親睦遊園地デート
週末に親睦デートこと親睦会が行われた。
以前来たことのある遊園地に向かう。
駅で待ち合わせをして、揃って電車に乗った。
音恋は、ワンピースに白いコート。髪はカール。漆黒の艶やかな長い髪が白いコートに映える。
美月は、ロングスカートとブラウンのコート。
桜子は、短パンにニーハイブーツとオレンジ色のコートを合わせていた。そしてシュシュでポニーテール。
小暮は、丈の短いライダージャケットに、白いブラウスにニット。スキニーパンツにロングブーツ姿。髪はいつものように後ろで、シュシュでお団子にしていた。
「小暮先輩スタイルいい!」
「ええー美少女のひめちゃんの方がいいよー」
桜子に褒められて、小暮も笑って褒め返す。
黒巣は、音恋を見た。口を開こうとしては閉じる。
「褒めたらどうだい? 黒巣くん。見惚れるほど綺麗だって」
「なっ! 思ってないし!」
咄嗟に否定してしまう黒巣。本心ではない。
音恋は振り返ると小首を傾げる。
「なんでもないからな!」
「はいはい」
「はいはいってなんだよ」
わかっている、と言う意味を込めた音恋の頷きに、黒巣は少し赤面した。
「そう言えば聞いたよ。今度入学する純血の吸血鬼くん達は常識人なんだって?」
声を潜めて小暮は、その話題を持ち出す。
「そうなんです。アメデオやリュシアンとは違い、礼儀正しくていい子達でした」
「それってさ、ネレンが相手だったからじゃねーのか?」
音恋に続いて、橙が口を開く。
半分吸血鬼の音恋に、礼儀を尽くしたと推測する。
「いいえ、そんな感じではなかったです。一人は人懐っこそうな性格で、二人は物大人しい性格の吸血鬼でした」
「……想像つかねえな」
「アメデオからリュシアンを引いた感じです」
「さっきから本人を目の前にして酷い言い様だね」
リュシアンは、それでも笑みを崩さなかった。
それを聞いて、小暮はお腹を押さえて笑う。
「みやちゃんのモルダヴィアくんの扱いが……」
「笑い過ぎですよ、木葉先輩」
「ごめん、ツボに入った」
笑い続ける小暮に対して、リュシアンは悪い気はしていない様子で眺めていた。
そんなリュシアンを見て、黒巣も音恋も密かに目を合わせる。
「でもこれで危惧していた問題が起こらないなら、安心だね。ナナ」
緑橋が控えめに発言した。
「肩の荷が下りたってもんだ」
「そうかい? 箱入り吸血鬼が何も問題を起こさないとは思えないけどね」
「……」
肩を竦めた黒巣に、リュシアンは意地悪なことを言う。
「まぁその時は風紀委員も協力するよ、生徒会長」
ポンっと黒巣の肩を、小暮は叩いた。
「お前、ほんとどうしたんだよ。前はそんな協力的じゃなかっただろう?」
橙は怪訝に小暮を問いただす。
「えー? そんなことないよ」
「いいや。お前は生徒会に積極的に関わることなかっただろ」
「んーまぁ……桃塚先輩が苦手だったせいかもねー」
「はぁ? 桃塚先輩が苦手だぁ?」
誰もが好いている桃塚前生徒会長を苦手と言う小暮が、理解出来ないと橙はしかめっ面をした。
音恋達も注目する。
「私って、化けるモンスターは苦手なのよねー……」
ぼやいた言葉を聞き、リュシアンは意味深に小暮を見つめた。
遊園地に着けば、女子陣の意見を中心にアトラクションに乗った。皆が楽しんだ。
「あ、射的がありますよ。小暮先輩、やってください!」
「射的? プレッシャーだな。あ、あのウサギ可愛い。獲ってやろう」
桜子にせがまれて射的の前に連れていかれた小暮は、景品のウサギのぬいぐるみを狙う。大きなぬいぐるみだ。
「こんなの楽勝でしょ。いつも動く的を狙い撃ちしてるんだから」
黒巣が言った。
「んー愛用なら話は別だけれどねぇ」
言いながら、射的用の銃を構える。
小暮の放った弾は、見事100点を倒した。
「すごい小暮先輩!!」
「お見事です」
「流石ですね、小暮先輩」
桜子、美月、音恋が賞賛する。桜子に関しては大はしゃぎ。
「それほどでも」と言いながら、小暮は景品を受け取ろうとした。しかし、横からリュシアンが取り上げる。
「ボクが持ちましょう、木葉先輩」
「あ、ありがとう、モルダヴィアくん」
薄ピンク色の大きなぬいぐるみを片腕で抱えたリュシアン。彼の上半身ほどの大きさだ。
それを見て、小暮は笑い出す。
「あはは、モルダヴィアくん。ウサギ似合うね! 撮ってもいい」
「いいですけど」
お腹を抱えつつ、小暮はケータイを取り出してカシャリと撮った。リュシアンは嫌がらなかったが、不満げな表情を浮かべる。
「……先輩。リュシアンと呼んでいいですよ」
「えー、モルダヴィアくんって早口言葉言えたみたいで好き」
「……人の名前で勝手に達成感を覚えないでくさい」
「ごめんって。でも本当ウサギ似合うね」
結局リュシアンとは呼ばなかったが、二人は良い雰囲気だ。リュシアンは小暮の笑顔を見つめているように見える。
音恋達は邪魔しないように、黙ってやり取りを見ていた。
「なー休憩タイムといこうぜ」
そこで橙が提案する。反対する者はいなかった。
「桜子、あのベンチで休もうぜ」
「え? ええ!?」
橙は桜子の手を掴んで、離れたベンチに連れていく。誰も止める者はいなかった。
「あー楽しいなぁ」
「は、はい……」
橙と二人きり。桜子は途端に緊張で固まった。しかし手は繋がれたままだ。それが余計に意識させてしまうのだろう。
「橙先輩、もっと楽しまなきゃ損ですよ!」
「いいよ、十分楽しんでいるしな。それに」
休んでいる場合ではないと桜子はまた遊びを再開しようとしたが、橙は手を握って止めた。
「お前と居たい」
橙は真っ直ぐに桜子を見つめて告げる。
桜子が顔を赤くしていると、橙は顔を近付けた。
「だ、だめです!」
もう片方の手で桜子は遮る。
「もういいだろう、桜子。俺のこと嫌いか?」
「き、嫌いじゃないです」
「じゃあ好きだろ」
「す……わ、わからないですっ」
橙の瞳に熱がこもった。握る手にも力が入って、桜子を離さないと言っているようだ。
「本当に、俺とキスするの、嫌か?」
「……っ」
これでもかというくらいに真っ赤になって、桜子はオロオロしてしまう。
橙は桜子の指に自分の指を絡めた。
「俺のこと、好きだっていい加減認めろよ」
「……せ、先輩……」
遊園地の賑わいが遠ざかるほど、熱く見つめ合う。
桜子はもう拒めなかった。
承諾と受け取り、橙はもう一度顔を近付ける。
息が触れてビクッと小さく震えたが、桜子は瞼をきつく閉じて待った。
触れるだけのキスがされる。
甘酸っぱいファーストキス。
離れると、橙は笑みを溢した。
「これで桜子は俺のもんだな」
「も、ものじゃありません!」
「じゃあ俺の恋人」
「っ〜!!」
またもや真っ赤になる桜子。それを眺めながら、嬉しそうな笑みを溢す橙だった。
「サクラ」
「うっひゃ!」
音恋に呼ばれて、桜子は奇声を上げて震え上がる。見られていたのではないかと、恥ずかしさに襲われた。
勿論、音恋と黒巣は影でバッチリと見守っていた。
「小暮先輩、人混みに酔っちゃったから先に帰るって」
「え、大丈夫?」
「リュシアンが送るって言って帰っちゃった。小暮先輩、謝ってた」
「リュシアンが?」
橙が訝しむような顔になる。
「アイツ、やっぱり木葉のこと狙ってるんじゃないのか?」
「先輩とどーかんですねー」
黒巣はニヤつく。
「そう勘繰るとリュシアンが素直にアプローチしなくなりますよ」
音恋が釘をさす。
「そういう宮崎だって、気になるくせに」
「気になりはするけど、首を突っ込んで台無しにするつもりはないわ」
冷静に答える音恋に、黒巣は面白くなさそうにむくれた。
「リュシアンも不器用じゃないわ。自分から相談するまで見守ってあげましょう」
「それがいいね」
美月は、それに賛同する。
「じゃあカップル誕生祝って、とりあえず飲み物買って乾杯する?」
「なっ……!」
黒巣がニヤリと笑って見せ、桜子は見られていたのだと知り絶句した。そんな黒巣を音恋は小突く。
「そりゃいい。じゃあ乾杯しようぜ」
橙は気にした様子も見せず「自販機でいいか?」と訊ねては、歩み出す。
男子陣持ちで飲み物を購入して、仲良く乾杯した。
「んじゃあ水分補給もしたところで、楽しむか!」
遊園地を楽しむことを再開。
橙が桜子の手を引く。美月も緑橋と手を繋いであとに続いた。
黒巣はそのあとをついていこうとしたが、手を掴まれて止められる。
「なーな」
甘い声で、優しく呼ばれた。
振り返れば、爪先立ちして音恋から触れるだけのキスをされる。不意打ちで赤くなる黒巣。
「な……なんだよ、いきなり。ぶぁーか……」
「行こう」
「……ああ」
仲良く恋人繋ぎをして、皆の元に向かった。
おかげさまで、「漆黒鴉学園」本編の最終巻
漆の7巻、発売中です!!
ありがとうございます!
久々の漆黒鴉学園で少し甘い話が書けて良かったです。
いつか、純血の吸血鬼中心の漆黒鴉学園を投稿したいと思います。リュシアンと小暮先輩など。
それまで、またお会いしましょう!
20170809