奴隷って、そういうもの?
「お父様!」
「ん?」
書類を整理していた父が顔を上げる。
「どうした? 何か思いついたのか?」
「いえ!」
私は首を横に振る。
「聞きたいことがあります!」
「何だ?」
私は一度、深呼吸する。そして――
「奴隷制度を教えてください!」
「…………」
父の動きが止まった。
「奴隷制度?」
「はい!」
「……急にどうした?」
「ちょっと気になりまして!」
父は少し考える。そして、あっさり答えた。
「ああ。借金をした者が使う制度だ」
「へ?」
私は目を瞬かせる。
「……それだけ?」
「それだけだが?」
「…………」
なんだろう。話が噛み合わない。
いや。噛み合ってないのは、私の方か?
「えっと……犯罪者は?」
「犯罪者?」
「犯罪を犯した人は奴隷になったりしないんですか?」
「犯罪者は牢屋で過ごすが?」
「…………」
あれ?私が知っている奴隷制度と違う。
「じゃあ……勝手に人を連れ去って、奴隷にする、とか?」
「はぁ?」
父が本気で驚いた顔をする。
「それは犯罪だろう?」
「犯罪……?」
「当たり前だ。人を勝手に連れ去ったら捕まるぞ?」
「…………」
うーん。なんだろう。完全に私の想像と違う。
「えっと……」
私は頭の中を整理する。
「例えば、お金を借りるにはどうするんですか?」
「金を?」
「はい」
「自分自身だったり、何か担保を入れたりするな」
「自分自身……」
「借金を返せない場合、本人が労働して返済することになる。それが奴隷制度だ」
「なるほど……」
つまり。お金を借りる?返せない?その場合、本人が働いて返す?それが奴隷。
「……でも、それって借金を返したら?」
「当然、自由になる」
「期限は?」
「契約次第だな」
「売買は?」
「奴隷になった者を売ることはできる」
「え?」
ここで初めて、少し引っかかった。
「売れるんですか?」
「ああ。借金を別の者が引き受ければ、その者の元で働くことになる」
「……なるほど」
借金そのものが移動するようなものか。
「でも、勝手に連れて行くのは?」
「犯罪だ」
「奴隷として買った人なら?」
「契約内容に反する扱いをすれば問題になる」
「…………」
なんというか。私が前世で知っている「奴隷」という言葉とは、かなり違う。
いや。そもそも――この世界では「奴隷」という制度そのものが、私が思っているものとは違うのかもしれない。
「お父様」
「何だ?」
「パンパ領にも奴隷はいるんですか?」
「ほとんどいないな」
「ほとんど?」
「この領地で借金をして奴隷になるほどの者は、今のところ聞いたことがない」
「なるほど……」
そもそも人口が少ない。領内の人たちは基本的に自給自足。商人との取引も、最近ようやく増えてきたばかり。だから、今まで身近に感じなかったのか。
「……ということは」
私は考える。
お祖父様の日記に書かれていた「奴隷」というのも――パンパ領の開拓に使われた特殊な奴隷ではなく。この世界の一般的な制度として存在していたものなのかもしれない。
「……まだ分からないことが多いな」
「クルーク?」
「何でもありません!」
私は笑う。
これはもう少し調べた方がいい。
奴隷とは何なのか。どういう契約なのか。
誰でもなれるのか。どれくらいの期間なのか。
そして――お祖父様の日記に、なぜ奴隷が出てきたのか。
「……書庫に戻ろう」
「また本か?」
「はい!」
私は父の部屋を出る。
世界には、まだまだ知らないことがある。
そして私は――知らないことを知るのが、ちょっと楽しくなってきていた。




