お祖父様、二階の窓から登場
服はお姉様に任せた。
なら、私は私で出来ることをやろう。
「目の部分の網を作るとするか」
蜂に刺されないためには、顔を守る必要がある。
特に目!ここは絶対に守らないといけない。
私は細い竹を使って、細かな網を編んでいく。
「うむ……」
編んで。編んで。さらに編んで。
「よし」
出来た。
「いい感じじゃない?」
細かな竹の網。向こう側が見える程度の隙間。
これなら蜂も通れない。もちろん、蜂の針も届かない。
「ちょっと近づけてみよう」
私は顔の前に持ってきてみる。
「……」
見える。多少見づらいけど。
「まあ、見えないことはない」
これなら作業は出来そう。
蜂巣箱の前で細かい作業をするわけじゃない。
蜂蜜を採るくらいなら問題ないだろう。
「それに、蜂も入って来れない」
私は網を確認する。
うん。大丈夫。
「これを……」
ゴーグルみたいにして左右にベルトを付ける。
頭に固定する。
「よし」
顔を左右に振る。
ぶんぶん。もう一度。ぶんぶん。
「ずれない」
いい!完璧。
「ふふふ」
問題ナッシングだな。これで防護服が完成すれば、蜂蜜採取が出来る。
「防護服の完成が待ち遠しいなぁ」
そんなことを考えていた、その時だった。
「……?」
外から声が聞こえる。
ざわざわ。
何やら騒がしい。
「ん?」
私は二階の窓から庭を見る。
すると――
「……あれ?」
お父様。お兄様。お姉様。
そして――
「……誰?」
そこには、渋みのある貴族風のお爺ちゃんがいた。立派な服。白髪。
そして、妙に姿勢がいい。
「お父様の知り合いかしら?」
私は首を傾げる。
そういえば……この館に貴族が来るのを見るのは初めてだ。
「誰なんだろ?」
じっと見ているとそのお爺ちゃんが、こちらを見上げた。
「あ」
目が合った。
「……」
「……」
しばらく無言。すると。
「お?」
お爺ちゃんが声を上げた。
「クルークなのか?」
「はい、そうですが……」
私は窓から顔を出す。
「……どちら?」
その瞬間。
「おおおおお!」
お爺ちゃんが走り出した。
「え?」
何してるの?庭から館へ、ジャンプ!
そして――
「……え?」
お爺ちゃんがこっちに来てる。
しかも階段じゃない。
「ちょ、ちょっと!?」
次の瞬間。
バッ!
「うおおお!」
お爺ちゃんが二階の窓に飛び込んできた。
「げっ!?」
私は思わず後ずさる。
「何だこの爺さんは!?」
突然二階の窓から飛び込んできたぞ!?
普通は階段から来るものじゃないの!?
お爺ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「お主がクルークか!!」
「は、はい……」
「お祖父ちゃんが会いに来たぞー!!」
「はっ!?」
お祖父ちゃん?ということは――
「……お祖父様?」
「そうじゃ!」
お爺ちゃんは嬉しそうに笑う。
「お主の祖父じゃ!」
「……」
私は固まった。
いや、ちょい待て。
「お祖父様……?」
「うむ!」
「私の……?」
「そうじゃ!」
「……」
頭の中がぐるぐるする。
いやいやいや。待て。
お祖父様って――
「お祖父様って、第三集落にいるんじゃなかったの!?」
「うむ!」
「ここまで歩いて三日くらい掛かるんじゃ……?」
「そうじゃな!」
「じゃあ、なんで――」
私は窓を見る。
そして、お祖父様を見る。
もう一度、窓を見る。
「二階の窓から飛び込んできたの!?」
「階段を使うより早いじゃろ?」
「早いとかそういう問題じゃない!」
なんだこの人!?
歳を取ったから引退して、比較的大きな町に、近い第三集落で暮らしている。
私はそう思っていた。
もっとこう――穏やかにお茶でも飲みながら過ごしているような。
そんなお爺ちゃんを想像していた。
それなのに。
「……」
目の前のお祖父様を見る。
渋みのある顔。立派な服。
そして――二階の窓から飛び込んでくる身体能力。
「……」
これ、本当に隠居したお爺ちゃん?
「クルーク?」
「……はい」
「お祖父ちゃんじゃぞ!」
「……はい」
私は困惑しながら頷いた。
「……お祖父様、元気すぎない?」
「はっはっは!」
お祖父様は豪快に笑った。
「元気だけが取り柄じゃからな!」
……。
どうやら、私が思っていた「お祖父様」とは、かなり違う人物らしい。




