椎茸は丸投げ、私は楓へ
椎茸の栽培が成功した。
ならば、次にやることは――。
「お父様、お母様!」
「どうしたの?」
「椎茸の栽培について詳しいことは、リヒトさんが知ってます!」
「え?」
「なので、あとはリヒトさんにお願いします!」
「…………」
私は丸投げした。だって、私が知っているのは基本的な栽培方法だけ。
細かい管理とか、収穫時期とか、料理とか。
そういうのは実際にやっているリヒトさんの方が詳しい。
「ヒィ〜……」
遠くからリヒトさんの悲鳴が聞こえた気がする。
……まあ、頑張って!それと、もう一つ。
「干し椎茸にすると長期保存もできますから!」
「干すの?」
「そう! 水分を抜いて乾燥させるの」
干し椎茸にすれば長期間保存できる。
しかも、戻したときには旨味も強くなる。
「これもリヒトさんに伝えておいて!」
「ヒィ〜!」
また悲鳴が聞こえた……まあ、いいか。
私の頭の中は、今は――。
「楓……」
メイプルよ!私は裏庭へ向かう。
「さて……」
この前確認した楓の木。
まずは樹液が取れるか試してみよう。
「この道具だったかしら……」
倉庫から道具を探す。
「あった!」
以前、ブレイお兄様が木材に穴を開けるために使っていた道具。ドリルのようなものだ。
「これね!」
私は楓の木の前に立つ。
「さー……」
木を見上げる。
「開けるわよ!」
ゴリゴリゴリゴリ……。
「…………」
ゴリゴリ……。
「このくらいかしら?」
開けた穴に指を入れてみる。
「……」
湿っている。
「おっ!」
どうやら上手くいったようだ。
木の中には、ちゃんと水分がある。
これなら樹液が出てくる可能性はある。
「次は……」
用意しておいた竹の細い部分を取り出す。
「これを……」
穴へ。
「ブッ刺す!」
ぐいっ。
「よし!」
ちゃんと入った。あとは、この竹を通って出てきたものが流れるようにして――。
「ここに小瓶を置けば……」
竹の先を小瓶へ向けると、これで仕掛けは完成。
「…………」
私はしばらく眺める。何も起きない。
「まあ、そりゃそうか」
一瞬で溜まるわけじゃない。
「時間は掛かるから、明日確認ね」
これで樹液が小瓶に溜まっていれば成功。
そして、それを煮詰めれば――。
「メイプルシロップ!」
甘い物ができる。
蜂蜜とはまた違う甘味だ。
「ふふふ……」
明日が楽しみだ。
「ちゃんと出てきてよ〜?」
私は楓の木にお願いして、領館へ戻ることにした。さて。明日は小瓶の中に――甘い奇跡が入っていますように。
◇
次の日の朝。
「どれどれ……」
私は裏庭の楓の木へ向かった。
「メイプルは溜まったかしら?」
昨日仕掛けた小瓶を確認する。
竹の先から、ちゃんと小瓶へ流れるようにしてある。私は小瓶を持ち上げて、軽く振ってみる。
チャポン!
「……!」
「ふふふ」
思わず笑みがこぼれる。
「溜まってる!」
ちゃんと液体が入っている。
「やった!」
どうやら、楓から樹液を取ることには成功したようだ。私はすぐに新しい小瓶を取り出す。
「こっちは新しくセットしておいて……」
空になった竹の先へ、新しい小瓶を設置する。
これでまた樹液を集められる。
そして――。
「この中身を、焦がさずに煮詰める!」
ここからが本番。
樹液を煮詰めて、水分を飛ばす。
そうすれば、メイプルシロップになるはず。
「……」
しかし。私は小瓶を見る。
「……リヒトさんにお願いするしかないか」
火を使う。
つまり、料理のプロに任せるのが一番だ。
「リヒトさーん!」
調理場へ向かう。
「げっ!」
「げっ! ってなによ!」
「いや……」
リヒトさんが嫌そうな顔をする。
最近、私が「リヒトさん!」と呼ぶと、何か仕事を持ってくると思われているらしい。
「これ!」
私は小瓶を差し出す。
「この中身の汁を、焦がさず弱火で、とろみがつくまで煮込んで!」
「これを?」
「そう!」
「…………」
リヒトさんは小瓶の中身を見る。
透明に近い液体。
「何の汁だ?」
「楓の樹液!」
「楓……?」
「そう!」
「これを煮詰めるのか?」
「そう!」
「…………」
リヒトさんがしばらく考える。
「……分かりましたよ!」
「お願い!」
私は小瓶を渡す。
これが成功すれば――。
「甘い物が一つ増える!」
蜂蜜に続く、パンパ領の新しい甘味。
しかも楓は裏庭に生えていた。
「ふふふ……」
また一つ、パンパ領の商品が増えるかもしれない。そして私は思う。
「……やっぱり、探せばあるなぁ」
この領地には、まだまだ私の知らない物が眠っている。
そう考えると、なんだか楽しくなってきた。




