厚かましい依頼②
時間帯変えて投稿してもあんまりご新規さん増えないみたいなんで、また明日から0時更新に戻しますねυ´• ﻌ •`υ
ご迷惑をおかけして申し訳ない……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はいはいみんなー!! さっさとこんな場所からはとんずらするわよ!!」
会談から戻ってきた矢先、明らかに不機嫌な愛蘭が休憩中のケイオスのメンバーらを急かす。
ロータリーに全てのバスを止め、子供達とチュンチュを遊ばせていたメンバーらは、愛蘭のその様子に面喰らった。
「おらおらちみっ子たちー! チュンチュの雛をバスに積んで頂戴! 他の人たちは拡げてたテントを撤収!! 急いで急いで!!」
もうすぐ夕方が迫るこの時間帯、ここで一泊するもんだと思っていたばかりに既に寝床用のテントを拡げ始めてしまっていた。
愛蘭の檄の声にわたわたと、子供達や大人達は忙しなく動き始める。
「な、なんだなんだ。なんでアイツあんな怒ってんだ?」
愛蘭の視界から逃れるようにコソコソと逃げてきた海斗が、大河に耳打ちする。
「いやー、まさかあんな厚かましい事言われるとは思ってなかったからねぇ」
大河の代わりに返答したリミも、そのこめかみをピクピクと痙攣させていた。
「愛蘭さんじゃなくてもキレるでしょあんなん」
腕を組んでしみじみと、思い出すように秋也は頷く。
「なんだよ、お前らもキレてんのか? 一体何があったってんだ」
「ディフェンダーズをコテンパンにした俺らが、ここの住民全員の面倒を見るべきだってさ」
「は?」
大河の言葉に、海斗は首を傾げた。
「あんな奴らでも、ここに住む七百名弱の住民の食料供給と治安維持に役立ってたらしいんだよ。かと言って今までの傍若無人っぷりは許されてはいなかったみたいでさ。それでアイツらを懲らしめてくれたのは有り難いんだけど、この先の自分達の生活はどうしてくれるんだって、数人がかりで詰められたの。俺ら」
海斗に説明しながら、大河は冷ややかな目で撤収作業を見つめる。
愛蘭ほど露骨では無いが、内心煮えたぎるほどの怒りを抱えているのだろう。
「七百名、そんなに住んでたのかここ」
「不思議でしょ? たった四十人程度であんなに弱かったディフェンダーズが、それだけの人数の食料をどうまかなってたか、聞きたい? 俺は頭がおかしくなりそうだったよ」
大河にしては珍しく、刺々しい物言いをする。
「そんなロクでもなかったのか?」
「ロクでも無いも何も、人身売買でオーブを稼いでたって言うんだから」
「は?」
想像していなかったワードに、一瞬海斗の思考が真っ白に染まる。
「ここの近辺、武蔵関とかそこらへんまでのエリアの弱いコミュニティを回って、人を攫ってたんだよアイツら。食料とオーブを渡すか、それともそのコミュニティから余分な人員を引き渡すかの二択を迫ってさ。んで攫ってきた人達を、三鷹にある幾つかの大きいクランに高値で売り渡してたんだ」
「はぁ!?」
「それで、さっきの会談。吉祥寺駅前の四つのクランの代表が待ち構えて居てさ。アイツらの代わりに俺らがその仕事を引き受けろって。いやー、俺も愛蘭さんもブチ切れたよね」
言い終えた大河はギリギリと奥歯を噛み締める。
それはつまり、ディフェンダーズの横暴には憤慨していたが、彼らの所業をアテにしてここら一帯のコミュニティは成り立っていたと言うこと。
会談で顔を合わせた四つのクランの代表達はなぜか被害者面をしていたが、彼らも立派な奴隷売買の共犯者である。
「んでそこの公園の処刑場あったでしょ。あれさ、ここのクランの住民を処刑した事一度も無いらしいよ」
「いや、でもよ。パッと見ですぐわかるくらい使い込まれていたし、血の匂いだって──」
「ここの人たち、なんかやたら偉そうなのなんでかなーって思ってたんだ。そしたら『ここは例えれば城』だってさ。要するに、この駅周辺に住めるのは吉祥寺でも選ばれた人間だけで、少し離れた場所に幾つもある小さいコミュニティの人らから搾取しながら生活してんの。もう笑うしか無かったよね」
工房やショップ、そして高層マンションに妖精達が営む各種商業施設。
今の東京の生活にとって必要不可欠な物がこの駅には全て存在する。
いや、ファーストフード店やラーメン店に、高級レストランまで。
かつては一般的だったそれらも全て取りそろえられているとあれば、この周辺が特別扱いされるのも理解は出来た。
「あの処刑場も、近くのクランの反抗的な人たちを見せしめで処刑する為の物でしか無かったってわけ。廉造が言ってた『スリーアウト制』、アレもここの人らには殆ど適用されてないらしいよ?」
呆れた様に、大河は鼻で笑う。
先の会談に集まったのが各クランの代表達だからなのかと思っていたが、一般の住民にまでその選民思想が深く根付いていた。
傍若無人なディフェンダーズを打ち倒したケイオスに向けるあの敵意の視線も、要するに『余計な事をした』と思われていただけの話だ。
「周りの小さなクランが結託して反抗勢力を作らないようにコソコソと動き回って、常に数の有利が取れるよう維持してたって話だよ。聞いてもいないのにペラペラと喋ってきたのは、俺らを軽視しているか、それとも焦っているのかは分かんなかったけど」
そんな胸くそ悪い話を聞いたからには、この場に長居する理由は無い。
たった一度のアイコンタクトでここから離れる事を決めた大河と愛蘭は、代表らの話もそこそこにすぐにここに戻ってきた。
「なるほど、そりゃキレるわな」
「正直ここの人らが死のうがどうなろうが、もう知ったことじゃないね」
「同感だ。んじゃ俺も撤収作業を手伝ってくるかな。さっさとこんなクソみたいな場所からはおさらばしてぇしな」
ひらひらと大河に手を振って、海斗はテントを畳んでいるメンバーらの元へと駆けていった。
大河はそんな海斗の背中を見送った後、背後を振り返り駅ビル──『リピア吉祥寺』の建物を仰ぎ見た。
(これが、俺らの故郷の成れの果てか)
悠理ほどでは無いが、僅かばかりの愛着があった。
郷土愛もあったし、この地の思い出もある。
しかしもう、大河が知る吉祥寺では無くなってしまった。
異変が、『東京ケイオス・マイソロジー』の世界観がそうさせてしまったのか。
それとも元々、この地にはそういう素質のある者が多かったのか。
人を売り買いする事になんの罪悪感も持たない鬼畜の巣。
そんな魔窟に成り下がった今の吉祥寺の姿が、とても悲しい。
仕方が無かったと、代表の一人は堂々と言いのけた。
そうする事でしか、このコミュニティは維持できなかったと。
周辺から人を攫い、それを余所のクランへと売り飛ばす行為を正当化したのだ。
売られた人がどうなったかは、彼らにも分かっていなかった。
つまり、本当にただの商品としてしか見ていなかったのだ。
(悠理や愛蘭さんが居なかったら、全員皆殺しにしてやったのに)
大河の心の奥深く、悠理ですら容易に触れることのできない場所に存在するドス黒い感情が、ざわざわと波立つ。
ここまでの旅程で、そして中野での祐仁との一件で、確かに変質してしまった大河の価値観が、外道どもの殺害を肯定している。
悪人であろうと殺人を躊躇した新宿。
身に降りかかる火の粉に対しては容赦の無かった目白。
そのコミュニティに子供などの庇護対象が居るのならば、守護者として戦えた池袋。
そして自分を頼りにしてくれる弱者であるならば、その身を盾として導く覚悟を固めた中野。
そうやって少しづつ変容していった命への姿勢が。あの祐仁の言葉を耳にしてまた変わっている事に、大河は気づけていない。
吉祥寺のコミュニティは、ケイオスに対して敵意こそあれど被害は与えていない。
そして多くの子供達が居て、彼らは大河を──ケイオスを頼ろうとした。
状況は決して正義に傾いていないが、少し前の大河なら間違いなく多少の動揺を見せただろう。
だが今は、もはやその命の価値すら見いだせていない。
『本当に救われるべき弱者の選別』
あの中野で、あの祐仁がそう語った思想が、今の大河に根付き始めている。




