職人たちの試作
「なに? 領主様からの?」
炭焼師が手渡された紙を見る。
「はい。あの炭ペンの色を変えられないか、と」
「変えるって言うと……黒以外にか?」
「恐らく」
炭焼師は紙を眺めながら、少し考え込む。
「それなら……」
「はい?」
「灰を基本に、何か混ぜてみるか」
「何かとは?」
「焼き物に使っている、青とか赤をだ」
「ああ……なるほど」
焼き物の色付けに使っている顔料。
それらの中には、鉱石などから作られているものもある。
「鉱石から取れているなら……いけそうかな?」
「まあ、失敗してもいいって話だ」
炭焼師は笑う。
「やってみるぞ」
「お願いします」
こうして。炭ペンの新しい色を作る実験が始まった。
一方、その頃。
「竹細工?」
「はい。竹団扇って」
「竹団扇?」
竹細工師が首を傾げる。
「この絵に書いてあるような物です」
紙に描かれた絵を見せる。
「ほぅ……」
竹細工師は絵をじっくり眺める。
細い竹を並べて。持ち手を作り。
そして――
「開いて使うわけか」
「そうみたいですね」
「なるほど……」
竹細工師は、もう一度絵を見る。
「これなら、それほど難しくないな」
「作れそうですか?」
「ああ」
竹細工師が頷く。
「試しに細工してみるか」
「お願いします」
こうしてこちらでもパンパ領の竹を使った、新しい道具の試作が始まった。
色付き炭ペン。そして――竹団扇。
まだ、どちらも商品になるかは分からない。
だが。パンパ領では今まで使われていなかった材料や、見過ごされていた技術が。
少しずつ新しい形へ変わり始めていた。
そしてその中心にいるクルーク本人は――まだ何も知らずに、次の材料を探しているのだった。
その中心人物は――相変わらず書庫で調べ物をしていた。
「うむ……」
私は領地の報告書を眺める。
「ここの報告書を鑑みると……」
少量の鉄製品。そして、少量の焼き物。
どちらも領内で作ることができるらしい。
ただし。
「領外へ売り出すっていうより、領内で使う分だけ販売か」
鉄製品なら農具や包丁。
焼き物なら鍋や食器。
生活に必要な物を、領内で作っている。
だからこそ、わざわざ大量生産する必要もない。
「まあ……」
私は領主館の中を思い浮かべる。
「我が家で使っている物を見る限り、大量生産して売れるような物ではないかな?」
そもそも。パンパ領は山の中だ。
大量に作っても、それを運び出すのに費用が掛かる。
「物流だけで、こちらの赤字確定か……」
安く作れても。
運ぶのに高い費用が掛かれば意味がない。
ならば。大量に作って遠くへ売るよりも――
「やっぱり、他にない物を売るしかないか」
木材や竹を、そのまま売るだけでは利益が薄い。なら。
パンパ領でしか作れない物。
あるいは、ここで作るからこそ価値が高くなる物。そういう商品なら、山の中という立地も弱点ではなくなるかもしれない。
「……まだまだ調べる必要があるわね」
私は報告書をめくる。
パンパ領には、何があるのか。
そして――何が、まだ使われていないのか。
それを見つけるまで、私は書庫から出るつもりはなかった。




