突然増えた注文
第一集落から、少し離れた場所。
森の中にぽつんと存在する小さな集落がある。
ここで暮らしているのは、三世帯ほど。
全員が木こりを生業としている。
朝から森へ入り、木を切る。
薪にするもの。建築に使うもの。
板にするもの。
それぞれに分けて、村へ運ぶ。
昔から変わらない、この辺りの暮らしだ。
そんなある日のこと。
「……なんだ? この注文量は?」
届いた注文書を見ながら、一人の木こりが首を傾げた。
「なんかの間違いじゃねぇか?」
「いやー。私もそう思ったんだけど……」
別の木こりが注文書を覗き込む。
「どうやら間違いじゃないみたいだよ」
「……」
改めて数字を見る。
「多すぎだろ!」
思わず声が出る。
「この量の薪、何に使うんだ?」
「さあ?」
「さあって……」
「私に聞かれても分からないよ」
注文されている薪の量。
それは、普段の注文とは明らかに違っていた。
「これじゃ、冬備え前の量と変わらないじゃないか!」
冬になる前には、いつも大量の薪を用意する。
暖を取るため。料理をするため。冬を越すため。だからこそ、今の時期にこの量を注文されるのは異常だった。
「こりゃー、急がんとまずいな」
「だよね」
「今ある在庫、全部出しても足りるか?」
「……たぶん、足りない」
「マジかよ」
木こりは頭を抱える。
「しかし、一体こんな量を何に使うんだ?」
「それが分からないんだよね」
「注文してきたのは誰だ?」
「第一集落からだよ」
「第一集落?」
木こりが眉をひそめる。
「最近、何かあったのか?」
「さあ……」
「変な話でも聞いてないか?」
「そういえば……」
もう一人が思い出したように口を開く。
「最近、第一集落で新商品を見かけたって話は聞いたよ」
「新商品?」
「そう」
「……」
三人の木こりが顔を見合わせる。
「それと薪が何の関係があるんだ?」
「分からない」
「だよなぁ……」
しかし、注文書にはもう一つ気になるものがあった。
「……ん?」
「どうした?」
「これ」
指差した先。
そこには、薪とは別の注文が書かれていた。
「板材?」
「そう」
「板も欲しいって話よ」
「……」
木こりは注文書をじっと見つめる。
「薪だけじゃなく、板まで大量に?」
「こりゃ……」
森を見る。いつもと変わらない木々。
鳥の鳴き声。風に揺れる葉。
「何か始まってるんじゃないか?」
「第一集落で?」
「ああ」
「でも、何が?」
「それが分からん」
木こりは立ち上がった。
「とりあえず、木を切らなきゃ話にならん」
「だな」
「今日は森の奥まで入るぞ」
「分かった」
三人は斧を手に取った。
まだ誰も知らない。
第一集落で始まった小さな変化が――これから、この森の木材需要まで変えていくことを。
そして。
「しかし……」
森へ向かいながら、一人が呟く。
「本当に何に使うんだろうな?」
「さあな」
「気になるなぁ……」
その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。




