嬉しい悲鳴と生産限界
「旦那様。第三集落からお荷物が届きました」
執事のエルンが、屋敷へ運び込まれた荷物を指差す。
「分かった。いつも通りに配分してくれ」
「はい」
「それと、お祖父様よりお手紙も」
「手紙?」
私は少し驚く。父から手紙を出すことは、よくあるが、祖父からというのは珍しい。
「どうぞ」
「なんだ? 手紙とは珍しいな」
私は封を開ける。
そこには――
『この二つの商品。売れそうだ。あるだけ持ってこい!』
「…………」
しばらく沈黙。
「はぁ!?」
思わず声が出る。
「あるだけって……まだ生産もしてないが!?」
「旦那様?」
「エルン! 木工師と炭焼師を呼んでくれ!」
「はい! 直ちに!」
◇
しばらくして。
「領主様、どうしました? 突然?」
呼ばれた炭焼師と木工師が、並んで立っている。
「例の固形炭と炭ペン。覚えているか?」
「それはもちろん」
「どれほど生産できる?」
「固形炭は……」
炭焼師が少し考える。
「そうですな。一日かけても、一五個が精一杯ってところですな」
「炭ペンの方は……」
木工師が答える。
「こちらも一日、二十五から三十本が限界かと」
「それは、一人でやってか?」
「もちろんです」
二人とも不思議そうな顔をする。
「しかし……どうかしましたか?」
私は手紙を見せる。
「それが……」
「はい」
「第三集落の責任者が――」
一度、息を吸う。
「あるだけ送れ、と」
「…………」
「へ?」
炭焼師が固まる。
「あるだけ送れって言っても……」
木工師も困った顔をする。
「生産してないですが……」
「そうだ」
私も頭を抱える。
「話が噛み合わなくなってしまった」
祖父は商人との話を進めている。
商人は商品を欲しがっている。
だが。商品がない。
「恐らく、二ヶ月以内にはまた商人が来ると思う」
私は二人を見る。
「それまでに、作れるだけ作って送り込みたい」
「えーーー!」
二人の声が重なる。
「まあ……」
炭焼師が少し考える。
「炭の方は、もう暖かい時期ですから、冬ほど忙しくはありません」
「ならば?」
「多少は余裕がありますが……」
「よし」
私は頷く。
「なら、精一杯生産してくれ」
「はい!」
「ただし!」
二人が顔を上げる。
「今までと同じやり方で、無理に数だけ増やす必要はない」
「と、言いますと?」
「手間が掛からないように、可能な限り効率化してくれ」
「効率化……」
「専用の場所を作るなり、専用の工具を作るなりしていい」
二人が顔を見合わせる。
「必要なら、作業台でも何でも作ってくれ」
私は続ける。
「掛かった金は、私が建て替える」
「……!」
「請求は全部、私に」
「…………」
二人は少し黙る。そして。
「……はい!」
今まで手作業で作っていた商品。
それを売るために。今度は、作るための仕組みそのものを変える。パンパ領にとって。
これは大きな転換点になるかもしれない。
「よし」
私は満足して頷く。
これで商品が売れれば――売上が入る。売上が入れば――また新しい設備を作れる。
設備が増えれば、生産量も増える。
「……これが商売ってやつか」
まだ小さな一歩。それでも。
パンパ領は確実に、産業を持つ領地へと変わり始めていた。
屋敷の扉を出ると炭焼師と木工師は、顔を見合わせた。
「……しかし、どうする?」
「どうすると言われても……」
炭焼師が苦笑する。
「やるしかないでしょう」
「まあ、そうだな」
二人は歩きながら、さっそく考え始める。
「炭はどうする?」
「そうだな……」
炭焼師が腕を組む。
「炭窯を増やすしかないかな?」
「やっぱりか」
「今の窯だけでは、とても間に合わん」
「そっちは?」
「俺か?」
木工師が少し考える。
「そもそも、炭がなければペンは作れない」
「確かにな」
「だから、先に周りの木の部分を作りためる」
「ほう」
「それと、専用の削り道具もあった方がいい」
「鍛冶師に頼むか?」
「ああ。今の道具だけじゃ、数を作るのは厳しい」
炭焼師が頷く。
「そうだな」
「頼んだぞ!」
「お前もな」
「もちろんだ」
二人は、それぞれの仕事場へ向かう。
炭を作る。木を削る。芯を作る。組み立てる。
そして、完成した商品を運ぶ。
今までなら、一人の職人が自分の仕事だけを考えればよかった。
だが――
「……なんだか、大変なことになったな」
「そうだな」
二人とも苦笑する。
しかし。その顔には、どこか楽しそうな色も浮かんでいた。自分たちが作った物が誰かに欲しいと言われている。
しかも――あるだけ欲しいと。
「よし。やるか!」
「おう!」
パンパ領で初めての本格的な増産がこうして、職人たちの手によって始まった。




