甘い樹液、新商品になる?
養蜂箱を設置した。あとは蜂さんが気に入ってくれるのを待つだけ。
「まだ住み着いてないか……」
まあ、設置したばかりだ。
そう簡単にはいかないよね。
「クルークお嬢!」
「ん?」
振り向くと、リヒトさんがこちらへ歩いてくる。
「お父様がお呼びだ!」
「私を?」
「執務室まで来てくれとのことだ」
「んー……」
珍しいなぁ。
お父様から直接呼び出されるなんて。
「分かった」
私はリヒトさんについて執務室へ向かった。
コンコンコン。
「入れ」
「失礼します」
扉を開ける。
「お父様、何でしょうか……」
「ん?」
私は室内を見回す。
「……お母様も!?」
お父様だけじゃない。お母様までいる。
「えっと……なんでしょう?」
すると、お父様が机の上に置かれた小瓶を指差した。
「この楓の汁は、何だ?」
「ああ……」
メイプルシロップのことか。
「何だと言われましても……」
私は説明する。
「楓の樹液を煮込むと、甘くなりまして……」
その瞬間。
「こんな甘い物を作ったなんて!」
お母様が食いついた。
「何でもっと早く教えてくれないのよ!」
「いや、まだ私も味見してませんし……」
「……あら?」
お母様が小瓶を見る。
「そうなの?」
「はい。リヒトさんに煮詰めてもらったばかりなので」
すると、お母様が急にリヒトさんを見る。
「リヒト!」
「え?」
「何で私にじゃなくて、領主様に報告してるのよ!」
「いやいや! そりゃ領主様に報告するでしょう!」
「……」
お母様がじーっとリヒトさんを見る。
「まあ……いいわ」
どうやら少し納得したらしい。
お父様が小瓶を手に取る。
「楓の木から取った樹液から、こんな物ができるのか?」
「はい」
リヒトさんが答える。
「書庫で見つけた本に書いてありまして……試しに作ってみたんです」
「そういえば、楓の木がどこにあるのか、私に聞いていたわね」
お母様が私を見る。
「はい!」
私は頷く。
「なので、楓の木がたくさん生えている場所があれば、まとめてもっと採れると思うんですが……」
「確かにそうね」
お母様が小瓶を手に取る。
しばらく眺めた後――。
「これは私が預かります!」
「……」
「……」
「……どーぞ」
私は素直に渡した。
「細かい作り方は、リヒトさんが知ってます!」
「え?」
リヒトさんが固まる。
私は心の中でニヤリと笑う。
ざまーみろ!
細かい作業は、みんなリヒトさんに振ってやる!私に報告しないからだ!
「では、リヒト。詳しい作り方をまとめておいてちょうだい」
「……はい」
リヒトさんが肩を落とす。
「それから、楓の木が多い場所も探しておきましょう」
「分かりました」
お母様はもう完全に商売人の顔になっている。
「これだけ甘いなら、きっと何かに使えるわ」
「でしょう!」
リヒトさんも料理人として興味津々だ。
「菓子なんかにも使えそうですな」
「お菓子!」
お母様の目が輝く。
「それは試してみる価値がありそうね!」
……。
なんか。
私が思っていた以上に、大事になってきたな。
まあいいか。
「ふふふ……」
甘い物が商品になるなら、私としても大歓迎。
あとは大人たちに任せておけばいい。
まだまだ私の実験は終わらない。




