逃避行
十二月ですね!!
死ぬほど忙がしくなって来ました!!
なので毎日更新ができません!! マジ○ァック!!
年明けちょっとまで不定期になる可能性が高いです!!
本当にごめんなさい!!
てわけで!!
一番えげつないかも知れない、渋谷編のスタートです!!
人目を避けるように。
二つの人影が音さえ吸い込むほどの静寂を駆けていく。
「はっ、はっ、はっ!」
「お、おにいちゃ、まって、まって」
先を行くのは、ニット帽からはみ出た黒髪を耳にかからない程度に伸ばした少年。
歳は小学生──高学年になったばかりくらいだろうか。
後を追うのは、そんな少年よりもかなり小さい女の子。
肩口まで伸ばした黒髪をもこもこのマフラーの中に入れている。
色違いのお揃いのダウンジャケットに身を包み手を繋いで走る二人は、やはり体格と体力の差が大きいのか、少女が少年についていけなくなり脚をもつれさせている。
「はっ、ひ、柊っ、はやくしないと気づかれる」
「あ、足が痛いのっ。うぇ、足の裏が痛いからっ、だからちょっと待ってぇ」
寒風吹きすさぶここ──渋谷の街を、二人の子供が大通りでは無く──裏通りを行く。
目に溜めた涙の粒が、ぽたりぽたりと。
地面に積もる雪に落ちて消えていく。
だけど兄と呼ばれた少年は、妹である柊の涙声の制止の言葉に一切耳を貸さず、走りづらい雪道をひたすら前へ前へと進んでいく。
「お、お兄ちゃぁん」
「止まってる場合じゃないだろう? せっかく逃げてこれたんだ。もしもう一回捕まったら、今度は俺らが〝先に〟使われちゃう。我慢してくれ柊。あのお姉ちゃんの言うことが本当なら、ここから新宿方面に向かって走れば、あの人たちの村ってところに──っ!?」
瞬間、兄を息を呑んで足を止め、妹の手を引きその身体を抱き寄せた。
「お、お兄ちゃ──むぐっ」
「しー!! 静かに!!」
キョロキョロと辺りを見渡し、近くにあった雑居ビルの階段を見つけ、胸の中の妹を抱き上げてできるだけ音を出さないように走る。
「ふぅっ! ふぅっ!!」
妹はまだ小さいとは言え、人を一人抱えて昇る階段はとても辛く、あっという間に少年の体力を奪っていく。
妹──柊は、そんな必死な兄の表情を見上げながら、身体を恐怖で強張らせた。
「ひ、柊っ。この中に入ってろ」
「お、お兄ちゃんは?」
少し古めかしいアパートも兼ねているこの雑居の、二階部分。
押し込められたのは、玄関ドアの横に設置されているガスメーターなどが収納されている金属製のドア。
柊はその中で足を抱えた状態──いわゆる体育座りの状態で収まり、雪に反射された逆光で眩しい兄の顔を見上げている。
「心配すんな。俺はアイツらが通り過ぎるのを見てないと……っ!」
音が漏れないように静かに扉を閉め、少年は身を屈めた。
雑居ビルの二階、廊下部分の手すりの隙間から、外の道路をゆっくりと覗く。
『柊ちゃ~ん!! 多佳良く~ん!!』
『出ておいでよ~!!』
『ご飯まだ食べてないでしょう~?』
『お外はとっても寒いよ~?』
『お友達も寂しがってるよ~?』
聞こえてくるのは、何人もの大人達の気持ち悪い猫撫で声。
女の人の声も、男の人の声もする。
そんな遠くから二人の事を呼ぶ声が、雪に反響しここまで響いてくる。
『君たちは何かを勘違いしているんだ~』
『オンマガ様は君たちを救おうとしているんだよ~?』
『何も怖いことなんか無いよ~』
『君たちが戻ってくれれば、たっくさんの人たちが幸せになれるんだから~』
雑居ビルの二階から見える大通り。
そこを十数人の大人達が足早に通り過ぎていく。
身につけている紫色の長い帽子と、手には咎人の剣。
話している言葉は優しい響きだが、その見開かれた目は焦りと怒りに満ちていた。
(こんなに早くバレるなんて……)
少年──多佳良は身を伏せながらじりじりと後退りをし、柊を隠した扉を背もたれとして息を整える。
「お、おにい、お兄ちゃん……柊、こ、怖いよう」
「大丈夫。大丈夫だから。俺がお前を絶対に守ってやるから。死んだ父さんや母さんの代わりに、俺が」
扉を挟んで二人、幼い兄妹が励まし合う。
身に付けているダウンジャケットが、とても心許なく思える。
頬を刺すような冷気が、小さな二人の心を容赦なく責め立てる。
「お、おとうさっ、おかあさ──ぐすっ、うえっ」
「柊、泣いちゃダメだ。泣いたら〝あの大人〟達に見つかっちゃう。もう少し、もう少し我慢して」
「う、うんっ、が、がまんする」
「あのお姉ちゃんから聞いただろ? 渋谷の外側には、アイツらから俺らみたいな子供を助けてくれる、ちゃんとした大人の人たちが村を作ってるって」
「う、うん。き、聞いたっ」
「そこに行けば、きっとご飯もたくさん食べられるし、暖かくして寝れる。それまで頑張ろうな? あとで兄ちゃんの分のクッキー、二人で分けて食べよう」
「お、お兄ちゃんのクッキー、残してたの?」
「ああ、兄ちゃん。あのときはあんまりお腹空いて無くてポケットに入れてたんだ。だから後で柊と半分こだ」
「うわぁ……やったぁ」
「だから頑張れるよな? 柊は良い子だもんな?」
「うんっ、頑張る」
「よしっ、いひひ」
「えへへ」
冷気でキンキンに冷えた金属の板を挟んで、兄と妹は笑い合う。
両親が死んでそろそろ一年、二人はこうして互いを支え合い、この渋谷を生きてきた。
人が人で無くなる街。
かつて東京のメッカとも言われ、世界中から人が集まってきたこの渋谷も、今では閑散とした景色がどこまでも続く、一年を通して雪に覆われた異界へと変貌した。
自分達がまだ子供で、大人の庇護が無ければ生きてはいけない事を知っている賢い二人は、それでもできる範囲の努力を懸命に繰り返し、今日までなんとかやってこれた。
先月、あの〝大人たち〟に捕まるまでは。
(あの姉ちゃん……ちゃんと逃げれたかな……)
紫色の気持ち悪い帽子を被った、子供を集める〝大人〟の集団。
そこから多佳良と柊を逃がしてくれたのは、そんな集団に紛れこんでいた〝普通〟の大人──女性だった。
この兄妹の様に、タイミングを見計らっては他の捕まっている子供達を逃がしていると教えてくれたが、こんなにも早く二人を探す〝大人〟が現れたという事は、あの女性ももしかしたら無事では無いのかも知れない。
(……今は、俺らの──柊の事だけ考えれば良いんだ)
ぶんぶんと頭を振って、今生存する為に必要な事以外を脳みそから追い出す。
ゆっくりと立ち上がり、手すりからそーっと顔を出して、雑居ビルの周囲を伺う。
「今……なら」
音を出さないように金属のドアを開けて、中で丸まっている少し眠そうな柊の肩を揺らした。
「柊、もう少し先に行こう」
「う、うん……」
ぐしぐしと毛糸の手袋で目元を擦り、柊はそーっと立ち上がる。
二人しっかりと手を繋ぎ、滑りやすい階段をゆっくりと降り、道路をキョロキョロと見渡して、そして二人は無言で頷き合った。
「はっ、はっ、はっ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
勢いよく飛び出て、さっきの〝大人〟達が進んだ方向とは逆の道を選んで走り出す。
一面真っ白になるほど積もる雪の銀世界。
ここは渋谷──いや、死不谷。
死を否定される谷。
幼い二人の兄妹が、白い闇の中に消えていく。




