版画で書類を作ろう
さて。奴隷さん達を買ってしまった。
まだ、いまいち納得はしていないんだけど。
お父様から聞いた話と、実際にカタログに載っていた人達。そして、お祖父様の日記に書かれていた三百人。
色々と考えることはある。
でも、買った以上は受け入れなきゃいけない。
「いつ来るのかしら?」
商人さんには、準備が出来次第送ってもらうように頼んだ。
だから、そんなに時間は掛からないと思う。
それに――
「磁石と酸も、いつ来るのかな?」
こっちも楽しみだ。
ふふふ。
まあ、それは届いてから考えればいい。
今はまず、奴隷さん達の受け入れ準備だ。
「お祖父様にも手伝ってもらおう」
第三集落で受け取ってもらう予定になっている。
だったら、現地で確認してもらった方が早い。
ざっくりした話はしてあるけど、実際に何人来るのかも分からない。
だから――
「まずは名簿ね」
年齢。性別。健康状態。それから、前職。
出来れば家族構成も欲しい。
それくらいは分かっていた方がいいだろう。
「お祖父様に頼んで、商人さんからリストを貰ってもらおう」
そうすれば、こっちでも受け入れの準備が出来る。病気の人がいるなら、その人用の場所も必要だ。子供がいるなら、子供だけでまとめるわけにもいかない。家族が一緒なら、出来れば一緒にしてあげたい。
……まあ、具体的なことは名簿を見てからだ。
「それと、書面も必要よね」
契約関係の書類。受け入れた人達の記録。
仕事を決めたら、その記録も必要になるだろう。今までは人数が少なかったから、口頭でも何とかなっていた。
でも、人数が増えればそうはいかない。
「雛型を作って送っておくか」
私は紙を一枚取り出した。
紙そのものは、もう領内で作れるようになっている。そこに必要な項目を書いていく。
名前。年齢。性別。健康状態。前職。家族。
それから――
「契約内容……っと」
必要なことを一つずつ書き込んでいく。
うん。
これを作っておけば、後から記録するのが楽になる。
ただ……
「パソコンでもあれば、すぐなのになぁ」
入力して印刷。はい、終わり。
そんな便利な物は、この世界にはない。
「……手書き?」
うん。面倒。ものすごく面倒。一枚ならいい。
十枚でも、まあいい。でも、何十人、何百人となったら?
「絶対に嫌」
書いている途中で手が痛くなる未来しか見えない。何かないか。この世界で再現出来るもの。
紙とインクもある。
そして――木工職人もいる。
「……版画?」
私は顔を上げた。
版画なら、一度作ってしまえば同じ書式を何枚でも印刷出来る。文字を全部彫る必要はあるけど、一度作ればいい。
「うん。これだ」
私はさっそく雛型を書き上げる。
それから別の紙にも、普段使う記録用の書式を書いていく。
生産記録。在庫記録。受け入れ記録。
……あれ?
「これ、普通に領地で使えるじゃん」
今まで木の板に書いていた記録も、これで統一出来る。
紙になったことで保管もしやすくなる。
しかも版画なら、同じ書式を何枚も作れる。
「うむ」
いい感じだ。さらに考える。
「どうせなら、何種類か作れるようにしておこう」
一枚の紙に全部を印刷する必要はない。
版を変えればいい。それぞれ別の版を作っておけば、必要な書式だけ使える。
さらに――
「色も変えられるようにしたいな」
例えば重要な部分だけ赤。普通の記録は黒。
区別がつけば、後から見る時にも分かりやすい。版画なら、版ごとにインクの色を変えればいい。
「よし」
私は作った書類の雛型をまとめる。
そして、最後に一枚の紙を添えた。
『この書式を木版にしてください』
……これだけでは流石に雑か。
「版の大きさと、紙の位置も書いておこう」
必要なところを書き足していく。
そして完成。
「出来た!」
私は満足げに紙を眺める。
あとは――
「木工師さんにお願いしてっと」
書類をまとめてお父様に渡しておけば。
「それと、版画の試作品も作ってもらってください」
これでよし。私は椅子に座り直した。
ふぅ。
「……あとは木のプロに任せよう」
餅は餅屋。木は木工師。
私は木を彫る専門家じゃない。
なら、専門家に任せればいい。
「丸投げ完了」
ふふふ。
こうしてまた一つ、パンパ領に新しい仕組みが生まれようとしていた。




