当たり前を疑ってみよう
うむ。と言っても……。
「まず、私が考え方を変えないとダメかな」
私は腕を組む。
今まで当たり前だと思っていたこと。
それを、当たり前だと思わない。
「そうね……」
私は少し考えて――。
「リヒトさんに張り付いてみるか?」
◇
「何ですか……クルークお嬢様……」
リヒトさんが、困ったような顔をしている。
「リヒトさんの仕事、観察」
「うへ……」
リヒトさんが嫌そうな顔をする。
「何ですか、それは……」
「いや。何か不便なことある?」
「不便なこと……?」
リヒトさんが首を傾げる。
「そう言われましても……」
「…………」
確かに。これは中々無茶な質問だ。
普段から使っている道具に対して、
「もっと楽にならない?」
と聞かれても、なかなか思いつかない。
「普通に使えているなら、それが普通だもんね」
不便を不便だと思っていない。
だからこそ、外から見る必要がある。
「なので、観察してます」
「……そうですか」
リヒトさんは諦めたように作業へ戻る。
「それは今、何してるの?」
「あー。お昼の仕込みですよ」
「ふむふむ」
私は台所を見回す。
包丁。鍋。まな板。竈。水瓶。薪。
そして――。
「あれは?」
「オーブンです」
薪を使って加熱するタイプ。
ちゃんとオーブンまである。
「なるほど……」
台所は……前世の感覚で言えば、江戸時代くらいなのかしら?
もちろん、包丁も鍋もある。
火を使って料理する。水は水瓶。
薪を燃やして火を起こす。
電気もない。当然、ガスもない。
「流石に、この辺りは私には無理かな……」
電気を作る。ガスを作る。
さすがにそこまでの知識はない。
「となると……」
細かいキッチン道具を考えるか?
包丁をもっと使いやすくする。
鍋を改良する。何かを簡単に切れる道具。
混ぜる道具。保存する道具。
「うーむ……」
そういえば、私はふと思い出した。
「リヒトさん」
「はい?」
「鉄製品って、どうしてるんですか?」
「鉄製品?」
「鍋とか」
「ああ」
リヒトさんは何でもないように答える。
「領内で作ってますよ」
「え?」
「鍛冶屋で」
「…………」
私は一瞬、固まった。
「領内に鍛冶屋があるの?」
「ありますよ」
「鉄は?」
「鉄?」
「鉄って、領内で取れるの?」
「少しは取れますね」
「…………」
少し?取れる?
「まあ、領内で使う量なんて、たかが知れてますから」
リヒトさんは、何でもないことのように話している。
「そうか……」
私は頷く。
「鉄は取れる……か」
頭の中で、何かが動き始める。
木材。竹。椿。紙。そして――鉄。
「……まだまだ、あるじゃない」
私は小さく呟いた。
この領地は私が思っているより、使える資源が多いのかもしれない。




