父も認めた、子供たちの発明
「お前たち。そんなに真っ黒になって、何をしているんだ?」
「お父様!」
私たち三人は、揃って振り返った。
そこにいたのは、お父様。
ストラグル・フォン・パンパ。
パンパ領を治める男爵だ。
「これが、例の固形炭ってやつか?」
「はい! そうです!」
私は元気よく答えた。
お父様は、私たちが作った固形炭を手に取る。
「ふむ……」
裏返したり、重さを確かめたりしている。
「こっちは何だ?」
お父様が、もう一つの試作品を見る。
「ワイズお姉様が考えました!」
「うん!」
「何に使うんだ?」
「ペンの代わりになるかと」
「ペンの代わり?」
お父様は、木で挟んだ黒い棒を見る。
「どうやって使う?」
「乾いたら削って、中の黒い炭を出して書きます!」
「…………」
お父様はしばらく試作品を眺めていた。
「そうか……」
そして私たちを見る。
「その時には、私にも見せてくれ」
「はーい!」
よし。お父様にも興味を持ってもらえた。
「それと――」
お父様が、私たちの顔を見る。
「お前たち」
「はい?」
「まずは手と顔を洗ってこい」
「…………」
「真っ黒じゃないか」
言われてみれば。兄も。姉も。私も。
服まで真っ黒。
「行くぞ! みんな!」
「はい!」
三人で洗い場へ向かう。
「…………」
その背中を見送ったストラグルは、しばらく固形炭を眺めていた。
「先輩」
リヒトが声を掛ける。
「この二つ。ちゃんと考えた方がいいですよ」
「そうだな」
ストラグルは、固形炭と木の試作品を見比べる。
「これは……産業になるかもしれん」
「私もそう思います」
「何よりだ」
ストラグルが笑う。
「子供たちだけでも作れてしまった」
「そこなんですよね」
「もちろん、実際に商品として作るなら話は別だ」
材料。製造方法。品質。価格。大量生産。
考えなければならないことはいくらでもある。
だが――。
「発想が素晴らしい」
ストラグルはそう言った。
「子供だからこそ、固定観念がないのかもしれんな」
「そうですね」
リヒトも頷く。
「この固形炭なんて、軍が欲しがると思いますよ」
「軍が?」
「持ち運びやすい。形が揃っている。火持ちもいい。先ほど試した限りでは、普通の炭よりかなり長く燃えました」
「…………」
ストラグルの表情が変わる。
軍。
その言葉には、元軍人として思うところがあるのだろう。
「それに、こっちのペンという物も――」
「うむ」
「本当に書けるなら、面白い商品になるかもしれません」
「だな」
ストラグルはしばらく考えた。
「炭焼き職人と木工師に見せてみるか」
「その方がいいでしょうね」
「我々が考えるより、職人の目で見てもらった方がいい」
「さらに、何ができるかも分かるかもしれません」
「そうだな」
ストラグルは、改めて二つの試作品を見る。
「この領地には、木と竹しかないと思っていたが……」
「先輩?」
「いや」
ストラグルは小さく笑った。
「もしかすると――」
パンパ領には、まだ使い切れていないものがあるのかもしれんな。
その頃。
「お父様!」
遠くからクルークの声が聞こえてきた。
「ちゃんと洗いました!」
「……ああ」
「次は何を作りましょうか?」
「…………」
ストラグルは苦笑する。
「まずは、少し休め」
「えー?」
「お前たちは、まだ四歳と八歳と十歳なんだからな」
「…………」
確かに。私たちはまだ子供だ。
でも――パンパ領の小さな変化は、もう始まっていた。




