木の鎖
うむ。荒削りもいいところだけど。
私は木板に描いた三つの図を眺める。
「ロープウェイ型、ケーブルカー型、スイッチバック型……」
この三種類。
これらを、地形に合わせて作る。
急な崖や谷を越えるならロープウェイ型。
比較的斜面が安定している場所なら、ケーブルカー型。
道を作れる場所なら、スイッチバック型。
「うん。悪くない」
問題は――
「どうやって動かすか、よね」
ロープウェイなら、当然ロープが必要になる。
「ワイヤーなんて、この世界じゃ作れそうもないし……」
となると。
「やっぱり紐……ロープか」
ロープなら作れる。でも。
「すぐ摩耗して切れそうなんだよなぁ」
荷物を吊る。何度も動かす。雨にも濡れる。
風にも晒される。
しかも、もし途中で切れたら――
「……荷物だけじゃ済まないよね」
何か他にないか。この世界の技術で作れて、丈夫で、修理も簡単な物。
「うーん……」
私は腕を組む。
そして。
「……ん?」
ふと、前世の記憶に引っかかる。
「チェーン……」
鎖。金属製のチェーンなら知っている。
でも、金属を大量に使うのは難しい。
なら。
「木で作ればいいんじゃない?」
私は紙に描き始める。
木の板。それを左右に並べる。
板と板を横棒で繋ぐ。さらに次の板。
横棒。板。横棒。
「こうして……」
ずらっと繋げていく。
「木製のチェーンみたいなものにする」
そして、そのチェーンを歯車に噛み合わせる。
「これを回せば……」
チェーンが動く。
「……よくね?」
思わず声が出た。
ロープよりも頑丈にできそうだ。
しかも木なら材料はある。
壊れても、その部分だけ交換できる。
長くしたければ、同じ部品を追加すればいい。
「これなら誰でも作れそうだし……」
木工師にも頼める。鍛冶師に特殊な物を大量に作ってもらう必要もない。
歯車だって木で作れるかもしれない。
「うむ……」
私は描いた図を眺める。
「我ながら凄くね?」
自画自賛してみる。
……まあ。
「と言っても、前世の知識をひけらかせてるだけなんだけど」
私がゼロから発明したわけじゃない。
前世で見た物。知っていた物。
それを、この世界で使えそうな形に置き換えているだけだ。
「でも……」
それでも。パンパ領には木が大量にある。
だったら、その木を使えばいい。
「問題は……」
この世界にチェーンそのものがあるのか。
私は立ち上がる。
「書庫!」
◇
祖父様の書庫。
私は本棚を片っ端から眺める。
「確か……この辺りに技術書が……」
一冊。また一冊。そして。
「あった!」
機械について書かれた本を開く。
「歯車……滑車……」
ページをめくる。
「……鎖」
「あるじゃん!」
思わず声が出る。
ただし。この本に描かれている鎖は、金属製。
木製の物については、ほとんど記述がない。
「まあ、金属で作れるなら木でも……」
できるかどうかは、別問題だけど。
「現物試験が必要ね」
いきなり大きな物を作るわけにはいかない。
まずは小さい物。木の板を何枚か作って。
横棒で繋いで。小さな歯車を作って。
「実際に動くか確認する」
そして、動くなら少しずつ大きくする。
「うん」
ようやく、最初の一歩が見えてきた。
ただ――
「誰に作ってもらおう?」
木工師に頼む?
それとも、お父様に相談する?
……いや。まずは。
「お兄様かな?」
ブレイなら木を削るのも上手い。
「よし!」
私は本を閉じた。
「まずは試作品を作ってみよう!」
パンパ領の物流改善。
その第一歩は、一本のロープではなく、木で作った鎖から始まることになった。




