蜂蜜は欲しい。でも蜂には刺されたくない
さて。お祖父様への手紙と書類は送った。
あとは返事を待つだけだ。
「確か、第三集落まで歩いて三日くらいだったかしら?」
お祖父様がいるのは第三集落。
この屋敷から歩いていけば、それなりに時間が掛かる。
「となると、当分返事は来ないかな?」
行きだけで三日。
向こうで書類を確認して、返事を書いて。
それをまた三日掛けて届けてもらう。
「早くても一週間くらい?」
まあ、そんなものだろう。
それに、今回送った書類が届いたとしても、すぐに返事が来るとは限らない。
奴隷さん達の情報を商人から集めてもらう必要もある。
「内容は書いて送ったから……」
実際に情報が届くのは、さらにその先。
「来たら確認すればいいか」
今から焦っても仕方がない。
なら――
「その間は好きなことして遊ぼう!」
私は椅子から立ち上がった。
さて、何をしようかな。そう考えていると、ふと思い出した。
「あ」
そういえば。
「蜂巣箱、確認してないな」
以前、養蜂用に作ってもらった蜂巣箱。
設置してから、しばらく経っている。
「蜂、住んだかな?」
せっかく作ったのだ。住みついてくれていれば、いずれ蜂蜜が採れる。
私はさっそく蜂巣箱のところへ向かった。
どれどれ。
「……」
耳を澄ませる。ぶん。ぶんぶん。
「……お?」
箱の周りを飛び回る蜂。
そして、出入りする蜂。
「おっ!」
私は思わず身を乗り出した。
「住んでるじゃないの!」
やったぜ!
「これで蜂蜜ゲットだ!」
蜂蜜。甘い。貴重。売ってもいい。
食べてもいい。これはかなり嬉しい。
「ふふふ……」
蜂蜜たっぷりのパン。蜂蜜入りのお菓子。
飲み物に入れてもいい。
「そのうち蜂蜜が採れるぞ……」
私は蜂巣箱を眺めながら、ニヤニヤする。
だが。ふと、あることに気づいた。
「……ん?」
蜂。大量の蜂。
「……」
私は蜂巣箱を見る。
蜂を見る。もう一度、蜂巣箱を見る。
「……これ」
嫌な予感がする。
「どうやって蜂蜜採るの?」
私は腕を組んだ。
蜂蜜を採る。巣箱を開ける。巣を取り出す。
蜂がいる。
「……」
ぶんぶん。
「刺されるよね?」
間違いなく。
「絶対刺されるよね?」
私はそっと一歩後ろへ下がった。
蜂は巣を守る。巣をいじられたら怒る。
つまり――
「蜂蜜欲しさに近づいたら、蜂に怒られる」
当たり前の話だった。
「……防護服が必要じゃない?」
前世では動画なんかで養蜂家を見たことがある。
白っぽい服。顔を覆う網。手袋。
確か、そんな感じだった。
「防護服……」
そんなもの、この領地にはない。
「いや、待って」
作ればいい。服なら布がある。革もある。
網だって、今まで作ってきた商品を考えれば作れそうだ。
「顔を覆う部分は……」
私は蜂を眺める。
「細かい網が必要ね」
蜂が通れない。でも、こちらからは見える。
そんな網。
「……よし」
また仕事が増えた。
いや。これは蜂蜜を採るために必要なものだ。
つまり――
「蜂蜜を採るための装備を作ろう!」
私は拳を握った。
せっかく蜂が住んでくれたのだ。
このまま諦めるなんて、もったいない。
「待ってなさい、蜂さん」
私は蜂巣箱を眺める。
「そのうち、安全に蜂蜜をいただくからね」
ぶんぶん。
蜂は何も知らずに飛び回っていた。
そして私は、頭の中でさっそく防護服の設計を始めていた。




