パンパ領の新商品、炭を作ろう
集落から家に戻ってきた。初めての外出。
時間にすれば、それほど長くはなかった。
けれど――実際に集落を見て、分かったことは多い。
基本的には、事前に書庫で調べていた情報の通りだった。
パンパ領の人々は、自給自足に近い生活をしている。食べるものは自分たちで作る。
足りないものは、木材や竹を売って得たお金で買う。
それで何とか生活は成り立っている。
問題は――。
「…………」
やっぱり、農業を大きく伸ばすのは難しい。
何せ山の中。平らな土地がほとんどない。
畑を増やすなら、斜面を削るか、段々畑を作るしかない。でも、それにはお金が掛かる。
今のパンパ領に、そんな余裕があるようには見えなかった。
「となると……」
今ある産業を伸ばすしかない。
幸い。パンパ領には、他の領地にはないものがある。
「木と竹……」
どちらも、山にいくらでもある。
ならば――これをどうにかするしかない。
まず、木材。
「丸太のまま売っている……」
これは、もったいない。
前世のホームセンターなら、木材は色々な形に加工されて売られていた。
板。角材。細い棒。棚板。建築資材。家具。
もちろん、ここですぐに同じことをやれというのは無理だ。加工するための設備も必要だし、職人も必要になる。
だから、今すぐには難しい。
なら――次に竹。
「こっちは……」
冬の間。
農作業が少なくなる時期に、竹を使ってザルや籠を作る。
そして春先。それをまとめて商人に売る。
「…………」
以上。
「やっぱり終わってないか? 我が領は……」
思わず天井を見上げる。
幸い、今は屋根の穴も修理されている。
そこだけは良かった。
……でも。
木材は丸太。竹は籠やザル。これだけ。
「うーん……」
どうすればいい?
今ある資源を使って、もっとお金を稼ぐ。
それしかない。でも、何を作ればいい?
私は前世の記憶を必死に探る。
ホームセンターで扱っていた商品。
木材。工具。農具。園芸用品。建築資材。
そして――。
「……炭」
ふと思い出した。
ホームセンターで売っていた。
木炭。バーベキュー用の炭。着火剤。
炭関連の商品。
「そうだ」
炭。木なら、いくらでもある。
しかも、丸太として売れないような細い木や枝も使える。
「…………」
これは、いけるんじゃないか?
私は急いで、お母様のところへ向かった。
「お母様!」
「あら、クルーク。どうしたの?」
「お母様。我が領で炭作りはしていますか?」
「炭作り?」
お母様は少し考える。
「うーん……してないかな?」
「やっぱり……」
「どうして?」
「炭なら、木から作れますよね?」
「ええ。そうね」
「なら、商品にできませんか?」
「商品?」
お母様が首を傾げる。
「炭を作って、売るんです」
「…………」
お母様は私を見る。
私もお母様を見る。
「どうしたの?」
「何か作ってみたいです!」
「作って?」
「はい!」
「作って、どうするの?」
「みんなに使ってもらって、それから他所に売ります!」
自信満々に答える。
前世では普通に売っていた。
バーベキュー用。暖房用。料理用。
使い道はいくらでもある。
何より、原料はパンパ領に大量にある木。
「売れるものかしら?」
「…………」
あれ?お母様の反応が薄い。
「炭ですよ?」
「ええ」
「木から作れるんですよ?」
「そうね」
「便利ですよ?」
「そうなの?」
「…………」
この感じ。もしかして――。
「…………お母様」
「なあに?」
「炭って、そんなに珍しいものですか?」
「珍しいというより……」
お母様は少し考えてから言った。
「炭を作って売るという話を聞いたことがないわね」
「…………」
なるほど。そういうことか。
この世界では、炭の価値そのものがあまり知られていない。
なら――。
「…………」
逆にチャンスじゃないか?
原料はある。作ることもできる。
使い道もある。そして、まだ誰も商品として売っていない。
「お母様」
「はい?」
「私、炭を作ってみたいです!」
お母様は少し驚いた顔をした。
「クルークが?」
「はい!」
「……どうしてそんなに炭を作りたいの?」
「それは――」
私は胸を張った。
「便利だからです!」
まずは。作ってみなければ分からない。
そして、もし本当に使えるものなら――パンパ領の新しい収入源になるかもしれない。
私は少しだけワクワクしてきた。
「……やってみましょう!」
四歳児の私が始める、最初の領地開発。
その第一歩は――炭作りだった。




