お祖父様、孫を担いで崖へ行く
「そうじゃった」
執務室で話を終えたお祖父様が、何かを思い出したように立ち上がった。
「ブレイと遊ぶ約束をしとったな」
「親父!」
お父様が慌てて声を掛ける。
「余り無理をしないように!」
「分かっとるわ!」
お祖父様は笑いながら手を振る。
「昔ほど無茶はせん!」
「……本当に?」
お父様が不安そうな顔をする。
わし……信用されてないなぁ。
◇
「ブレイ!」
「はい!」
お祖父様が、お兄様を呼ぶ。
「じいちゃんと遊びに行くぞ!」
「……」
「夕飯までだ!」
「げっ……」
お兄様の顔が引きつった。
「いや、今は……」
「何じゃ?」
お祖父様が首を傾げる。
「ガタガタ言わずに行くぞ!」
「いや、でも……」
「ほれ!」
お祖父様が何かを渡す。
「剣を持て!」
「……はい」
お兄様が渋々、剣を受け取る。
クルークはその様子を見ていた。
「……?」
なんだろう?お兄様は、剣の稽古は好きだったはずだ。むしろ、いつも楽しそうにやっている。なのに――
「なんか嫌がってない?」
お祖父様と遊ぶのが嫌なのかな?
「ちょっと、待って……」
お兄様が何か言おうとするが。
「待たん!」
お祖父様はお兄様のところへ歩いていく。
「わしが担いでやる!」
「え?」
「行くぞ!」
「ちょ、じいちゃん!」
次の瞬間。
お祖父様は、お兄様を右腕一本で抱え上げた。
「うわっ!」
「はっはっは!」
そのまま――走り出した。
「え?」
私は目を丸くし、お祖父様が走るのをみている。お兄様を抱えたままで、ものすごい勢いで。
「……」
どこへ行くんだろうと、クルークは二人の後ろ姿を見ていると……そして。
「……ん?」
進行方向を見る。
「あれ?」
あっちって――
「崖じゃない?」
お祖父様は止まらない。
走る。走る。さらに走る。
「ちょっと!?」
私は慌てて声を上げた。
「その先、崖――!」
ドドドドドッ!
「何じゃ!?」
お祖父様の声が響く。
「その先は崖!」
いや、私が言った!
お祖父様は止まらない。
「はっはっは!」
「じいちゃん!?」
お兄様の声。そして――
「え?」
二人の姿が。
「消えた?」
崖の向こうへ。クルークは慌てて走る。
「ちょっと待って!」
崖の近くまで行き下を見る。
「……」
森。かなり下に森が広がっている。
「……」
まさか。
「……落ちた?」
すると。
「ギャーーーーーーーーッ!」
お兄様の叫び声が響いた。
「!?」
その声とともに、二人の姿が森の中へ消えていく。
「…………」
私はその場に立ち尽くした。
しばらくして。
「……」
何も起こらない。
「……」
森の方を見る。
「……」
もう一度。
「……」
私は静かに呟いた。
「何じゃありゃ……」
ドン引きである。
あれがお祖父様とお兄様の「遊び」
「……」
私は思った。
「絶対、普通の剣の稽古じゃない」
むしろ。
「命懸けの遊びじゃない?」
遠くの森から。
「じいちゃん、待って!」
「まだまだこれからじゃ!」
そんな声が聞こえてきた。
「……」
私はそっと屋敷へ戻ることにした……お祖父様。やっぱり、元気すぎる。




