領主も困惑する新発見
「リヒト! 椎茸の栽培は本当なのか?」
ストラグルに呼び出され、料理人のリヒトは領主の執務室に来ていた。
「本当かと言われましても……昨日、皆さん食べたでしょう?」
「山から採ってきたものではなく?」
「裏庭に生えていたものですよ」
「本当に裏庭で?」
「ええ」
リヒトは昨日収穫した椎茸のことを思い出す。
「原木から、ちゃんと生えていました」
「……」
ストラグルは腕を組む。
「更に増やすことは可能なのか?」
「ええ。恐らく」
「恐らく?」
「私がそれを作りましたから……」
リヒトが少しだけ胸を張る。
「では、更にそれを作れ!」
「……え?」
「椎茸の栽培方法を増やすのだ。それと、報告書も出せ!」
「ゔ……」
思わず呻き声が漏れる。
「作り方を知っておかなければ、領内で栽培できぬだろ!」
「まあ……そうですが」
確かにその通りだ。リヒトは頭を掻く。
「分かりましたよ! ちゃんと出しますって!」
「それと――」
ストラグルは少し考える。
「椎茸を干す、というのも本当か?」
「ああ、そちらはどうだか……」
「どういう意味だ?」
「クルークお嬢が言っていただけですから」
「……」
「そもそも、高級な椎茸をわざわざ干そうなんて発想、普通は思いつきませんよ」
「……確かに」
ストラグルも頷く。
この領地では椎茸は高級品だ。
それをわざわざ乾燥させる。
言われなければ考えないだろう。
「だが、あの発想は素晴らしい」
「ええ。それは私もそう思います」
リヒトは少し笑う。
「それに、今度は楓の木の汁を煮詰めてくれって頼まれましたよ」
「は?」
ストラグルの眉が上がる。
「楓の木の汁?」
「ええ」
「そんな物を煮詰めてどうする?」
「それがですね……」
リヒトは昨日のことを思い出す。
「完成して、びっくりしましたよ」
「何がだ?」
「甘い汁が出来ました!」
「……甘い?」
「ええ。ちょっと舐めましたが……」
リヒトは困ったように笑う。
「お嬢には、まだ話してませんが」
「木の汁が……甘い?」
「はい」
「…………」
「こりゃー、何か料理に使いたいですな」
リヒトは料理人らしく目を輝かせる。
「かなり採れたのか?」
「いいえ」
リヒトは首を横に振る。
「かなり目減りしてますから。完成したのは少しだけです」
「…………」
ストラグルは黙り込む。
椎茸を栽培する。
椎茸を干す。楓の木から汁を取る。そして、それを煮詰めると甘い汁になる。
「……何が何だか」
思わず本音が漏れた。
「まあ、普通そうなりますよね」
リヒトも苦笑する。
「私だって、毎日クルークお嬢に振り回されてますから」
「……」
ストラグルは深く息を吐く。
だが――。
「しかし」
その口元には、わずかに笑みが浮かんでいた。
「面白くなってきたな」
パンパ領には、まだ知られていない物がある。
そして、それを見つけてくるのが――。
「……あの子か」
ストラグルは、クルークの姿を思い浮かべる。
「次は一体、何を見つけてくるのやら」
「それは私にも分かりませんよ」
二人は顔を見合わせる。
そして――。
「……報告書だけは、ちゃんと出せよ」
「そこは忘れないでくださいよ、領主様……」
リヒトのため息が、執務室に響いた。




