お祖父様、引退理由が速すぎる
「クルーク!」
二階の窓から飛び込んできたお祖父様が、私を抱きしめる。
「手紙を読んだぞ!」
「は、はい!」
「便利な書類と版画!」
「はい!」
「確かに受け取った!」
「ありがとうございます……」
「それと今回の件!」
お祖父様の腕に、さらに力が入る。
「流石わしの孫じゃ!!」
「ぐ、ぐるし……」
ちょっと!
力が強い!
「責任持って、わしが対応するからな!!」
「ぐ、ぐるし……」
「お義父様! クルークが苦しがっていますよ!」
声を掛けたのは、お母様だった。
「お?」
お祖父様が私を解放する。
「おー! お主も元気だったか?」
「はい。私は元気ですよ」
「うむ!」
お母様も笑っている。
「それにしても……」
私はお祖父様を見る。
「お祖父様、手紙を読んだと言っていましたけど……」
「うむ!」
「届いたのって、四日前くらいでは?」
「そうじゃ」
「……」
私は首を傾げる。
「それを読んですぐ、こっちに来たんですか?」
「そうじゃ!」
お祖父様は当然のように答えた。
「お主を褒めたくてな!」
「え!?」
私を褒めるためだけに?わざわざ?
「ちょ、ちょっと待ってください」
私は慌てて聞く。
「どうやって、そんなに早くここへ?」
ここから第三集落までは、普通なら三日。
それなのに、お祖父様は手紙が届いてから四日程度でここまで来ている。
「すまんな……」
お祖父様が少し申し訳なさそうな顔をする。
「わしも歳でな……」
「はい?」
「ここに来るのに、一日半も掛かってしまってな」
「……」
「昔は一日あれば着いたんじゃが……」
「…………」
「歳には勝てなくてな」
お祖父様は遠い目をする。
「それで引退を決めたんじゃ」
「…………」
私は黙った。
お父様も黙っている。お母様も黙っている。
ワイズお姉様も。ブレイお兄様も。
全員、なんとも言えない顔をしている。
「……あの」
私は恐る恐る聞く。
「普通の人が、ここまで来るのに三日ですよね?」
「うむ」
「お祖父様は?」
「一日半じゃ」
「昔は?」
「一日じゃな」
「……」
私は頭を抱えた。
待って。それって。
「普通の人より一日半も速いじゃん!」
「そうじゃな」
「昔は普通の人の三倍速いじゃん!」
「まあ、若い頃はな」
「それで……」
私はお祖父様を見る。
「半日遅くなったから引退したの!?」
「うむ」
「どーゆーこった!?」
思わず叫んでしまった。
いやいやいや。普通の人が三日。お祖父様が一日。歳を取って一日半。
それで「もう歳だから引退」って。
「十分すぎるほど元気じゃない!?」
「そうか?」
お祖父様は首を傾げる。
「昔はもっと早かったぞ?」
「そこを基準にしないで!」
私は思わずツッコんだ。
どうやら私のお祖父様は――私が想像していた「穏やかな隠居老人」とは、まったく違う人物らしい。
そしてこの人が、このパンパ領を最初に開拓した人なのだ。
「……」
私は改めて、お祖父様を見る。
二階の窓から飛び込んでくる身体能力。
手紙を読んだら、すぐに一日半かけて駆けつけてくる行動力。
「……なるほど」
なんとなく分かった。
「パンパ家って、こういう家系なんだ……」
お父様が苦笑する。
「まあ……そういうところはあるな」
「じゃろ?」
お祖父様は嬉しそうに笑った。
「流石はわしの孫じゃ!」
「……」
どうやら私は、とんでもない血筋を受け継いでしまったらしい。




