表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

親睦遊園地デート



 週末に親睦デートこと親睦会が行われた。

 以前来たことのある遊園地に向かう。

 駅で待ち合わせをして、揃って電車に乗った。

 音恋は、ワンピースに白いコート。髪はカール。漆黒の艶やかな長い髪が白いコートに映える。

 美月は、ロングスカートとブラウンのコート。

 桜子は、短パンにニーハイブーツとオレンジ色のコートを合わせていた。そしてシュシュでポニーテール。

 小暮は、丈の短いライダージャケットに、白いブラウスにニット。スキニーパンツにロングブーツ姿。髪はいつものように後ろで、シュシュでお団子にしていた。


「小暮先輩スタイルいい!」

「ええー美少女のひめちゃんの方がいいよー」


 桜子に褒められて、小暮も笑って褒め返す。

 黒巣は、音恋を見た。口を開こうとしては閉じる。


「褒めたらどうだい? 黒巣くん。見惚れるほど綺麗だって」

「なっ! 思ってないし!」


 咄嗟に否定してしまう黒巣。本心ではない。

 音恋は振り返ると小首を傾げる。


「なんでもないからな!」

「はいはい」

「はいはいってなんだよ」


 わかっている、と言う意味を込めた音恋の頷きに、黒巣は少し赤面した。


「そう言えば聞いたよ。今度入学する純血の吸血鬼くん達は常識人なんだって?」


 声を潜めて小暮は、その話題を持ち出す。


「そうなんです。アメデオやリュシアンとは違い、礼儀正しくていい子達でした」

「それってさ、ネレンが相手だったからじゃねーのか?」


 音恋に続いて、橙が口を開く。

 半分吸血鬼の音恋に、礼儀を尽くしたと推測する。


「いいえ、そんな感じではなかったです。一人は人懐っこそうな性格で、二人は物大人しい性格の吸血鬼でした」

「……想像つかねえな」

「アメデオからリュシアンを引いた感じです」

「さっきから本人を目の前にして酷い言い様だね」


 リュシアンは、それでも笑みを崩さなかった。

 それを聞いて、小暮はお腹を押さえて笑う。


「みやちゃんのモルダヴィアくんの扱いが……」

「笑い過ぎですよ、木葉先輩」

「ごめん、ツボに入った」


 笑い続ける小暮に対して、リュシアンは悪い気はしていない様子で眺めていた。

 そんなリュシアンを見て、黒巣も音恋も密かに目を合わせる。


「でもこれで危惧していた問題が起こらないなら、安心だね。ナナ」


 緑橋が控えめに発言した。


「肩の荷が下りたってもんだ」

「そうかい? 箱入り吸血鬼が何も問題を起こさないとは思えないけどね」

「……」


 肩を竦めた黒巣に、リュシアンは意地悪なことを言う。


「まぁその時は風紀委員も協力するよ、生徒会長」


 ポンっと黒巣の肩を、小暮は叩いた。


「お前、ほんとどうしたんだよ。前はそんな協力的じゃなかっただろう?」


 橙は怪訝に小暮を問いただす。


「えー? そんなことないよ」

「いいや。お前は生徒会に積極的に関わることなかっただろ」

「んーまぁ……桃塚先輩が苦手だったせいかもねー」

「はぁ? 桃塚先輩が苦手だぁ?」


 誰もが好いている桃塚前生徒会長を苦手と言う小暮が、理解出来ないと橙はしかめっ面をした。

 音恋達も注目する。


「私って、化けるモンスターは苦手なのよねー……」


 ぼやいた言葉を聞き、リュシアンは意味深に小暮を見つめた。



 遊園地に着けば、女子陣の意見を中心にアトラクションに乗った。皆が楽しんだ。


「あ、射的がありますよ。小暮先輩、やってください!」

「射的? プレッシャーだな。あ、あのウサギ可愛い。獲ってやろう」

 桜子にせがまれて射的の前に連れていかれた小暮は、景品のウサギのぬいぐるみを狙う。大きなぬいぐるみだ。


「こんなの楽勝でしょ。いつも動く的を狙い撃ちしてるんだから」


 黒巣が言った。


「んー愛用なら話は別だけれどねぇ」


 言いながら、射的用の銃を構える。

 小暮の放った弾は、見事100点を倒した。


「すごい小暮先輩!!」

「お見事です」

「流石ですね、小暮先輩」


 桜子、美月、音恋が賞賛する。桜子に関しては大はしゃぎ。

「それほどでも」と言いながら、小暮は景品を受け取ろうとした。しかし、横からリュシアンが取り上げる。


「ボクが持ちましょう、木葉先輩」

「あ、ありがとう、モルダヴィアくん」


 薄ピンク色の大きなぬいぐるみを片腕で抱えたリュシアン。彼の上半身ほどの大きさだ。

 それを見て、小暮は笑い出す。


「あはは、モルダヴィアくん。ウサギ似合うね! 撮ってもいい」

「いいですけど」


 お腹を抱えつつ、小暮はケータイを取り出してカシャリと撮った。リュシアンは嫌がらなかったが、不満げな表情を浮かべる。


「……先輩。リュシアンと呼んでいいですよ」

「えー、モルダヴィアくんって早口言葉言えたみたいで好き」

「……人の名前で勝手に達成感を覚えないでくさい」

「ごめんって。でも本当ウサギ似合うね」


 結局リュシアンとは呼ばなかったが、二人は良い雰囲気だ。リュシアンは小暮の笑顔を見つめているように見える。

 音恋達は邪魔しないように、黙ってやり取りを見ていた。


「なー休憩タイムといこうぜ」


 そこで橙が提案する。反対する者はいなかった。


「桜子、あのベンチで休もうぜ」

「え? ええ!?」


 橙は桜子の手を掴んで、離れたベンチに連れていく。誰も止める者はいなかった。


「あー楽しいなぁ」

「は、はい……」


 橙と二人きり。桜子は途端に緊張で固まった。しかし手は繋がれたままだ。それが余計に意識させてしまうのだろう。


「橙先輩、もっと楽しまなきゃ損ですよ!」

「いいよ、十分楽しんでいるしな。それに」


 休んでいる場合ではないと桜子はまた遊びを再開しようとしたが、橙は手を握って止めた。


「お前と居たい」


 橙は真っ直ぐに桜子を見つめて告げる。

 桜子が顔を赤くしていると、橙は顔を近付けた。


「だ、だめです!」


 もう片方の手で桜子は遮る。


「もういいだろう、桜子。俺のこと嫌いか?」

「き、嫌いじゃないです」

「じゃあ好きだろ」

「す……わ、わからないですっ」


 橙の瞳に熱がこもった。握る手にも力が入って、桜子を離さないと言っているようだ。


「本当に、俺とキスするの、嫌か?」

「……っ」


 これでもかというくらいに真っ赤になって、桜子はオロオロしてしまう。

 橙は桜子の指に自分の指を絡めた。


「俺のこと、好きだっていい加減認めろよ」

「……せ、先輩……」


 遊園地の賑わいが遠ざかるほど、熱く見つめ合う。

 桜子はもう拒めなかった。

 承諾と受け取り、橙はもう一度顔を近付ける。

 息が触れてビクッと小さく震えたが、桜子は瞼をきつく閉じて待った。

 触れるだけのキスがされる。

 甘酸っぱいファーストキス。

 離れると、橙は笑みを溢した。


「これで桜子は俺のもんだな」

「も、ものじゃありません!」

「じゃあ俺の恋人」

「っ〜!!」


 またもや真っ赤になる桜子。それを眺めながら、嬉しそうな笑みを溢す橙だった。


「サクラ」

「うっひゃ!」


 音恋に呼ばれて、桜子は奇声を上げて震え上がる。見られていたのではないかと、恥ずかしさに襲われた。

 勿論、音恋と黒巣は影でバッチリと見守っていた。


「小暮先輩、人混みに酔っちゃったから先に帰るって」

「え、大丈夫?」

「リュシアンが送るって言って帰っちゃった。小暮先輩、謝ってた」

「リュシアンが?」


 橙が訝しむような顔になる。


「アイツ、やっぱり木葉のこと狙ってるんじゃないのか?」

「先輩とどーかんですねー」


 黒巣はニヤつく。


「そう勘繰るとリュシアンが素直にアプローチしなくなりますよ」


 音恋が釘をさす。


「そういう宮崎だって、気になるくせに」

「気になりはするけど、首を突っ込んで台無しにするつもりはないわ」


 冷静に答える音恋に、黒巣は面白くなさそうにむくれた。


「リュシアンも不器用じゃないわ。自分から相談するまで見守ってあげましょう」

「それがいいね」


 美月は、それに賛同する。


「じゃあカップル誕生祝って、とりあえず飲み物買って乾杯する?」

「なっ……!」


 黒巣がニヤリと笑って見せ、桜子は見られていたのだと知り絶句した。そんな黒巣を音恋は小突く。


「そりゃいい。じゃあ乾杯しようぜ」


 橙は気にした様子も見せず「自販機でいいか?」と訊ねては、歩み出す。

 男子陣持ちで飲み物を購入して、仲良く乾杯した。


「んじゃあ水分補給もしたところで、楽しむか!」


 遊園地を楽しむことを再開。

 橙が桜子の手を引く。美月も緑橋と手を繋いであとに続いた。

 黒巣はそのあとをついていこうとしたが、手を掴まれて止められる。


「なーな」


 甘い声で、優しく呼ばれた。

 振り返れば、爪先立ちして音恋から触れるだけのキスをされる。不意打ちで赤くなる黒巣。


「な……なんだよ、いきなり。ぶぁーか……」

「行こう」

「……ああ」


 仲良く恋人繋ぎをして、皆の元に向かった。






おかげさまで、「漆黒鴉学園」本編の最終巻

漆の7巻、発売中です!!

ありがとうございます!


久々の漆黒鴉学園で少し甘い話が書けて良かったです。

いつか、純血の吸血鬼中心の漆黒鴉学園を投稿したいと思います。リュシアンと小暮先輩など。

それまで、またお会いしましょう!


20170809


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ