動く木の鎖
「お兄様!」
「んー?」
私は、木工作業をしているブレイお兄様のところへ駆け込んだ。
「木工作りを手伝ってください!」
「木工?」
「はい! ノコギリと穴あけを!」
「何するんだ?」
「これです!」
私は描いておいた絵を見せる。
「……なんだこれ?」
「階段を降りなくても、下の荷物を上に上げる機械です!」
「……」
お兄様が絵を見る。
「……ん?」
首を傾げる。
「まあ、よく分からんが……板を切って穴を開けるだけなら簡単だな」
そして絵をもう一度見る。
「しかも同じ形なら尚更だ!」
「お願いします!」
「分かった!」
◇
ギコギコ……
「同じ大きさで良いんだろ?」
「そうです!」
お兄様は手慣れた様子で木板を切っていく。
「そして両端に穴を開けると……」
私は周囲を探す。
「確か穴あけ機は……あった!」
「それを使うんですか?」
「そうだ!」
ゴリュゴリュ……
木に穴が開いていく。
「一枚できたけど。こんな感じか?」
「はい! これを沢山!」
「分かった!」
お兄様が作業を続けている間に、私は別の物を作る。
「歯車的な物を……」
古びた木の丸皿を見つける。
「これを使って……」
何ヶ所か棒を取り付ける。
「歯車風の完成!」
……本物の歯車とは全然違う。
でも、今回は試作品。
「動けばいいのよ!」
◇
「出来たけど。その後は?」
お兄様が大量の木板を並べる。
「組み立てるだけです!」
「これを?」
「はい! こんな感じで組み立てて下さい!」
「分かった」
木板を並べ、穴に横棒を通していく。
一枚。二枚。三枚。次々と繋いでいく。
「へー」
お兄様が眺める。
「鎖みたいになったぞ!」
「そうです!」
「で、これをどうするんだ?」
「この鎖の端に、この歯車を噛ませます」
「ふむふむ」
お兄様が歯車を確認する。
「あ……」
私は気付いた。
「しまった!」
「どうした?」
「この歯車の真ん中に穴を開けて下さい!」
「ふむ。この穴にも棒を差すって感じか」
「そうです!」
お兄様が穴を開ける。
「これでいいか?」
「はい!」
「で、これがなんなんだ?」
「お兄様、歯車の横棒を持って下さい。私はこっちを持ちます」
「うん」
二人で持つ。
「完成です!」
「何が!?」
「……」
確かに。これだけじゃ説明になっていない。
「それなら……」
私は近くにあった木を指差す。
「この木に縛ってみるか」
「こうか?」
「そうです!」
お兄様が鎖の両端を木に固定する。
「これでどうだ? 両サイドを縛ったぞ?」
「みてて下さい!」
私は鎖部分を掴む。
「こうやって動かすと……」
ギギギ。
「おー!」
鎖部分が動いた。
「動いたぞ!」
「はい!」
「で?」
「ここに例えば、籠を引っ掛けます」
私は小さな籠を鎖に取り付ける。
「そして、鎖を動かすと!」
ギギギギ……。
籠が動いていく。
「うむ。籠が動いたぞ!」
「逆に、この歯車の部分を動かすと……」
歯車を回す。
ギギギギ……。
「同じく鎖が動いて、籠も動いた!」
「どうです?」
「……」
お兄様は籠を見る。
「どうですって言われても?」
「……」
やっぱり。ピンと来てないか。
ならば、実際の使い方を説明するしかない。
「お兄様! 想像して下さい!」
「おう!」
「この片方を下の土地に。片方を上の土地に置くとします」
「おう」
「そして、この鎖に籠を引っ掛けます」
「うん」
「下から籠を引っ掛けて……」
私は歯車を指差す。
「これを、ぐるぐる回すと――」
お兄様が少し考える。
「……籠は?はい!」
「上に向かうか!?」
「そうです!」
私は両手を広げる。
「どうですか!?」
「…………」
お兄様が、動かなくなった。
そして。
「……これ」
「はい?」
「すげぇんじゃないか?」
「でしょ!?」
ようやく伝わった。
「これなら……」
お兄様が、実際に籠を動かしてみる。
「人が階段を登らなくても、荷物だけ上に運べる」
「そうです!」
「しかも……」
お兄様が歯車を見る。
「この歯車を回すだけなら、そんなに力はいらないんじゃないか?」
「そこです!」
「……」
お兄様が、今までとは違う目で木の鎖を見る。
「クルーク」
「はい?」
「これ、本当に大きくしたら使えるのか?」
「もちろん!」
……たぶん。いや。
使えるようにするのだ。
「だったら……」
お兄様が笑った。
「これを二階の窓につけよう!見た方が分かりやすい」
「はい!」
パンパ領の山道。
そこを行き来する人々。
重い荷物を背負い、何度も坂を登り降りする領民たち。その負担を減らすための第一歩。
それは――一枚一枚の木板を繋いだ、小さな木の鎖だった。




