大人たちも実験開始
「あら、あなた。お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「リヒトもお疲れ様」
「ありがとうございます、奥様」
屋敷へ戻ってきたストラグルとリヒトを、リラスクが迎える。
「お父様は?」
「元気だったぞ」
「そう。良かったわ」
「商品の件は、商人に話してくれるそうだ」
「まあ!」
リラスクも嬉しそうに笑う。
「それなら、上手くいくといいわね」
「ああ。こればかりは商人がどう判断するかだな」
二人が話していると、ストラグルが何かを思い出した。
「そう言えば」
「はい?」
「クルークが椿の種で、何か実験するって言っていてな」
「ああ」
リラスクが頷く。
「今、干してありますよ」
「……干してある?」
「ええ。籠いっぱいに」
「なにをする気なんだ?」
「実験です、としか」
リラスクが苦笑する。
「秘密って言われました」
「秘密か……」
ストラグルは少し考える。
最近のクルークは、何かを見つけては実験している。
固形炭。炭ペン。竹の加工。今度は椿の種。
「まあ、危険ではなさそうだから、自由にさせておくか」
「そうね」
「クルークが楽しそうなら、それでいい」
ストラグルはそう言って笑った。
すると。
「じゃあ」
リヒトが口を開く。
「私も実験を早速してみますか」
「リヒトも?」
リラスクが驚く。
「はい」
リヒトは少し楽しそうに笑った。
「竹の子の方も、もう少し味を調整してみたいと思いまして」
「あら。期待していいのかしら?」
「もちろんです。何か面白い物が出来るかもしれませんので」
リヒトはそう言って、調理場へ向かっていく。
「出来たらお持ちしますよ」
「ええ。楽しみにしてるわ」
その背中を見送りながら、ストラグルが呟く。
「……なんだか最近、屋敷中が実験だらけだな」
「ふふっ」
リラスクが笑う。
「クルークの影響かしらね」
「かもしれんな」
そして屋敷の中では今日もまた、新しい何かが作られようとしていた。
「クルークお嬢様」
「ん?」
屋敷の中で声を掛けられる。
振り返ると、集落から来た領民の一人だった。
「リヒトさんは、いますか?」
「確か、お父様と出掛けてますよ」
「そうなのね」
領民は手に持っていた籠を差し出す。
「きのこが採れましたので、置いていきますね」
「はーい」
私は籠を受け取る。
「きのこかぁ」
何気なく中を覗き込んで――
「…………」
「どうしました?」
「げっ!?」
思わず声が出た。
「松茸!?」
籠の中には、見覚えのあるきのこ。
それも――
「それと椎茸!」
「まあ。よく知ってるわね」
領民が笑う。
「でも椎茸は、少ししかなくて……」
「いやいやいや!」
私は籠の中を指差す。
「松茸がこんなに沢山採れてるじゃない!」
「え?」
「え?」
今度は向こうが首を傾げる。
「松茸は、その辺にも生えてますし……」
「…………」
「椎茸の方が美味しいですよ!」
「…………はい?」
なんてこった。
松茸が、その辺に普通に生えている?
しかも。
「椎茸の方が美味しい……?」
私は籠を見つめる。
前世の記憶では、松茸といえば高級食材。
それが。この世界では――
「椎茸の方が、貴重なのか……?」
地球の常識。また一つ、崩れ去った。




