初めて手にした、大きな利益
パンパ領。
現領主ストラグルの机の上には、小袋に入った金貨が数十枚置かれていた。
「…………」
ストラグルは、その金貨をじっと見つめている。これは、つい最近パンパ領で生産が始まった商品の売上だ。
固形炭。炭ペン。椿油。椿油石鹸。
そして、その他の新商品。
どれも今までのパンパ領では考えられないほど売れている。
「……まさか、領内で作った商品がこれほど売れるとは……」
ストラグルは、金貨を一枚手に取る。
ずっしりとした重み。これまで、パンパ領にとって金貨とは遠い存在だった。
商人から入ってくる金はあっても、領地を維持するために使えばほとんど残らない。
それが今は――
「……こんなに残るのか」
「貴族が金貨を見て、ドン引きしないでくださいよ」
隣にいたリヒトが呆れたように言う。
「そうは言うが……これほど売れるとは思わなかったのだ」
「それだけ大人気なんですよ」
リヒトは肩をすくめる。
「しかも、お嬢のお陰で生産性も上がっているようですし」
「うむ」
「新商品もまだ控えてますしね」
「そうだな……」
ストラグルは机の上に並んだ金貨を見る。
「……まだまだ収入は増えそうだな」
「ええ」
リヒトがニヤリと笑う。
「やっと、この建物の屋根を直せますね」
「……そうだな」
ストラグルは天井を見上げる。
ところどころ補修された跡がある。
雨漏りする場所も、まだ残っている。
「やっとだ」
「しかも屋根を直しても、まだ余る売上ですな」
「そうだな」
これまでは、屋根の修理ですら後回しだった。
壊れた場所を見つければ、とりあえず応急処置。使えるものは修理して使う。
新しい物を買うより、作れるものは自分たちで作る。それがパンパ領の当たり前だった。
しかし――今は違う。
「……やっと領内の整備にも回せそうですなぁ」
リヒトが感慨深そうに呟く。
「……ああ」
ストラグルも頷く。
そして――しばらく考え込んだ。
「……だが」
「はい?」
「いざとなると、何処に回せばいいのか分からんな」
「…………」
二人とも黙った。
「まず屋根は、直す」
「ええ」
「壊れている建物も修理する」
「はい」
「道も整備したい」
「それも必要ですな」
「木の鎖も増やしたい」
「物流改善ですからね」
「紙作りの設備も必要だ」
「新商品ですから」
「椿油の工房も……」
「必要ですな」
ストラグルは頭を抱えた。
「……金がなかった時は、金があれば何でもできると思っていた」
「実際、かなり出来るようになりましたね」
「だが、金ができたらできたで、今度は何から手を付ければいいのか分からん」
「贅沢な悩みですなぁ」
「笑い事ではないぞ」
ストラグルは金貨を見る。以前なら、この金貨の数十枚を見たら喜んだだろう。
だが今は違う。これを何処に使えば、パンパ領がもっと良くなるのか。
道なのか。建物なのか。工房なのか。
物流なのか。それとも、もっと別の何かか。
「……クルークに聞くか」
「でしょうな」
リヒトは即答した。
「また四歳のお嬢に相談ですか?」
「仕方あるまい」
ストラグルは苦笑する。
「我が領で一番、金の使い方を考えているのは……あの子だからな」
「確かに」
二人は顔を見合わせる。
そして、机の上の金貨をもう一度見る。
パンパ領は今まで「金がないから、何もできない領地」だった。
しかし、これからは違う。
「金はある。では、何をするか」
新しい問題が、領主の前に立ちはだかっていた。




