いたって平凡で退屈な旅路
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「廉造、ここどこらへんだと思う?」
「んー? 時々見る建物の特徴を考えるとたぶん西永福あたりだと思うんだけど……僕ここらへんあんまり詳しく無いんだよね」
もう深夜二時を回った夜半、焚き火の光に照らされた大河の問いに、中野で購入した住宅地図と睨めっこをしていた廉造が答える。
一般的な地図と違って詳細な建物名や戸建ての所有者すら書かれている、工事関係の業者が良く扱う高価な地図だ。
「電車の中から見る西永福なら覚えてんだけど、わざわざ歩いて来ないからなぁ。そもそも山とか川とか池とか増えてるし。地元が近いとは言え、こうまで変わってたら俺にもさっぱりだ」
「ああそっか、吉祥寺から井の頭線で渋谷まで行くと西永福は通過駅だっけ。中野の熱帯雨林を迂回しているから仕方が無いけど、元々の距離を知っていると納得は行かないよな」
「あの森を進むよりは速いと思うんだけど……どうなんだろうな?」
「少人数ならもしかしたら森を突っ切る方が速かったかも知れないけど、ウチは大所帯だから確実にこっちの方が効率的だし速いと思うよ」
「俺やお前の判断が間違ってない事を祈るばかりだよ。ふわぁああ……ねっむい……」
ここは宿泊施設でもないただの市街フィールド。
ケイオスはいつモンスターに襲われても対処できるように、戦闘班を4つに分けて当番制で夜番をしている。
子供達はバスの中。
大人はその周囲にキャンプ用のテントを沢山並べて就寝しているが、やはりちゃんとした床ではないので、そろそろ疲労が隠せなくなってきている。
それはもちろん、大河や廉造も例外ではない。
現在ケイオスは、中野の熱帯雨林を抜けて渋谷区である笹塚に辿りつき、甲州街道に沿って杉並区へと侵入した。
今まで見てきた街を考えると渋谷や杉並がどんな変化をしているかわからなかった為、旅を始めた当初は皆大分ピリついていたが、拍子抜けするほど変化が無い。
土地が拡張されていたり、本来在るはずの無い山や川、湖や池に林や草原などの本来は仰天するような変化はあるのだが、例えば池袋の様に湖に沈んでいたりだとか、中野の様に熱帯雨林に囲まれていたりの様な、所謂コンセプトに基づいた変化は一向に見受けられなかった。
疲労の蓄積や旅慣れてきたのもあって、現状ケイオスのメンバーの間に倦怠感のような気の抜けた空気が蔓延し始めている。
「これが本当だったらさ。中野駅から中央線に沿って二時間も歩けば辿り着ける距離なんだけどね」
「青梅街道を道なりにまっすぐ進めば吉祥寺だ。なんも考えずにまっすぐ自転車走らせれば一時間前後だよ。昔は良くそうやって遊んでた」
「つくづくあの熱帯雨林が邪魔すぎるなぁ。そういえば吉祥寺って武蔵野市だっけ?」
「住所的にはな。隣の西荻窪の駅が杉並だから、良く勘違いされるけど」
「ていうか、よくよく考えたらお前や悠理の実家って吉祥寺にあるんだろ? 凄いな。金持ちじゃん」
「んー……まぁ、悠理はともかく俺の場合は普通だよ。俺の実家の位置的に吉祥寺駅よりもヘタしたら別の路線の武蔵関駅の方が近かったし……って、お前に金持ちって言われたくないぞ。国民的アイドルなんて年収何億も貰えちゃうんだろ?」
「さぁ? ちっさい頃から収入のほとんどが僕じゃなくて両親の口座に振り込まれてたし、どれだけ稼いだかよりどれだけ仕事が多かったかくらいしか気にしてなかったから、自分の口座の残高を見たこと無いんだよね」
「なにそれ」
「子役あるあるなんだけどさ。小さい頃から芸能の世界に入った子の親って、子供の収入の事で揉めて離婚しちゃうんだよね。ウチもそう。だから僕にとってお金って喧嘩の元でしか無くて、好きなゲームや漫画が買えて食べたい物が好きに食べられればそれで良かったんだよ。事務所にお願いしてどれだけ収入が多い月でも決まった額を僕個人の口座に入れて貰ってたから、全体の年収を気にした事無かったんだ」
「な、なんか反応に困るな。羨ましがれば良いのか、大変そうだったのはなんとなくわかるけど」
「別に僕自身が大して気にしてないしねぇ。両親なんてここ数年、片手で数える程度しか顔を合わせてないし。嫌いなんだよね。あの銭ゲバ達」
「ふ、ふぅん……」
そんな他愛ないのか、それともちょっとしたスキャンダルなのか判断に困る会話を続けながら、二人は焚き火の周りでまったりと眠気を噛み殺す。
もうすぐ周辺警戒に出ているメンバーが戻ってきて、大河と廉造が交代で一度見回れば、もう朝だ。
クラン『東京ケイオス』の旅は、こんな退屈なルーティーンを繰り返して少しづつ進んでいる。




