贅沢生活への第一歩
流石、お母様。
早速、動き出したか。私は屋敷の窓から、工事が始まった場所を眺める。
「移動距離を短くして、椿の種が集めやすい場所に工場を建てる……」
実に合理的だ。
まあ、工場と言っても、最初は小さなものになると思うけど。
それでも。今まで何もなかった場所に、新しい仕事が生まれる。これは大きな一歩だ。
しかも――
「貴族向けと一般向けに分けるのね」
お母様の話では、椿油と石鹸を二種類に分けて販売するらしい。
一般向けは、価格を抑えて普段使いしやすい物。
そして貴族向けは――
「容器にも拘る、と」
まあ、そうよね。
貴族が買うなら、中身だけ良ければいいという話ではない。
高級感のある容器。見た目。香り。
そして、贈り物としても使えるような包装。
前世でも、高級品ってそういうものだった。
「いい流れね!」
何より重要なのは――現金収入が増えること!
今までのパンパ領は、木材と竹が中心。
しかも、山の中。作っても運ぶのが大変。
農地も少ない。人口も少ない。
そんな領地に、新しい現金収入が生まれる。
そして。
収入が増えれば――領地をさらに発展させられる。道も整備できる。家も建てられる。
農地だって増やせるかもしれない。
そして何より――
「贅沢三昧の生活が待っている!」
ふふふ。
美味しい物を食べて。綺麗な服を着て。
大きなお風呂に入って。快適なベッドで寝る。
貴族に生まれたんだ。
それくらい、してもいいじゃない!
「頑張ろう……!」
私は拳を握る。
パンパ領の未来のために。
そして――私の贅沢生活のために!
まずは、椿油と石鹸。
これを成功させる。
「……次は何を商品にしようかな?」
こうしてクルークは、また書庫へ向かうのだった。
「クルークお嬢」
「ん?」
屋敷の中でリヒトに声を掛けられる。
「この前の、あの謎実験の椎茸なんですが……」
「あー」
私は思い出す。おがくずと米糠を瓶に詰めて、椎茸を入れたやつだ。
「まだまだ結果が出るのは、数ヶ月先よ!」
「そうなんですか?」
「うん!」
「それがですね……」
リヒトが瓶を持ってくる。
「ちょっと中を見てみたら、白カビが生えていて……」
「え!?」
私は慌てて瓶を覗き込む。
「もう!?」
「もう?」
リヒトが首を傾げる。
私は瓶の中をじっと見る。
白いものが、材料の表面に広がっている。
「……」
これは。間違いない。
「それは白カビじゃないわよ!」
「え?」
「椎茸の菌糸!」
「……菌糸?」
「そう!」
まだ完全ではない。でも、確実に進んでいる。
「早く準備を進めなくちゃ!」
「準備?」
「うん!」
私は立ち上がる。
「これ、上手くいくかもしれない!」
「……お嬢様?」
「椎茸を増やせるわ!」
思わぬところで。パンパ領の新しい食料――いや。新しい産業が、芽を出し始めていた。




