吉祥寺報告会議
最近は毎日0時に投稿をしてるんですが、どうやらご新規さんがあんまり見つけてくれないみたいで、ちょっと時間帯を変えてみようと思います。
あと、自分じゃどう頑張ってもこの小説のサブタイトルが思いつかなかったので、どなたか良きアイデアがあればご協力をお願いしたいですυ´• ﻌ •`υ
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「ウチのツートップとは言え、この光景だけ見たらかなり恐ろしいわね……」
「戦いの体にすらなってなかったな。ワシは向こうに心底同情する」
「同感、絶対に敵に回したくないわ」
愛蘭、建栄、リミが三人並んで腕を組みながら目の前の光景にあきれ果てている。
大河と海斗がディフェンダーズと戦闘を開始して、時計は五分も進んでいない。
その短い時間で、今や吉祥寺駅前ロータリーは死屍累々──いや、あれだけの力量差を見せつけながら誰も死んでいないと言う事実が、余計に空恐ろしさを感じさせる。
「なんだよお前ら。偉そうな事言ってた割にはあっけねぇ。そこらの雑魚モンスターの方がまだ手応えあったぞ?」
「俺と海斗さん二人を相手取るにはレベルも戦闘経験も、何もかもが不足してる。なんで全員が一気にかかってきたのか、意味が分からない。アレじゃ一網打尽もいいとこだ。何人か後詰めで待機させるとか──ていうか魔法職を前衛に出すとか正気か? もう少し連携とか意識した方が良いよアンタら」
堆く積もったディフェンダーズのメンバーの身体に向かって、二人は容赦の無い言葉を浴びせかける。
体調も万全だったし士気も高まっていた。
そんな二人を相手取るには、ディフェンダーズの面々は余りにも格が足りていない。
ただレベルが高いだけの二人では無い。
今まで生存する事だけを考えてきた他の巡礼者と違い、大河も海斗もそれぞれの理由で積極的にこの廃都を攻略してきた猛者なのだ。
多くの強敵と渡り合い、傷を負い、その身を削ってまで研ぎ澄ましてきたその刃は、もはや同レベル帯のソレとは一線を画す。
意識の差と言えばそれまでだが、何も考えずレベルだけを上げてきた巡礼者では、この二人と渡り合う事は難しい。
「なっ、なななっ、なんでこんなっ、たった! たった二人だけに!!」
ただ一人戦闘に参加せず偉そうにふんぞり返っていた時任は、目の前の光景に圧倒され、ロータリーを囲むビルの壁へと追いやられていた。
その表情がたったの五分間で愉悦→驚愕→恐怖→絶望へと変わる様は、見ようによっては愉快だったかも知れない。
白目を向いて気絶していたり、うめき声を上げて助けを求める仲間の姿には一切目もくれず、ただ自らの保身だけがその脳裏を埋め尽くしていた。
この吉祥寺は、そうでなくても他のエリアよりモンスターが弱い。
ディフェンダーズの面々だってそれは承知していた。
隣の三鷹や杉並に一歩踏み入れば、それだけでフィールドモンスターに太刀打ちできなくなるからだ。
だから彼らは、この一年間必死に吉祥寺に引きこもった。
井の頭公園の手前、浅いエリアのモンスターであるならばまだ余裕を持って討伐が可能だったのも悪い。
それだけで食料に困らないとあれば、わざわざ公園の奥まで出向いて強いモンスターを相手取る必要が無かったからだ。
なので今まで、数に物を言わせて圧倒する──という戦法でしか戦闘をした事が無い。
時任の理念──浅ましく穢らわしい思想に賛同したチンピラは数だけはやたら多かったお陰で、頭数だけは充分以上に揃える事が出来てしまったせいでもある。
要するに、彼らは楽をしすぎたのだ。
これは何も、時任やディフェンダーズの面々だけが悪いと言う訳では無い。
誰だって死ぬのは怖いし、危険を避けて効率を求める。
その観点から言えば、今までのディフェンダーズの日々は圧倒的に正しい。
おかしいのは、大河達ケイオスの方だ。
常に戦い続けなければこの吉祥寺に到着できなかった。
無理や無茶を通さねばあの中野を突破できなかった。
悲しいかな、その環境の違いがケイオスとディフェンダーズの意識の高低差を浮き彫りにした。
「リーダー! 後ろのヤツらもぶん殴っといたよ!」
「正直殺さないで行動不能にさせる方が難しかったな」
「レベルが違うと【業火】の威力があんなに変わるんだな……」
「それ! びっくりした!」
「なんか普通に戦闘するよりも骨が折れた気がする」
ぞろぞろと、バスの後方から戦闘班の皆が談笑しながら向かってくる。
ディフェンダーズの増援を迎撃する為に向かわせた人員だ。
その数は六名。
向こうは十五名で数の上では不利だったが、海斗のお墨付きもあってなんの心配も無く送り出せた。
結果は上々だったようだ。
「大河! 秋也から報告! 監視してたヤツらも片付けたってさ!」
愛蘭がスマホの画面を見ながら声を張り上げる。
「了解! んじゃその人らを拘束してこっちに連れてきてって伝えてくれ!」
災禍の牙を納剣させながら、大河は愛蘭に返答する。
「さて……と」
パンパンと服にまとわりついた埃を振り払い、大河は時任へと視線を向ける。
「とりあえず全員縛って、情報収集しよっか」
「なんかそっちの方が面倒くさそうだな」
「確かに」
あっと言う間に片付いた戦闘と違い、一人一人を縄で縛り上げる方が手間がかかりそうだ。 海斗の言葉に苦笑して、未だに恐怖と絶望で震え続ける時任の顔面を一発殴る為に、ゆっくりと歩き出した。
教師の分際でまだ中学生だった悠理を口説こうとした大罪を、忘れた訳では無いのだ。
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「駅ビルの近くに工房とかショップが集まってるみたい」
「悠理ちゃんが言ってた通り、ちょっと離れたとこに図書館もあったよ!!」
「聖碑の場所も四カ所、しっかり確認できた」
「リーダー、あのビルの住民の代表って人が話がしたいって」
「こっちもだ」
「私らのとこも」
「どうやらこの吉祥寺は、四つの大型商業施設にそれぞれ一つずつクランが生活してて、治安活動はあのロリコン眼鏡達に委託してたみたいだ」
「だからちゃんとした戦力のあるクランはほぼ無いと見て間違いなさそう」
「しばらく戦ってみたけど、フィールドモンスターからはあんまり食材がドロップしないっぽい」
「中規模クランが食える程度に機能している狩り場は、井の頭公園ぐらいしか見当たらないんだよなぁ」
「愛蘭さん、試しに後でこの素材を幾つかショップで売ってみよう。たぶんあんまり高くないと思うんだ」
「ここで生活していくには、狩り場の管理が凄い重要になってくると思う」
二時間後、大河の指示に従って周辺の探索に乗り出したメンバーが再びロータリーに集合し、知り得た情報を報告してくる。
大河と廉造はその情報を一つ一つしっかりと吟味しつつ、『ぼうけんのしょ』アプリの地図機能を見ながら現在の吉祥寺の情勢を脳内で補完していた。
「廉造、まとまったか?」
「ある程度ね」
バスロータリーの隅っこにバスを全て停め、ディフェンダーズのメンバーは全員縛り上げ近くの銀行の中に放り投げて放置している。
目を覚ました者から恨み言や罵声が飛んでくるが、この程度の悪意であればケイオスのメンバーは全員聞き流せる。子供達とは距離を離してあるので何も問題は無い。
「皆の者! 一旦傾聴!」
やけに芝居がかった廉造の言葉に、皆がピタッと雑談を止めて視線を大河へと集めた。
「んじゃここまでの情報の共有、始めるよ」
右手に持つスマホをチラチラと見ながら、廉造は続ける。
静かにその場に座り込んで廉造を見上げているメンバーの目は真剣そのものだ。
「まずこの吉祥寺──いや、吉祥寺駅前に存在するクランは大まかに分けて四つ。そこの駅ビルである『リピア吉祥寺』と、通り向こうの『ムラタデンキ吉祥寺』。駅向こうの『武蔵野講演堂』と、その向かいの『吉祥寺カドイ』。それぞれ拠点にしてる商業ビルの名前がそのままクランネームになってるみたいだ」
一つ一つのビルの方向を指さす。
「他にもちっさいクランが幾つかあるみたいだけど、大体どこもこの4つのクランと同盟関係っていうか、共生してるらしい。なんていうかこう、派閥争いじみた小競り合いも頻発してるってさ」
「小競り合い?」
廉造の言葉に、愛蘭が割って入る。
「あのディフェンダーズって奴ら、自分たちの自警活動に対して協力的だったクランに対して貢献度を割り振ってたんだ。月ごとにリセットされるその貢献度──要はポイントだね。それを元に、食料の配給までコントロールしてたらしい」
「協力的……ねぇ……」
愛蘭のその表情は、明らかに怪訝。
自分たちに有利で都合の良い法を整備したディフェンダーズにとって、協力的とはつまり従順度を示す言葉に他ならない。
「たとえばクランの治安を乱すような個人間での喧嘩だったり、窃盗だったりはまだ理解できるんだけどさ。人前で恋人同士が手を繋いではいけないとか、貧しい人の目の前で食べ物を食べるのは嫉妬と格差を誘発するとか、そういう風紀を乱す行為に対する処罰とかいういちゃもん──まぁ、想像できる範囲のやりたい放題が行われたっぽいよ」
「つまり貢献度って言うのは、そういうのを告げ口した人に与えられてたって事だよね?」
「うわ、ゲシュタポかよ……」
悠理の疑問に、秋也がボソリと呟いた。
「ゲシュタポってなに?」
隣のリミが秋也に問いかける。
「昔のドイツの──うーん、秘密警察で合ってたかな? 当時の体制や軍に反抗的な市民を見つけては難癖付けて連行したり粛正したりして支配してたの。市民は疑われたくないから、率先して密告したり、通報したりして、最終的にはご近所さんですら信用できない空気になるって寸法」
「最悪じゃん」
「最悪だよ」
眼鏡キャラに相応しいのかどうか、軽めの説明でリミを納得させた秋也はどこか満足そうだ。
「もういい? 話を戻すよ?」
その説明が終わるまで待っていた廉造が、苦笑しながら二人に問う。
「あ、どうぞ」
「邪魔してごめんね?」
秋也とリミは姿勢を正して廉造に続きを促す。
「それで、この吉祥寺駅前では住民曰く『スリーアウト制度』ってので罪が裁かれてたみたいだ」
「スリーアウト? なんで急に野球?」
海斗の問いに、廉造は軽く頷いた。
「殺人や強盗、強姦以外の軽い罪は、二回までなら軽い罰則で済むけど、三回目からは有無を言わさず処刑──だから三つ目でアウトって意味で『スリーアウト制度』」
「……なんかどうとでも取れるようなふわっふわな制度だな。軽い罪って要するに何よ」
「軽めの窃盗から喧嘩、後は人前で酔っ払ったり、女性を口説いたり……ディフェンダーズに反抗的だったり、指示に従わなかったり。その時のディフェンダーズの気分で罪が決まる感じ」
「なんだそりゃ」
海斗はディフェンダーズを監禁している銀行に向けて、呆れ果てた視線を向けた。
「なんでそこまでアイツらのいいなりになってるの?」
「アイツらは異変が起こった後、真っ先にクランを結成してレベルを上げまくったみたいなんだ。狩り場の独占もそうだし、聖碑の発見もそう。要は全部の行動が早くて後に続く人を押さえつけてたんだね」
新宿や池袋、そして中野と違い、狩り場が限定されるこの吉祥寺では行動が早い者ほどレベルを上げやすい。
周辺でオーブを稼ぎやすい場所が井の頭公園しか無く、そこさえ独占できればシステムに順応するのが遅かった者から稼ぐ手段を奪える。
そこに目敏く気づけたのが、あの時任だったのだろう。
「上がってきた報告を聞く限りだと、ディフェンダーズはかなり恨まれてるみたいだよ」
「当然だよな」
「そりゃそうよ」
「残当」
うんうんと頷くメンバーらに、黙って廉造の報告を聞いていた大河は思わず苦笑する。
「今んとこ、取り上げるレベルの報告はこんぐらいかな? 僕としてはここにわざわざ拠点を構える理由は無いと思うんだけど、地元組の二人はどう思う?」
廉造は目の前に座る悠理と隣に立つ大河を交互に見やって問いかける。
大河は悠理と数瞬目を合わせ、その意思を汲み取った。
「俺も悠理も、別にここに執着しているつもりは無いよ」
「私たちの住んでた場所はもう少し先に行った所だから、あえて駅の近くに住む理由は見つからないかな? 懐かしくて思い入れのある場所である事は間違いないけど、今のところ住みやすさは感じないし」
地元組である二人の意見を聞いて、廉造は大きく頷いた。
「じゃあ、みんな。ここじゃなくて別の場所で拠点を探すのに異論はないよね?」
「なーし!」
「ここなんか空気がどんよりしてるしな」
「辛気くさい」
「いくみちゃんの学校も見つからないしね」
「子供達にとってあんまり良い環境じゃないのは間違いないよな」
「チュンチュ達を放牧できそうな場所も無いし」
「食料を集めるのもちょっと手間だしな」
メンバーから出る思い思いの意見に耳を傾けて、廉造は最後に大河を見る。
結論が出たと断定した大河は、一歩前に出て大きく手を叩いた。
「んじゃ、あのディフェンダーズの馬鹿共はここのクランの人々に引き渡すとして、俺らはもう少しだけ旅を続けようか。クランの代表って人たちは、俺と廉造と愛蘭さんで話を聞いて終わりにしよう」
大河の言葉に、皆異論無く賛成の声を上げた。




