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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
インターミッション

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241/283

そして……③

すいません!!

前の話で久しぶりすぎて椎奈の一人称間違えてました!!!


私じゃくてボクっ子です!!

訂正済みです!!


ごめんな椎奈!!

お前これから酷い目に遭うかも知れないってのについうっかりうっかり!!(テヘペロ)


 大型の観光バスが並んで二台は通れるほど広い道を、クラン『東京ケイオス』の一団が進んでいる。


 先頭を行くのは海斗率いる先頭班の前衛部隊。

 その後ろを子供達と生活班のメンバーを乗せたバスが七台続き、その周囲を残りの戦闘班が巡回しながら護衛している。


 全ての避難巡礼者(プレイヤー)、そして先行して解放同盟のメンバーらを中野から脱出し終えたのは先週の事。


 住み慣れた東中野第二小を出発し、熱帯雨林の森へと侵入したのが、六日前。


 クラン・ロワイヤルを勝利し、やるべき事や旅の準備を全てやり終え、こうして満を持して中野から旅立つまでに、きっちり三ヶ月が必要だった。


 準備期間を長く置いたおかげで今に至るまで大した混乱も無く、唯一の懸念であった子供達の不安感もどうやらそこまででは無かったようだ。


「シュウ兄ちゃんかっこよかったよ! シュウ兄ちゃんなのに! 不思議!」


「ねぇ凄かったよねぇ! 秋也兄ちゃんじゃ無いみたいだった!」


「もっかい!! 今度は火の魔法使ってみて!! ねぇもっかい!!」


「ダメだって! 前にリーダーが言ってたでしょ!! 魔法を連発したら倒れちゃうかもしれないって! シュウちゃん倒れちゃうじゃん!」


「あ、そっか……シュウ兄ちゃんだもんね……」


 狭いバスの中に閉じ込められている窮屈さこそどうにもならないが、バスの外で繰り広げられているモンスターと戦闘班の戦いが丁度良い娯楽となっているようで、子供達は大河や海斗だけでなく普段は滅多に褒めない秋也にすらキラキラとした視線を向けている。


「お前らは俺をなんだと思っているんだ!! 普通に褒めてくれても良くない!?」


 相棒のチュン三郎の背中で、秋也はルナアーチをぶんぶんと振り回しながら抗議の声を上げた。


 大河はその様子を苦笑しながら眺めていた。


「子供達、まだ大丈夫そうだね」


 大河の後ろには、同じチュンチュに跨がった悠理が必要以上に密着している。

 そのせいで大河はただでさえ熱気がうだる熱帯雨林の中、悠理の体温の分だけ余計に汗をかいている。

 

 中野の街を出てからは大人は簡単な水浴びだけで風呂を済ませているため匂いが気になり始めているが、悠理にとっては些末な事──むしろ大河の体臭が強くなるほど密着度が増している気もしないでもない。


「ああ、チュンチュの雛が遊び相手になってくれているお陰もあるかもな」


 そういって大河は自分と悠理を背に乗せてくれているチュンチュの首を、優しく揉んだ。


「ぢゅぅん」


 野太い声が特徴的な大河の愛鳥『チュンリッヒ』が嬉しそうに身をよじりながら鳴いた。

 ちなみに命名したのは子供達である。


 チュンリッヒは群れのボスに次いで大きな身体を持ち、片目に大きな傷跡のあるチュンチュだ。


 右の羽に真っ赤な布を巻いているのがもう一つの特徴で、どうやらチュンチュは群れとして巡礼者(プレイヤー)にテイムされると、個別に識別できるように自らフィールドで装飾品を見つけてくる習性がある様だ。


 動物としてそれはちょっとどうなんだ──と大河は訝しんだが、見分けが付きやすくなると言うのは重要なので、問題無しとしている。


「リーダー! 海斗さんからもうすぐ森を抜けるって伝えて欲しいと言われて来ました!!」


「おう、ありがとな。後ろの愛蘭さんや建栄さんにも伝えてくれ」


「はい!! いきましょうクラウドくん!!」


「ぢゅっ」


 伝令役を任された千春は元気良く返事をすると、愛鳥の『クラウド』の頭を優しく撫でてバスの後列方向へと駆けていった。


 クラウドはこのチュンチュの群れのボスであり、一際大きな身体を持ち、尻尾に赤いバンダナが巻かれているのが特徴である。


 勿論命名は子供達であり、一番最初に名付けられた。


「ちゅっ!」


「ぢゅんぢゅーんっ!」


「ちゅちゅちゅっ!!」


 チュンチュ達は千春の姿を見るや否や、嬉しそうに次々と鳴く。


「みなさん、お仕事ご苦労さまです!! 今日の夕ご飯はごちそうが出るらしいので、頑張ってくださいね!」


『ぢゅーーーーんっ!!』


 千春の言葉に翼を拡げて声を合わせ、一斉に鳴いた。


 テイムしたのが千春なので、基本的にチュンチュ達は千春の言うことはなんでも聞くし、千春が撫でると他のメンバーが撫でるよりも嬉しそうにする。


 温厚で愛嬌があり、普通自動車程度なら成体一匹で牽引できるほど力が強く、また騎乗すればかなり速く移動できるチュンチュは、今となってはケイオスに欠かせない存在だ。


 現時点でその総数は雛を合わせて56羽。


 調子に乗って増やしすぎた感は否めないが、普段の食事は道ばたの雑草で済むし、自分で砂浴びなどをして身綺麗にするので世話も楽。

 家畜やペットとして、まさに理想的な存在であった。


 その有能故に、先に外へと送り出した同盟や避難民たちが執拗にチュンチュを欲しがったが、千春や子供達にとっては最早家族も同然。

 なんの苦労もせず、信頼関係も築けていない赤の他人に譲るなどもっての外だと、ケイオスのほとんど全てのメンバーが満場一致で断った。


 それほど皆、チュンチュの存在に助けられていたのだ。

 

 力仕事や騎鳥としてだけで無く、その愛くるしい仕草や見た目で癒やされてもいる。


 バスは基本的に、三匹の成体チュンチュが一台を牽引している。

 同盟や避難民に譲った分を差し引いて、七台がこの引っ越しに使われていた。


 子供達の分が三台。

 生活班のメンバーが使用しているのが二台。

 戦闘班の休憩用兼ちょっとした荷物が詰め込まれているのが二台。


「いくみ」


 縦一列に進む車両の丁度中間に位置する車両にチュンリッヒを並べた大河が、窓越しに車内に声をかけた。


主人(あるじ)様……しー。みぃちゃんがねんねの時間」


「ごめんねリーダー」


 車内最後列の一番横長い席でいくみと美守、美守の母親である有美が並んで座っている。

 母親に抱かれて穏やかな寝息を立てている美守。それを隣で嬉しそうに覗き込んでいるいくみの図となっていた。


「おっと、ごめんごめん。いくみの体調はどうかなって思ってさ」


「まだすっごいだるい。やっぱり新しい身体に移るまでは、ずっとこんな感じなんだと思う」


「そっか。吉祥寺に着いたらできるだけ早く新しい学校(からだ)を見つけるつもりだから、それまでは申し訳ないけど我慢してくれ。欲しいもんがあったら遠慮無く言えよ」

 

「うん……ありがとう主人(あるじ)様」


 大河の言葉にいくみは嬉しそうに笑う。


 管理すべき建物(からだ)から分離した生体管理核は、レベル1の巡礼者(プレイヤー)身体能力(ステータス)より遙かに劣る強度しか持たない。


 モンスターの襲撃に晒されれば容易く命を落としてしまう状態なので、大河がほぼつきっきりで守っている形だ。


 この状態のいくみは常に体調が悪く、ちょっとの距離を歩くだけでも息切れを起こしてしまうので、大河としては心配で目が離せない。


「ふふっ」


 大河の背中で、悠理がなにやら楽しそうに笑った。


「どうした?」


 チュンリッヒに方向を指示する為のたずなを握りながら、大河は首だけ振り返る。


「ううん、大河が子供に優しい人で良かったなぁって思ってね?」


「うん?」


 それのどこが笑いに繋がるのか理解できなかった大河が、小首を傾げる。


「私達に子供が生まれたら、きっと良いパパになるんだろうなぁって」


 悠理は大河の背中により密着し、頬を添えて目を瞑る。


「お、おう……」


 そんな自分の彼女の言動を可愛らしく思う反面、どこか薄ら寒い怖気を感じ、大河は簡単な相づちしか返答できなかった。


『森を抜けるぞーーー!!』


 遠く先頭を往く海斗の良く通る大きな声が、熱帯雨林に響き渡る。


「……ようやく、だね」


「ああ、もう少しで……吉祥寺に戻れる」


 新宿、高田馬場、目白、池袋──そして中野。


 本来の東京であれば半日も掛からぬ旅程。


 だが悠理と大河は、一年かけてようやくここまで来れた。


 とりあえずの旅の目的地。


 悠理の帰るべき家があり、帰宅を待つ両親が居るであろう故郷。


 吉祥寺。


「大河……」


「ん?」


「私ね。パパとママの事……覚悟はしてるから……」


「……ああ」


「だから、もしそう(・・)だった時……ううん、そう(・・)じゃなくても……大河はずっと側に居てね?」


「……当たり前だ」


 この無慈悲な廃都を一年も旅すれば、おのずと悟ってしまう。

 自分の両親は、死んでいる可能性の方が高い事を。


 もちろん、生きている希望だって捨ててはいない。


 だがしかし多くの死を見てきて、多くの悲劇を経験してきた悠理は、そんな都合の良い夢をもう見ることはできない。


 ケイオスの子供達の殆どが孤児だ。


 美守の様に父親か母親、片方を亡くしている子も居る。


 今の東京ではありふれた現実だ。


「うん……嬉しい」


 大河の背中に頬を擦り寄せる。


 この頼もしい熱さえ隣に居てくれたら、きっとどんな辛い事にも耐えられる。


 悠理にとって、大河は全てなのだから。


「わぁ……っ!!」


「出たぁー!!」


「ここ中野のお外!?」


「うん! あそこ笹塚だって!!」


「ぼくしってるよ! まえにママときたことあるよ!!」


「わたしも!! パパとママがいきてたころにきた!!」


 ケイオスの車列が眩しい光を抜けたその先に、新しい光景が広がっていた。


 辛く悲しい記憶を引きずりながら、しかし皆で寄り添い強くたくましく現実を生き抜いてきたクラン『東京ケイオス』。


 子供達の歓声と、大人達の安堵の声を聞きながら、大河は一人考える。


(綾……お前は吉祥寺(あそこ)に、一体何を遺した……?)


 大河が心からの疑問を投げかけても、しかし東京(せかい)は何も答えない。 





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





『盟主がこの都市を離れました。支配者の座は現在、空席となっています』


 中野の支配者である常磐大河が居なくなった中野の街に、女性──地雷天使ラナの分割思考による冷淡な声が響き渡る。


 中野と言う土地に愛着があり、捨てられなかった。

 前支配者の時代、暴虐が許されたあの頃を忘れられなかった。

 新参のクランであるケイオスに迎合するのを、プライドが許せなかった。

 自分の怠惰や振る舞いの始末で、皆に中野に置いていかれた。


 そんな様々な事情を持つ巡礼者(プレイヤー)が、今もこの都市には沢山存在している。

 人口で言えば、ケイオスの帰還事業のせいで以前の半分にも満たない。

 しかし依然としてここは、かつて東京都の都心部として多くの生活者を抱えた都市の名に恥じない程度には、人が残っている。


 少なくとも生活に強力なモンスターの討伐やダンジョンの攻略が直結している他の都市に比べれば、遙かに多い。


『これより第三回クラン・ロワイヤルを開始致します』


 そのアナウンスに、巡礼者(プレイヤー)達はにわかに騒ぎ始めた。


 かつてその目で見た支配者たちの振る舞い。


 暴力と理不尽と、そして快楽が横行していたクラン『覇王』が支配していたあの頃。


『前任の支配者が存在しない為、今回のクラン・ロワイヤルはオーソドックスルール。サードステージが最終決戦となります』


 かつては支配『される』立場だった。


 しかし東京ケイオス──常磐大河の活躍により、恐れるべき強者達のほとんどが死んだ。


 だからこそ、沸き立つ。


 今度は、もしかしたら自分たちがこの中野を支配出来るのではないか。


 あの傍若無人が許されていた、特別な椅子に座れるのではないか。


『皆様、振るってご参加頂きますよう宜しくお願い申し上げます』


 そして繰り返す。


 誰しもが欲に塗れ、あの悲劇を繰り返す。


 人の愚かさは、決してとどまる事を知らない。

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