お祖父様、クルークを天才と認める
「さて。息子よ」
お祖父様が、お父様を見る。
「いや。領主として話を聞きたいことがある」
「……」
お父様の顔が少し引き締まった。
「執務室で話そうか」
「……分かりました」
二人はそのまま執務室へ向かっていった。
◇
「第一集落を見てきたぞ」
お祖父様が椅子に座りながら言う。
「大分、変わりました」
お父様も向かいに座る。
「そうだな」
お祖父様は頷いた。
「以前とはまるで違う」
第三集落に住んでいるお祖父様にとって、第一集落は決して遠い場所ではない。
それでも、実際に現地を見て感じる変化は大きかった。
「特に、あの木の鎖」
「はい」
「あれは便利だな」
お祖父様が感心したように言う。
「勝手に荷物を運んでくれる」
「そうですね」
「人が荷物を持って歩く必要がない」
「クルークの考えたものですから」
お父様は苦笑する。
「人の移動は最低限で済ませて、生産物を次の工程へ動かす」
「うむ」
お祖父様が頷く。
「今までなら、人が運んでいたものを木の鎖に任せる」
「そういうことです」
「木で出来ているのもいい」
「領内で材料を調達できますから」
お祖父様は少し考える。
「パンパ領には木が多い」
「はい」
「だが、今まではほとんどそのまま売っていた」
「そうですね」
「それが今では――」
お祖父様が机の上に置かれた資料を見る。
「炭に、炭の筆記具」
「はい」
「椿油に石鹸」
「はい」
「椎茸」
「はい」
「まだ試験段階だが、紙まで作っている」
「そうですね」
お祖父様が腕を組む。
「特産が、まさかここまで種類が増えるとはな」
「私も驚いています」
お父様が苦笑する。
「クルークが色々と思いついてくれますので」
「……」
お祖父様が黙る。
そして、しばらくして口を開いた。
「あの才能を、決して潰すなよ」
「そこはもちろん」
お父様は即答した。
「クルークが何を考えているのかは分かりませんが」
「うむ」
「少なくとも、今までパンパ領になかったものを次々と生み出している」
「そうじゃな」
お祖父様は深く頷いた。
そして、少し考える。
「……ひょっとして」
「はい?」
「クルークは……」
お父様が顔を上げる。
「クルークは?」
お祖父様が真剣な顔で言った。
「天才なのでは!?」
「……」
お父様が黙る。
「……」
お祖父様も黙り、数秒。そして――
「……はぁ」
お父様がため息をついた。
「ですね……」
「やはりそう思うか!」
「私も、最近そう思い始めています」
お父様は遠い目をする。
「最初は子供の思いつきだと思っていたんですが」
「うむ」
「一つ作ったら、次が出てくる」
「うむ」
「その次を作ったら、今度は生産や物流の問題まで考え始める」
「……」
「最近では、私にもよく分からないことを考えているようです」
お祖父様が笑う。
「それでこそパンパ家の子じゃ!」
「……」
お父様は苦笑した。
「お祖父様も、あまり煽らないでください」
「なぜじゃ?」
「これ以上、何か思いつかれたら……」
お父様が頭を抱える。
「領地が追いつきません」
「はっはっは!」
お祖父様は豪快に笑った。
「ならば、領地の方を追いつかせればよい!」
「簡単に言わないでください……」
執務室に、二人の笑い声が響く。
そして――パンパ領では、また一人の小さな少女が、新しいことを考えていた。
そのことを、二人はまだ知らない。




