新商品登録が続きすぎて、商会に怪しまれる!?
ここは、クルークのお祖父様とお祖母様が暮らす、第三集落の中央館。
「ストラグルから、また手紙か」
届いた手紙を手に取り、わしは封を切った。
「そうね。あの子も頑張って領主をやっていますけれど」
妻が隣から手紙を覗き込む。
「わしの息子だ。それくらい大丈夫!」
「でもねぇ……クルークちゃんが、色々やりすぎじゃないかしら?」
「ん?」
「あの子、無理をしていないかしら。まだ四歳なのよ?」
妻の言葉に、わしは手紙から目を離した。
確かに、クルークはまだ幼い。
それなのに、次から次へと新しい商品を考え、領地の開拓まで指揮している。
普通の四歳児なら、遊んでいる時間だろう。
……いや、そもそもこの領地では、遊ぶという概念そのものが怪しいのだが。
「そうだな。子供らしさが、あまりないのは確かだ」
「でしょう?」
「だが、それでもよい。あの子は領民のため、領地のために何ができるかを一番に考えておる。立派なことではないか」
「それはそうなのだけれど……」
妻は納得しきれない様子で、ため息をついた。
孫を心配する気持ちは、わしも同じだ。
しかし、クルークの働きによって、領地の暮らしは確実に変わり始めている。
そこは認めなければならない。
「それで、手紙には何と書いてあるの?」
「ああ、そうだった」
わしは手紙に目を落とした。
「また商品登録の依頼だ」
「……また?」
「うむ。また新商品だそうだ」
「まあ……」
妻が呆れたように目を細める。
一方、わしは思わず笑みを浮かべていた。
「流石だな! まさかわしも、この歳になって新商品が出るたびにワクワクするとは思わなんだ!」
「あなたも、もう歳なんですからね。あまり興奮して、無理をしないでくださいよ」
「なに、まだまだ元気だぞ!」
「その言葉を信じて、何度苦労したことか……」
妻の小言は聞かなかったことにして、わしは手紙を読み進めた。
しかし……。
「それにしても、これほど新商品登録が続くと、商会から何か探りが入るかもしれんな」
「まあ、そうでしょうねぇ」
妻も腕を組んだ。
「この国中を探しても、これほど短い間隔で新商品を登録する者なんて、そうそういないでしょうから」
「うむ。普通なら、一つの商品を考案し、試作し、売り出すだけでも相当な時間が掛かる」
それなのに、クルークは次々と新しい商品を生み出している。
木工品、炭を使った商品、紙作り、その他にも様々なものがある。
しかも、領地の開拓と並行してだ。
商会が不思議に思わないはずがない。
「かといって、登録しなければ、すぐに真似をされるからな」
「そうね。せっかく考えた商品を他所に真似されてしまっては、領地の利益になりませんもの」
「うむ。ならば、早めに登録を済ませるしかあるまい」
「そうね。今回も私が手続きをしておきますよ」
「頼んだぞ」
「はいはい。分かっていますよ」
妻は慣れた様子で返事をした。
新商品登録の手続きは、すっかり妻の仕事になっている。
……いや、正確には、クルークが新商品を考えるたびに妻の仕事が増えているのだ。
まあ、本人も楽しんでいるようだから、問題はないだろう。
たぶん。
「それと、もう一つ頼まれておる」
「今度は何かしら?」
「新しい本が欲しいそうだ」
「本?」
「うむ。植物、虫、鉱石、建築、土木。それから、開拓に使えそうな本を集めてほしいとのことだ」
妻の顔が、ぱっと明るくなった。
「まあ! 勉強家さんね。きっと私に似たのね!」
「……そうかもしれんな」
わしは曖昧に返事をした。
妻は昔から、植物や土地のことに詳しい。
クルークも祖母から教われば、色々と学べることがあるだろう。
だが、今回頼まれた本の種類は幅広い。
植物や虫だけでなく、鉱石に建築、土木まで。
四歳の子供が欲しがる本としては、なかなか珍しい組み合わせだ。
「まあ、それも買ってきてくれ」
「分かりました。必要な本を探しておきますね」
「金の心配は、もういらんからな」
「そうねぇ。お金の心配は、すっかりなくなりましたものね」
妻が微笑んだ。
以前は、本を一冊買うにも予算を考えなければならなかった。
欲しい本があっても、すぐには買えない。
そんな時代が、長く続いていたのだ。
それが今では、新しい本を買い集めることにも余裕ができた。
すべて、クルークのおかげだ。
「ああ、あの子のおかげだな。この調子では、わしが長年かけて集めた蔵書など、あっという間に追い越されてしまうぞ」
「ふふふ。やっとお金を貯めて買い集めた本なのにね」
「笑い事ではないぞ!」
「でも、嬉しいことでしょう?」
「……まあ、そうだな」
わしは苦笑した。
本を集めるには金がいる。
そして、集めた本を読む時間もいる。
若い頃から少しずつ買い集めてきた蔵書は、わしにとって大切な財産だった。
それを、孫があっという間に追い越していく。
少し寂しい気もするが、それ以上に楽しみでもある。
「しかし……」
わしは、ふと考え込んだ。
「わしが買った本の中に、商品開発につながりそうなものがあったか?」
「さあ?」
妻は首を傾げた。
「もしかしたら、クルークちゃんは本を読んで、何か発想を変えたのかもしれませんね」
「本を読んで、発想を変えた?」
「ええ。大人なら当たり前だと思って見過ごしてしまうことでも、子供なら違う見方をすることがあるでしょう?」
「……なるほど」
わしは腕を組んだ。
確かに、長く生きていると、物事を自分の経験や常識で判断するようになる。
こういうものは、こう使う。
これは昔からこうしている。
そんな考えが、いつの間にか頭に染みついてしまう。
だが、子供には、その常識がない。
だからこそ、大人が思いつかないことを考えるのかもしれない。
「子供の方が、発想が豊かだということか……」
「そういうことかもしれませんね」
妻は笑った。
「それに、クルークちゃんは好奇心も旺盛でしょう? 気になったことを、すぐに調べようとしているのかもしれませんよ」
「ふむ……」
わしは、もう一度手紙に目を落とした。
新商品登録の依頼。
開拓に必要な本の注文。
次々と届く報告。
どれも、クルークが自分で考え、行動した結果なのだろう。
だが、本当にそれだけなのだろうか?
「……まあ、今は考えても仕方がないか」
「そうね。まずは頼まれた本を集めましょう」
「ああ。商会への登録も頼むぞ」
「はいはい」
妻は手紙を受け取り、必要な手続きを確認し始めた。
わしは窓の外へ目を向けた。
第三集落の向こうには、木々に覆われた山々が連なっている。
この領地には、まだまだ知られていない資源がある。そして、それを活かす方法も。
「クルークよ。次は何を思いつくのだ?」
思わず、笑みがこぼれた。
孫の活躍が楽しみで仕方がない。
……ただし、あまり無理はしてほしくないものだがな。




