初めて見るパンパ領の暮らし
一番近い集落に着くまで、二時間くらい掛かった。
……いや。
たぶん、普通ならもっと早い。
私がいるせいだ。
この身体で、この山道を歩く。
それも四歳児。
大人と同じ速度で歩けるわけがない。
何度も休憩を挟みながら、ようやく目的地に到着した。
「はぁ……」
疲れた。四歳児の体力、舐めてた。
「クルーク、大丈夫?」
「大丈夫です!」
……大丈夫じゃないけど。
さて。ようやく着いた集落を見渡してみる。
「ふむ……」
なるほど。まず気付いたのは――。
家が山の斜面に沿って建っていること。
崖の上に家を建てている感じか……
完全に平地に家を並べているわけではない。
斜面の比較的安全な場所を使って、家が点々と建っている。
そして、人の移動も――横より縦。
階段を上ったり下りたり。
平面に動くというより、上下に動いてるのか……
何というか。立体的な村だ。
前世で暮らしていた日本の町とは、全然違う。
ただ、当然ながら、平らな場所もある。
そういう場所は――畑か。
段々になった土地に、畑が広がっている。
米。麦。粟。
その他にも、いくつかの野菜。
本で見た内容と同じだ。
特別珍しい作物があるわけでもない。
農業そのものは、私が知っているものと大きく変わらないようだ。
「……なるほど」
そして、もう一つ。
「お店もある」
小さい。けれど、ちゃんと店がある。
木で作られた看板が出ていて、その前には何人かの人が集まっている。
集落の規模を考えれば、最低限の商業機能はあるらしい。
「お母様」
「なあに?」
「あれは何のお店ですか?」
「木工品を扱っているお店ね」
「やっぱり木工が中心なんですか?」
「そうね。パンパ領では木を使った製品が多いわ」
なるほど。
木を切る。加工する。そして売る。
パンパ領の主産業が木材と竹だというのは、本で読んだ通りらしい。
「竹は?」
「竹も色々使っているわよ。農具や生活用品にも使うし、加工して売ることもあるわ」
「ふむふむ……」
現地を見てみると、少しずつ分かってきた。
ここは決して何もない場所じゃない。
畑もある。店もある。職人もいる。家もある。
人もいる。生活はちゃんと成り立っている。
ただ――。
「…………」
やっぱり規模が小さい。
そこで、私は気になっていたことを聞いてみることにした。
「お母様」
「はい?」
「ここには、何人くらい住んでいるんですか?」
お母様は少し考えてから答えた。
「そうね……二百五十人くらいかしら」
「二百五十……」
思ったより少ない。
いや。一つの集落なら、そんなものなのか?
でも――私はさっき聞いた話を思い出す。
大きな集落は三つ。
つまり、単純計算なら――二百五十人。
それが三つ。七百五十人。
それ以外にも、小さな集落がいくつかある、口ぶりだった。
「……ということは」
「どうしたの?」
「パンパ領全体では、千人くらいですか?」
「そのくらいね」
「…………」
約一千人。
男爵領として多いのか少ないのか。
前世では貴族なんて存在しなかったから、基準が分からない。
でも少なくとも、大きな領地ではないことだけは分かる。
「…………」
さて。どうする?
私は辺りを見渡した。
山。木。竹。畑。家。
そして、そこで暮らす人々。
生活はできている。食べるものもある。
木材や竹を売って、お金も得ている。
だけど――発展しているかと言われれば、そうではない。
むしろ、何十年も前から大きく変わっていないように感じる。
「…………」
どうすればいいんだ?
前世のホームセンターで働いていた知識。
木材。工具。農具。建築資材。色々見てきた。
だけど。ここで何をすればいい?
何を作れば、この領地は変わる?
そもそも――何が問題なんだ?
「…………うーむ」
「どうしたの?」
「いえ!」
私は慌てて顔を上げる。
「お母様! 集落、初めて見ました!」
「そうね!」
お母様が笑う。私も笑った。
……まあ。今日はそれでいいか。
まずは知ること。
この領地で、人々がどう暮らしているのか。
何に困っているのか。
何が足りないのか。
それを知らなければ、何も始められない。
私は改めて、集落を見渡した。そして思った。
パンパ領。
まだまだ、分からないことだらけだ。




