握していないのだ。


「最大の問題は、移動時間か」


 顎に手を当てて考え込む建栄が、ボソリと呟いた。


「だな。中野からここまで来るのに二ヶ月だぜ? 今の拡大しすぎてる東京を全部回るには、二年じゃ短すぎやしないか?」


「兄貴、僕らがここまで二ヶ月も掛かったのはみんなでゆっくり移動してきたからだよ。子供達も居たしね。少人数ならもっと小回りも効くし、かなり速くなると思う」


「ワシのように、重すぎてチュンチュ達が乗せるのを嫌がらなければの話だろ?」


「んじゃあ例えばパーティー二組、八人でそれぞれチュンチュに乗って出来る限り速く移動したとしても、また中野に戻るのに一ヶ月……もうちょい速いか?」


「途中途中で食材を集めたりオーブを稼いだりを考えると、それくらい掛かると思う。ただ目的地に着くだけじゃなくて、ちゃんとレベルも上げておかないとだし……」


「じゃあなおさら時間が足りねぇじゃねぇか」


「それをどうするかって話じゃん」


「もっと強くて速いモンスターをテイムするのはどうだ? そうすればワシみたいなのでも速く移動できると思うんだが」


「例えば?」


「例えばと言われても、ワシはそんなにゲームに詳しくないから答えられないんだが……」


 海斗、廉造、建栄がそれぞれ向かいあって、あーでもないこうでもないと議論を白熱させていく。


「一つのパーティーだけじゃなにかあった時、怖くない?」


「でもリーダーや海斗さん見たいな高レベルの人が拠点を長く留守にするの、怖く無いっすか?」


「他のクランからの襲撃にも備えておかないとだしな」


「じゃあ、シュウのレベルをガンガン上げて──」


「え、なんで俺?」


「いや、どっちかと言うとシュウより郁さんやリミさんを──」


「ていうか、みんなの平均レベルを上げておかないとじゃん? そろそろ愛蘭さんや瞳さんのレベルも10くらいまでは──」


「拠点に残す人数はどれくらいが──」


「食料を確保するにも人手が必要だし──」


 ざわざわざわざわと、ケイオスのメンバーらがそれぞれまとまりの無い議論をそこかしこで展開していく。


 大河はそんな騒がしい声を聞きながら、綾の日記をじっと眺めて考え込んでいた。


「はいはい!! 話がまとまらなくなってきたでしょうが! ちょっと静かに!!」


 勢いよく椅子から立ち上がった愛蘭の一喝で、皆が一斉に喋るのを止めた。


 ケイオスの統率力はなかなかの物である。


「大河、なにか考えがあるんでしょう?」


 黙りこくった大河の肩に、悠理がそっと手を添えた。


 大河はその手の上に自分の手を重ねて、静かに頷く。


「今まで俺らが出会った巡礼者(プレイヤー)……信頼できるクランに、俺の持っている情報を共有するべきだと思う」


 日記から顔を上げて、メンバーそれぞれの顔を見る。


「ほとんどの人には信じて貰えないと思う。三年目に何かがあるって、信じて貰えるような証拠も無いし。だけどこの広い廃都をたった二年で行き来する為には、俺らだけの力じゃ絶対に無理だ」


 大河の頭の中に浮かんでくるのは、池袋の瑠未。そして新宿の島。


 今まで出会った中でも、とりわけ信頼出来る大人達であり、それぞれがほどほどに大きなクランを運営している。


 他にも中野で助けて逃がした巡礼者(プレイヤー)の何人かが、元々小さなクランを運営していたり、中野から脱出後にクランを結成していたりするが、いかんせん実績という点で心許ない。


「んで、情報を共有してどうすんだよ」


 海斗の言葉に、大河はゆっくりと立ち上がり、そして窓の外を見る。


「聖碑間のネットワークを構築する部隊を、それぞれ出して貰うんだ」


 大河が向いている方角には、新宿がある。


 新宿から先の、東京の東側がどうなっているのかは一切分からない。


「言うなればポータルネット……各街の聖碑に触れる事だけを目的としたパーティを一斉に東京中に散らせて、ネットワークが構築する間に俺らはイベントの攻略に専念する。これしか、間に合う方法は無いと思う」


 一度触れた事のある聖碑と聖碑を瞬間的に移動する方法、つまりファストトラベルのネットワークさえ構築できれば、距離の問題は一気に解決する。


「……その間に攻略するイベントって?」


 悠理の問いかけに、大河はスマホを取り出して画面を見せた。


「朱音さんだよ」


「朱音さ──あっ」


 何かに気づいた悠理は、自分のスマホを急いで取り出し、『ぼうけんのしょ』のメッセージ機能を開いた。


「俺と悠理の知り合いが、ちょっと前から連絡が取れなくなってる。フレンドリストの名前は消えてないから、生きているのは間違いない。俺らが中野に居た頃と同じ様に、その街から出れなくなってたりする場合、メッセが届かない様になってると思うんだ」


「なるほど、つまりその知り合いは今正になんらかのイベントの渦中にいる可能性が──」


 廉造の言葉に、大河は頷いた。


「うん、高い。そしてその人──朱音さんは今……」


「渋谷を目指しているって、言ってた」


 最後に届いたメッセージを確認した悠理が、ボソリと呟いた。

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