椎茸を増やそう
「ん?」
屋敷の外から声が聞こえた。
「おばちゃん! どうした?」
「あら、クルークお嬢様」
そこにいたのは、いつも山の恵みを届けてくれる領民のおばちゃんだった。
「リヒトさん。帰ったの?」
「今さっき!」
「そうなのね」
おばちゃんが籠を差し出す。
「きのこ採れたから持ってきたわ!」
「ありがとう!」
私は籠を受け取る。
「では、私はこれで」
おばちゃんが帰ろうとした、その時。
「クルークお嬢!」
「ん?」
後ろから声がした。
振り返ると、リヒトが立っている。
「どうした?」
「リヒトさん!」
私は籠を持って駆け寄る。
「これ!」
「え?」
「松茸よ! 松茸!」
籠の中には、相変わらず大量の松茸。
「そうだな」
リヒトは籠を覗き込む。
「椎茸はこれだけか。残念」
「…………」
やはり。
やはり椎茸の方が上か……この領地では、松茸より椎茸。地球とは完全に価値が逆転している。
「ん?」
リヒトが私を見る。
「どうかしました?」
「いや。何でも無いです!」
「?」
私は椎茸を一つ取り出す。
「……この椎茸だけど」
「はい?」
「一本、頂戴!」
「一本?」
「それと……」
私は考える。
確か、椎茸の栽培方法なら前世の知識にある。
原木栽培。
ただ、いきなり原木を用意するのは難しい。
ならば。まずは別の方法を試してみよう。
「ガラス瓶ある?」
「ガラス瓶ですか?」
「そう!」
「いや……ありますが」
リヒトが少し困った顔をする。
「高価な物で……」
「渡さなくてもいいけど」
私は即答する。
「準備を!」
「準備?」
「そう!」
そして。
「そうね……」
必要な物を考える。
「おがくず!」
「おがくず?」
「それと、米糠!」
「米糠ですか?」
「うん!」
椎茸が増えれば。食料になる。
保存食にもできる。
そして何より――今まで希少だった椎茸を、領内で作れるかもしれない。
「リヒトさん!」
「はい?」
「ちょっと実験するわよ!」
「……またですか」
リヒトが苦笑する。
しかし。その顔は、少し楽しそうだった。
パンパ領では今日もまた。
新しい産業の種が、ひとつ見つかろうとしていた。
「準備出来ましたが?」
「おー!」
私は用意された材料を見る。
おがくず。
米糠。
そしてガラス瓶。
「えーっと……」
私は順番を確認する。
「おがくずと米糠、ガラス瓶を……そうね。蒸して!」
「はぁ……」
「可能な限り!」
「はいはい」
リヒトが準備を始める。
しばらくして。
「こんなんでいいのかな?」
私は蒸された材料を見る。
「これで余分な雑菌は死んだはず」
「雑菌……?」
「そうしたら、瓶の中におがくずと米糠を入れて!」
「分かりました」
リヒトが瓶へ材料を入れようとする。
「あっ!」
「はい?」
「入れる時にも、ちゃんとスプーンはお湯で殺菌よ!」
「……はぁ?」
「大事なの!」
リヒトはよく分からない顔をしながらも、言われた通りにする。
「入れましたが?」
「よし!」
これで準備は整った。
「そうしたら、この竹網ザルをして」
私は瓶の口に竹網ザルを被せる。
「少し冷やしてから、椎茸を入れてっと」
「椎茸を?」
「うん!」
ここが一番重要。
椎茸が、この中で増えてくれればいい。
「二十五度くらいで保管!」
「二十五度……」
「それと、埃が立たないところで!」
「分かりました」
リヒトが瓶を持っていく。
「これで……いいんですか?」
「たぶん!」
「たぶん……」
「実験だから!」
「なるほど……」
リヒトは苦笑する。
私は瓶を眺める。
これで上手くいけば――椎茸を増やせる。
そうなれば、今まで少量しか採れなかった椎茸を、領内で生産できるかもしれない。
「……お願いだから、生えてきてね」
私は瓶に向かって呟いた。
果たしてこの小さな瓶から、新しい産業は生まれるのだろうか。




