山奥の男爵領、発展の余地はあるのか?
あれから四年。私もすっかり成長した。
そう!現在、四歳児です!
「…………」
前世の記憶があるせいなのか、ハイハイはかなり早く習得した。歩くのだって早かった。
まあ……今でも調子に乗って走ると、たまに転ぶけど。
「クルーク、大丈夫!?」
「だいじょうぶ!」
……四歳児の身体って、思ったより難しい。
頭の中は前世の大人なのに、身体は四歳。
このギャップには未だに慣れない。
そして、もう一つ。
読み書きもできるようになった。
これは、お祖父様が残してくれた書庫のおかげだ。
この家には、歴代の当主が集めた本がかなり残っている。
文字については、お母様に教えてもらった。
こちらの文字は、前世のローマ字に近い。
完全に同じというわけではないけど、規則性が分かれば覚えるのは難しくなかった。
おかげで今では、本を読むこともできる。
……まあ。四歳児が一人で書庫に籠もって本を読んでいると、ちょっと怪しまれるので、ほどほどにしている。
とはいえ。私が書庫にいる時間は長い。
理由は簡単。情報収集だ。
この世界がどういう場所なのか。
パンパ領はどんな領地なのか。
何が作られていて、何が売られているのか。
私は本を読み漁った。
そして――分かったことがある。
「…………」
パンパ領。
山の中にある男爵領。人口は少ない。
平地も少ない。農業は段々畑が中心。
主な収入源は――木材。そして、竹。
「…………以上?」
思わず本を閉じた。
「終わってないか……?」
いや。本当にこれだけなのだ。
もちろん、農作物も作っている。
米がある。これは助かった。
味噌もある。醤油もある。
……うん。
日本人として、ここは本当にありがたい。
他にも麦や粟などが作られている。
食文化そのものは、前世の地球とそこまで大きく違わない。
肉も食べる。主に鶏。
それから罠に掛かる鹿や猪。たまに熊。
魚は山なので、川魚が中心らしい。
生活するだけなら――まあ、何とかなる。
ギリギリだけど。
それに、ロバのような小さな馬もいる。
この辺りでは荷物を運ぶために活躍しているらしい。
……ただ。
「発展するか?」
と言われると――。
「うーん……」
難しい。何しろ、山の中なのだ。
平らな土地がほとんどない。
農地を増やそうにも、そもそも農地にできる場所が少ない。
段々畑を増やすにも限界がある。
人口を増やそうにも、食料を増産できない。
そして、山道。これがまた酷い。
荷車が通れる場所も限られている。
当然、大量の商品を運ぶのも難しい。
つまり。
「…………」
私は机に突っ伏した。
これ。詰んでないか?
前世のホームセンターで働いていた知識を使えば、何かできると思っていた。
木材。工具。農具。建築資材。園芸用品。
色々な商品を見てきた。
DIYの相談を受けることもあった。
だから、この世界でも何か役に立つだろう。
そう思っていた。
でも――。
「そもそも土地がないじゃん……」
農業を発展させようにも土地がない。
工場を作ろうにも、運ぶ道が悪い。
商品を作っても、売りに行くのが大変。
そして人口が少ない。
……いや。
これ、ホームセンター以前の問題じゃない?
「はぁ……」
それに――期待していたものもあった。
ステータス。魔法。スキル。
そういうものだ。
異世界転生といえば、あるだろ?
自分の能力を確認するために、
『ステータスオープン!』
とか。魔法を使って、
『ファイアボール!』
とか……やってみた。
もちろん。しかし何も起きなかった。
「…………」
残念。魔法は絵本の中だけだった。
ステータス画面も出てこない。
どうやら私は、普通の人間として転生したらしい。
……いや。それなら、それでいい。
チート能力がなくても、前世の知識はある。
問題は――その知識をどう使うかだ。
「…………」
やっぱり。
まずは現地を見ないと駄目だ。
本だけでは分からないことが多すぎる。
山道がどれくらい酷いのか。
木材はどのくらい採れるのか。
竹はどこに生えているのか。
畑はどれくらいあるのか。
川は。水は。家は。人は。
実際に自分の目で見てみたい。
「…………」
でも。私は四歳児。一人では外に出られない。
当然だ。
「お母様にお願いしてみるか」
私は書庫を出て、お母様を探した。
しばらくして――。
「お母様!」
「どうしたの、クルーク?」
「外に行きたいです!」
「外?」
「はい!」
お母様は少し驚いた顔をした。
「一人で?」
「……」
しまった。四歳児だった。
「……駄目ですか?」
「うーん……」
お母様は少し考える。
そして――。
「一人では駄目ね」
ですよね。
「なら、お母様に連れていって欲しいです!」
「私が?」
「はい!」
しばらく私を見つめていたお母様は、やがて優しく笑った。
「そうね」
そして――。
「じゃあ、行きますか」
「やったぜ!」
思わず拳を握る。
ついに――館の外へ出られる!外に出られて居たのは館の庭のみ。
本で見るだけだった領地を、実際に自分の目で見られる。
どんな山なのか。どんな道なのか。
どんな人が暮らしているのか。
そして――この領地には、本当に発展する余地がないのか。
私はワクワクしながら、お母様についていった。まずは、自分の目で確かめてみよう。




