もっと自由に動きたい!
「ふぅ〜……」
私は大きく息を吐いた。
細かく突っ込まれると、やっぱりボロが出そうで怖い。
「前世の記憶が残ってるなんてバレたら……」
それこそ厄介ごとに巻き込まれるのは、目に見えている。
「日本ではこうだった!」
なんて言えるわけがない。
椎茸の栽培方法も。楓の樹液のことも。
養蜂のことも。全部、前世で知っていたなんて知られたら――。
「……面倒なことになりそう」
だからこそ。
「お祖父様の書庫が逃げ道になる!」
本に書いてあった。昔、どこかで見た。
ちょっと試してみた。
そう言えば、だいたい何とかなる。
「ありがとう、お祖父様!」
私は心の中で祖父に感謝する。
「でも本当に役に立つわよ! 残してくれて!」
お祖父様が残してくれた書庫。
あれがなければ、今頃どうなっていたことか。
……まあ。
書庫にないことを聞かれたら、かなり危ないんだけど。
「さて……」
次は何をしようかな〜。
私は考える。
「うーむ……」
もっと自由に、一番近い集落へ行ければなぁ。
あそこなら、もっと色々な物を見ることができる。領民が何を作っているのか。
何に困っているのか。
何が余っているのか。
実際に見て回れば、何か新しいことを思いつくかもしれない。
「でも……」
私は自分の身体を見る。
小さな手。小さな足。まだ四歳。
「まあ、このボディーじゃ、まだまだ流石に無理だもんなぁ」
一人で山道を歩いて集落まで行くなんて、とてもじゃないけど無理。
大人と一緒なら行ける。
でも、そうなると自由に動き回ることはできない。
「……」
こればかりは、どうしようもない。
身体が成長するのを待つしかない。
「もう少し大きくなればなぁ」
そうすれば、一人で集落へ行って。
あちこち見て、領民と話して、もっと色々なことを知れる。
「……まあ、焦っても仕方ないか」
今は今できることをやるしかない。
私は窓の外を見る。山々が広がっている。
そのどこかに、まだ私の知らないものがある。
「……探したいなぁ」
そう思いながら、私は再び書庫へ向かうことにした。まだまだ調べられることはある。
そして――身体が大きくなったときには、もっと自由にパンパ領を歩き回ってやろう。
「その頃には、もっと凄い領地になってるかもね!」
私は一人、そんな未来を想像して笑った。
◇
その頃。
ストラグルの手元には、一枚の文が届いていた。
第三集落からだ。差出人はもちろん――。
ストラグルの父。
つまり、クルークのお祖父様からだった。
「……父上からか」
ストラグルは封を開け、文を読み始める。
そして――。
「…………」
しばらく無言になった。
そこに書かれていたのは、短い文章だった。
『商品の売れ行きが良い』
『更に増産して送れ!』
『売れまくりだぞ』
『商人からの催促が止まらん!』
そして最後に――。
『わしも笑いが止まらん!』
「…………」
ストラグルはもう一度、最初から読み直す。
「なんだ、この内容は……」
思わず頭を抱える。商品の売れ行きが良い。
それ自体は喜ばしい。いや、非常に喜ばしい。
だが――。
「増産して送れ、か……」
こちらはすでに増産している。
それでも足りないということだ。
「商人から催促が止まらん……」
ストラグルは手紙を机に置く。
炭ペン。固形炭。
そして、これから増えるであろう新商品。
パンパ領で作った物が、領外で次々と売れている。
「……本当に売れているのか」
思わず呟く。今までのパンパ領は、木と竹を売るだけだった。
それが今では――。
「商品の増産が追いつかない、だと?」
ストラグルは手紙を見る。
最後の一文が目に入る。
『わしも笑いが止まらん!』
「……父上」
思わず苦笑する。
「笑っている場合ではないでしょうに」
そう言いながらも――ストラグルの口元も、少しだけ緩んでいた。
どうやらパンパ領の商売は――自分たちが思っていた以上に、順調らしい。




