祖父の日記と知らなかった制度
何かヒントはないかと思って、私は書庫へやって来た。
「うーん……」
本棚を見回す。領地開発。農業。林業。鉱業。道具。建築。色々な本があるけれど――
「そんな都合よく、生産性を上げる方法なんて書いてないか」
まあ、当然だ。そもそも、この世界の技術と前世の世界では大きな差がある。
私が知っている前世の世界の仕組みの方が、生産性は遥かに高い。だったら、この世界の本を探しても、私が欲しい答えが簡単に見つかるとは思えない。
「うーむ……」
どうしたものか。私はしばらく考える。
そして――
「そうだ」
本棚の前にある一冊の本を見る。
「お祖父様の日記に、何かヒントはないかしら?」
パンパ領の始まり。今の領地がどうやって作られたのか。それを一番知っているのは、お祖父様だ。私は日記を取り出す。
「よし」
机に置いて、ページをめくる。
ペラペラ。ペラペラ。
「確か……ここに来て、早速遭難しそうになって……」
最初の頃の日記を読み返していく。
山。森。道もない。食料も十分ではない。
住む場所すらない。
「……うわぁ」
改めて読むと、とんでもない場所だ。
よくこんなところに住もうと思ったな。
さらにページをめくる。
「そのあとは……」
ペラ。ペラ。
「……ああ」
開拓が中心だ。まあ、そりゃそうだ。
まずは住むところが必要だ。雨風を防がないといけない。食べ物も必要。畑も作らなければならない。木を切る。土地を整える。道を作る。
家を建てる。水場を確保する。
「……大変だ」
今のパンパ領があるのも、これを全部やったからなのか。さらに読み進める。
「お祖父様と、その仲間……」
そこには、開拓に参加した人たちのことも書かれていた。元軍人。元兵士。その家族。そして、領地開拓に協力した者たち。
「やっぱり軍関係が多いか」
確かにこんな場所を開拓するんだ。
体力がある者、野営に慣れている者、危険への対処もできる人材。集団行動にも慣れている。
生存率を高めるという意味では、元軍人が多くなるのも当然か。
「それに加えて……」
私はさらにページをめくる。
そこで――手が止まった。
「…………」
何か書いてある。
「はぁ?」
思わず声が出る。
私はもう一度、その部分を読む。
「……奴隷?」
目を疑う。
「奴隷って……奴隷?」
前世では、歴史の教科書でしか見たことがない。いや、この世界が前世と違うことは分かっていた。魔法がない。科学技術も遅れている。
文化も違う。食べ物だって違う。
でも――
「この世界、奴隷制があるの?」
知らなかった。私は慌てて本を閉じる。
そして、もう一度開く。
「……書いてある」
間違いない。奴隷という言葉が、そこにある。
「…………」
知らなかった。
今まで私は、パンパ領のことばかり見ていた。
木材。竹。炭。椿。紙。商品。物流。生産性。
そんなことばかり考えていた。
でも――この世界そのものについて、私はまだ何も知らない。
「奴隷……か」
お祖父様の日記には、どうして奴隷が出てくるのか。パンパ領の開拓に使われたのか?
それとも別の理由なのか?
「……これは、ちゃんと調べた方がいいな」
私は日記を閉じた。
そして――まずは、お父様に聞いてみるか。知らないことを知る。それも、領地を発展させるためには必要なことなのかもしれない。




