水車が生み出す新たな力
いつの間にか、木の鎖を集落に導入して、炭ペンの生産にまで組み込んでいるとは。
しかも……ずっと止まらずに回し続けている?
「おう! お嬢様か! どうだ?」
声を掛けてきたのは、木工師の棟梁だった。
「これは、人が回してるの?」
木の鎖を動かしている大きな歯車を見ながら尋ねる。てっきり誰かが一生懸命、取っ手を回しているものだと思っていた。
「そう思うか!? それがなー!」
棟梁は嬉しそうに笑う。
「水車と組み合わせたんだ!」
「ほぅ……」
水車?私は改めて周囲を見る。
確かに、この領地には川というより沢がそこら中にある。山だからな。
高低差もあるし、水も流れている。
「確かに、この領地なら水車を使う手もありありだな」
「だろう!」
棟梁が嬉しそうに胸を張る。
「水の流れで水車を回して、その力を歯車に伝える。そうすれば人が回さなくてもずっと動く!」
「なるほど……」
木の鎖を見る。
カタカタカタカタ……。
一定の速度で動き続け、籠を運んでいる。
「やるな! 職人!」
「へへへ。お嬢様に褒められちまったな!」
棟梁が照れくさそうに頭を掻く。
しかし……水車か。私は水車をじっと見る。
「水車……動力……」
何かが引っかかる。
水の流れを使って、物を動かす。
つまり、人間が働かなくても、水が代わりに働いてくれる。
「……」
待てよ?これって、かなり凄くないか?
今までは何かを動かそうと思ったら、人が動かすしかなかった。
薪を切る。木を削る。荷物を運ぶ。
何をするにも人の手が必要だった。
でも、水車なら――。
「……動力」
「お嬢様?」
「いや……」
私は水車を見ながら呟く。
「これ、他にも使えるんじゃない?」
「他にも?」
「うん」
例えば。木を削る。鋸を動かす。何かを挽く。
粉を作る。水を汲み上げる。
そして……。
「もっと大きな水車を作れば、もっと大きな力を出せるんじゃ?」
「そりゃまあ、水の量と流れ次第だろうが……」
棟梁が水車を見る。
「確かに、もっと大きくすれば力は強くなるだろうな」
「……ふふふ」
これは使える。いや、使えるどころじゃない。
今まで私は、商品を作ることばかり考えていた。でも、商品を作るための力そのものを増やせるなら――生産量そのものを増やせる。
「水車……もっと研究してみよう」
「お嬢様?」
「なんでもない!」
私は水車を見つめながら、思わず笑ってしまう。
木の鎖を作った。それを水車で動かした。
なら次は――水車そのものを、もっと便利に使う。
「……我が領地、意外と使えるものがいっぱいあるじゃない」
水。
もしかして私が思っている以上に――パンパ領には、まだまだ金になるものが眠っているのかもしれない。
「ふふふ……」
さて、次は何に水車を使おうかな。
クルークは、改めて周囲を見回した。
水車。木の鎖。歯車。
これだけの力を、今まで人がやっていた作業に使えるのなら、他にも利用できるはずだ。
「……うーん」
何かないか。
私は周囲の作業を一つずつ思い浮かべていく。
木を切る。木を削る。荷物を運ぶ。粉を挽く。
「……あ」
そういえば。
「粉を挽くのは……」
領民が使っている臼を見る。
「もう臼で回してるから……これは問題ないか」
粉を作る作業については、すでに道具がある。
わざわざ水車を使う必要はない。
「となりますと……」
クルークは腕を組む。
「それ以外のことを考えてみるかなぁ」
せっかく水車という動力があるのだ。
人が力を使っている作業を探してみればいい。
しかも、水車は一度動かしてしまえば、流れがある限り動き続ける。
「……人がずっとやらなくてもいい仕事」
そう考えると、意外とありそうだ。
木を削るのもそうだし、何かを叩いたり、持ち上げたり、回したりする作業もそう。
「ふふふ……」
これは、ちょっと面白くなってきた。
水車一つで、どこまで人の仕事を減らせるんだろう?
「お嬢様、なんか悪い顔してるぞ?」
「失礼な!」
思わず棟梁を睨む。
「私は領地の発展を考えているだけです!」
「そ、そうか……」
棟梁は少しだけ距離を取った。
「……まあ、いいけどな」
「?」
なぜ離れる。
私はただ、楽して稼げる方法を考えているだけなのに。
「さて……次は何を水車で動かそうかな」
パンパ領の新しい動力探しが、始まった。




