紙が新しい商品になる
領主、ストラグルの執務室。
机の上に、一枚の薄い紙が置かれていた。
「なっ……」
ストラグルは、その紙を手に取る。
「これは……紙?」
何度も裏返して確認する。
薄い。木板とは比べ物にならない。
それに――。
「こんな物が、私の領地で作れるのか!?」
「そのようですな」
横から声がする。料理人のリヒトだった。
「また、とんでもない物を作りましたな……」
「これをクルークが?」
「はい」
リヒトは紙を眺めながら苦笑する。
「流石に、王都で出回っている紙と比べれば、かなり劣っていますが……」
「そうだな」
白さも違う。表面も少し粗い。
厚さも均一ではない。王都で売られている紙とは比べ物にならない。
だが――。
「この作り方で、この紙が作れるのであれば問題ないですな」
「確かに……」
ストラグルは紙を机に置く。
今まで、紙は王都などから買うものだった。
高価だから、簡単には使えない。
だから領内では木板を使っていた。
しかし――。
「これが領内で作れれば……」
「商品になりますな」
リヒトが即答する。
「しかも、お手軽価格になりそうですし」
「……なるほど」
ストラグルは考え込む。安価な紙。
それは、それだけで価値がある。
貴族だけではない。商人も使う。役所も使う。
学校や書庫でも使える。
手紙を書くにも使える。
「紙が一気に身近になるかもしれんな」
「そうなりますな」
しかも――。
「水車と組み合わせれば、人手も減らせるだろうし」
ストラグルが紙の製造方法を見る。
植物を細かくする。煮る。繊維をほぐす。
そして、すく。
「この『すく』作業は、人手が掛かる」
「ですな」
一枚ずつ繊維をすくい上げ、薄く広げる。
これを大量に繰り返す必要がある。
「ここを水車で動かせれば……」
「作業の一部を機械化出来ますな」
リヒトも頷く。パンパ領には水がある。
水車もある。そして、木の鎖によって動力を伝える仕組みも作り始めている。
「……組み合わせられるな」
「ええ」
ストラグルは紙を見ながら考える。
「あと必要なのは……」
「乾かす場所ですな」
「そうだ」
紙は一枚ずつ乾かさなければならない。
大量に作るなら、それだけ広い場所が必要になる。
「乾燥場所さえ確保出来れば……」
ストラグルは紙を持ち上げる。
「大量に作れそうですな?」
リヒトが尋ねる。
ストラグルは、しばらく紙を眺めていた。
そして――。
「……やってみる価値はある」
パンパ領に、新しい産業が生まれようとしていた。




