領館を見れば、まだ何かある?
クルークは、隣の部屋へ移動すると、壁に耳を当てた。
聞こえてくるのは、お父様とリヒトさんの声。
「…………」
私は黙って聞いている。
どうやら紙作りの道具やら、乾燥場所やらの話をしているようだ。
そして――。
「うむ」
私は小さく頷いた。
「私には、降りかかって来なかったわね」
これで良し!あとは大人の仕事だ。
私は壁から耳を離す。
「リヒトさんめ!」
私の金持ちになる計画に、もっとも協力しなさいよ!
こちとら貴族!
貴族らしく、贅沢して、浪費して、優雅に生活してやるんだ!
そのためには――働いてもらわないと困る。
「ふふふ……」
私は満足げに頷く。
それにしても、さっきの話を聞いていて思った。紙って、そこまで貴重だったのか。
「そこは盲点だったかしら?」
私は首を傾げる。
前世の日本では、紙なんて珍しくも何ともなかった。
ホームセンターにも大量に置いてあった。
コピー用紙。ノート。画用紙。段ボール。
ティッシュ。紙なんて、そこら中にあった。
だから、この世界でも「高いんだろうな」くらいにしか考えていなかった。
「でも……」
私は木板を見る。
木板を一枚一枚作って、そこに記録を書く。
それを運んで、保管して……。
「それより紙の方が、ずっと楽だもんね」
私が紙を作ろうと思った理由は、それだった。
記録用の木板が邪魔。
だったら紙にすればいい。
それだけ。でも結果として――。
「売り込める商品が、また一つ増えた!」
これは大きい。
固形炭。炭ペン。椿油。椿石鹸。そして紙。
商品が一つ増えた。
しかも、木材を大量に使う必要がない。
「結果オーライだわ!」
私は満足して笑う。
……ん?いや。待てよ。
そこで私は立ち止まった。
「となると……」
私は少し考える。
「私、まだ色々と見落としてるんじゃない?」
今回だってそうだ。紙なんて、最初から商品にしようと思っていたわけじゃない。
ただ、木板が邪魔だった。
それだけだった。
でも、そこから商品になった。
「だったら……」
私は周囲を見渡す。
「まずは、この領館をよく観察してみよう」
毎日暮らしている場所。
だからこそ、当たり前になって見えていないものがあるかもしれない。
「何か不便な物はないかな?」
不便だけど、みんな我慢している。
面倒だけど、昔からそうだから続けている。
そんな物があるかもしれない。
「便利な物を作れるかも?」
私は少しワクワクしてきた。
新商品になるかもしれない。
生活が便利になるかもしれない。
そして――お金になるかもしれない!
「よし!」
まずは、この領館からだ。
私は廊下を歩きながら、いつもとは少し違う目で周囲を見始めた。
パンパ領には、まだまだ発見があるかもしれない。




