甘味を求めて、楓を探せ!
クルークは、さっそく木板に養蜂箱の簡単な絵を描いた。
「こんな感じで……」
四角い箱。その中に木枠。
前世で見た動画の記憶を頼りに、できるだけそれらしく描いていく。
「これを木工師の棟梁に渡してもらって……」
木枠を組み立てるだけなら、まあ、そんなに難しいことでもないでしょ。
細かい寸法までは分からないけど、まずは試してみるしかない。
「後は置いて、待つだけにしておくか」
蜂が住み着いてくれるまでが、確か大変だったはず。
その後は巣を大きくしていって、別の蜂が飛び立つところを捕まえて、別の巣箱に入れる。
それを繰り返して、巣箱そのものの数を増やしていく。
「……だったはず」
記憶が曖昧だ。
まあ、設置してからのお楽しみね。
こればかりは、気長に蜂に任せるしかない。
「蜂蜜が取れればなぁ」
蜂蜜。甘い。甘い物。
「……」
そういえば。
甘い物って、かなり重要じゃない?
この世界で砂糖がどのくらい普及しているのかは知らない。
でも、甘い物が安定して取れるなら、商品としてかなり強い気がする。
「もっと安定的に甘い物を取る方法は……」
私は腕を組む。
サトウキビ。甜菜。
前世では砂糖の原料として有名だった。
「でも……」
この世界の植物図鑑には、サトウキビも甜菜も載っていなかった。
「ってことは……ないってことかしら?」
図鑑に載っていないだけなのか。
それとも、本当に存在しないのか。
「流石に、ない物はどうにもならない」
異世界だからといって、何でも都合よく生えているわけじゃない。
むしろ、椿みたいに地球とは違う性質を持つ植物もある。
だから確認する必要がある。
「他に甘い物を取る方法は……」
私は考える。そして――。
「ん?」
頭の中に、あるものが浮かんだ。
「メイプルシロップか」
楓。確か楓の樹液から作る。
「楓……」
私は窓の外を見る。
パンパ領は山だらけ。
森林だらけ。
「これだけ山があるなら、楓の一つや二つ……」
いや。勝手に決めつけるのは危険だ。
「図鑑で確認ね」
私は再び書庫へ向かった。
植物図鑑を取り出す。
ペラペラ。
「……」
楓。楓。楓……。
「あった!」
ちゃんと載っている。
葉の形。木の特徴。生息する地域。
「楓はある!」
よし!まずは第一関門突破!
……しかし。
「メイプルシロップについては、何も書いてないなぁ」
まあ、植物図鑑だ。
樹液から何を作れるかなんて、そこまで詳しく書いていなくても不思議じゃない。
「でも、楓があるかどうかだけ確認できればいいか」
私は図鑑を閉じる。
あとは実際に探してみればいい。
楓がどのくらい生えているのか。
樹液が取れるのか。
そして――。
「本当にメイプルシロップが作れるのか」
これは、やってみる価値がありそうだ。
蜂蜜に続く、新しい甘味。
「……ふふふ」
パンパ領。
まだまだ探せば、何か出てきそうね。
◇
「お母様!」
「なあに?」
「楓の木って、見たことありますか?」
「楓?」
お母様は少し考える。
「庭の裏に生えてるけど?」
「……はい?」
思わず聞き返してしまった。
「庭の裏にですと?」
「そうよ。葉っぱに特徴があるから、分かると思うけど……」
「……」
そんな近くに!?
私は急いで立ち上がった。
「ちょっと見てきます!」
「え? ええ……」
そのまま私は裏庭へと駆け出した。
そして――。
「…………」
「……生えてますな」
あった。普通にあった。
しかも一本どころではない。
「これが楓……」
前世で見たことのある木と、ほぼ同じだ。
ならば、もしかすると――。
「メイプルシロップ、作れるかも!」
確か、木に穴を開けて、そこへチューブを差し込んで樹液を集める。
そして、それを煮詰める。
「穴を開けるのは……」
この前、ブレイお兄様が使っていた、あの機械。木材の鎖を作る時に、穴を開けるために作った道具がある。
「それを使えば、穴は開けられそうね」
問題は樹液を流すチューブ。
そんな物は、この領地にはない。
「……でも」
私は楓の木を見る。
「竹ならある」
竹の細い部分。
これを細く切って、穴に差し込めば――。
「ストローみたいに、樹液を流せるんじゃない?」
その先に小瓶でも置いておけば、溜められる。
「……いけそう」
もちろん、本当にこれで樹液が出てくるのかは試してみないと分からない。
でも、やってみる価値はある。
「穴を開けて……竹を差して……小瓶を置く」
私は頭の中で手順を組み立てる。
「取れそうね!」
「クルーク?」
後ろからお母様の声がする。
「また何か思いついたの?」
「はい!」
私は楓の木を指差した。
「これから、この木の汁を取ってみます!」
「木の汁……?」
お母様が不思議そうな顔をする。
「それ、飲めるの?」
「たぶん!」
「たぶん?」
「……実験です!」
私は胸を張った。
まずは樹液が取れるか。
取れたら、それを煮詰めてみる。
「蜂蜜とは違う甘味が作れるかもしれない!」
パンパ領には、蜂もいる。
楓もある。
「……甘い物、意外といけるかも」
これは――ちょっと期待できそうだ。




