椎茸、大豊作!
「ふふふ……」
これで勝った!
まあ、何に対して勝ったのかは知らんけど。
とりあえず、新しい甘味の可能性を見つけた。
私は満足げに頷く。
「……そうだ」
せっかく裏庭に来たんだ。
「椎茸はどうなった!?」
以前から育てていた椎茸。
菌を植え付けた原木を並べて、その後はしばらく様子を見ていた。
そろそろ何か出ていてもおかしくない。
私は原木の置いてある場所へ向かう。
そして――。
「…………」
「おーーー!」
思わず声が出た。
「椎茸、ちゃんと生えてるじゃないの!!」
原木から、見慣れた茶色い傘がいくつも顔を出している。
「なっ!?」
振り向くと、お母様が驚いた顔でこちらを見ていた。
「でしょうな」
私は腕を組んで頷く。
「椎茸栽培なんて、初めてでしょうし!」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
お母様が原木を覗き込む。
「本当に、ここから椎茸が生えてくるのね……」
「お母様!」
「な、なに?」
「椎茸栽培の方法が確立しました!」
「な……」
お母様が固まる。
「栽培……」
「そう!」
今まで山から採ってくるしかなかった椎茸。
それを、自分たちで増やせる。
これは凄いことだ。
「早速、収穫して食べましょう!」
「…………」
「お母様?」
「…………」
なんか……お母様の反応がなくなったなぁ。
まあ、いいか!
「収穫しましょう!」
私は椎茸を一つ、手に取る。
お母様も恐る恐る手を伸ばす。
二人で次々と収穫していく。
「結構あるわね」
「でしょう!」
思っていた以上の収穫だ。
これなら、食べるだけじゃなくて、保存や販売も考えられる。
「リヒトさんに持っていきましょう!」
収穫した椎茸を籠に入れ、二人で調理場へ向かった。
「リヒトさーん!」
「ん?」
「椎茸採れたよ!」
「なっ!?」
リヒトさんが振り返る。
そして籠を見る。
「まさか……あの実験、成功したのか!?」
「したよ!」
私は籠を持ち上げる。
「見てこれ! こんなに!」
「げっ!? マジかよ!」
リヒトさんが目を丸くする。
「本当に生えてきやがった……」
「だから言ったでしょう!」
「いや、俺は成功するとは……」
「何か美味しい物作って!」
「分かった!」
リヒトさんが腕まくりをする。
「おばあちゃんが松茸をくれたけど、後回しだな!」
「なっ!?」
私はすかさず反応した。
「私が松茸食べるから!」
「え?」
「椎茸はいらない!」
「ええ!?」
「松茸出しなさいよ!」
リヒトさんが困った顔をする。
「へ? それでいいのか?」
「もちろんよ!」
椎茸はこれからいくらでも作れる。
でも――松茸は違う。
この領地ではたくさん採れるとはいえ、私はまだ松茸を思う存分食べたことがない。
「……まあ、お嬢がそう言うなら」
リヒトさんが松茸を取り出す。
「ふふふ……」
私は思わず笑みを浮かべる。
「松茸食い放題!!」
……椎茸の栽培に成功した。
そして私は――なぜか松茸を食べることになった。
「これはこれで、大成功ね!」
「お嬢様……」
お母様が呆れた顔でこちらを見る。
「何よ?」
「いえ……」
お母様は小さくため息をついた。
「幸せそうで何よりだわ」
「でしょ!」
パンパ領の発展より、まずは松茸である。
その日の夕食。
食卓には――。
「おお……!」
椎茸料理と、松茸料理が並んでいた。
もちろん。
「私は松茸!」
クルークは迷うことなく松茸の皿を確保する。
「椎茸なんぞ食べてたまるか!」
せっかくの松茸だ。
前世では高級食材だったんだぞ!
それを今、好きなだけ食べられる。
「いただきます!」
私は松茸を口に運ぶ。
「ん〜〜!」
やっぱり美味い!
香りがいい。歯ごたえもいい。
「最高!」
ところが――。
「クルークは変わってるな」
お父様が椎茸を食べながら言った。
「こんな高級な椎茸を食べずに、松茸なんか食べて」
「……え?」
私は箸を止める。
「高級……椎茸?」
「そうよ」
お母様も椎茸を食べながら頷く。
「椎茸はなかなか採れないもの。今回、自分たちで栽培できるようになったのは凄いことなのよ」
「…………」
私は松茸を見る。そして椎茸を見る。
「……あの」
「なあに?」
「松茸って……」
「松茸?」
お母様が首を傾げる。
「別に珍しくないでしょう?」
「…………」
まさか。
「あとで椎茸を食べたいって言っても、もうあげないからね」
「えっ!?」
「今日はクルークが全部松茸、食べたいって言ったんだから」
「いや、それは……」
私は松茸を見る。もう一度、椎茸を見る。
「…………」
どうやらこの世界における松茸の地位は――。
かなり低いようだ。
「……マジか」
前世では高級食材の松茸。
この世界では、普通に採れるキノコ。
そして逆に――。
「椎茸が高級……」
私は椎茸を見る。
なるほど。
世界が変われば、食材の価値も変わる。
「……これは覚えておこう」
もしかすると。この領地には、私が「価値がない」と思い込んでいるだけで、実は高く売れるものがまだまだあるのかもしれない。
「ふふふ……」
松茸を頬張りながら、私は密かに笑った。
これは――まだまだ探す価値がありそうだ。




