休日の概念が、ヴァイプにも通じません!
開拓地にて。
「…………うーん」
私は、地図を前にして唸っていた。
いや、地図を見ているわけではない。
考えているのだ。休日について。
朝ごはんのとき、お父様に休日の話をしてみた。
しかし、結果は散々だった。
仕事がなければ休めばいい……そういう問題じゃないのよ!
仕事があるからこそ、定期的に休む必要がある。
でも、どう説明すれば分かってもらえるのか。
そもそも、この世界では休日という考え方自体がないのかもしれない。
「……はぁ」
「お嬢様?」
声をかけられ、顔を上げる。
そこには、ヴァイプさんが立っていた。
「先程からどうしました? 考え事ですか?」
「うん。ちょっとねー」
私は、頬杖をついた。
「ねえ、ヴァイプさん。さっき朝ごはんのとき、私が話していた休日って、どう思った?」
「休日ですか?」
ヴァイプさんは、少し考え込んだ。
「うーん……。正直、あまりピンと来ませんでしたね?」
「……そうか」
やっぱりか。
これは、かなり根深い問題なのかもしれない。
お父様だけではない。
ヴァイプさんにも伝わらないとなると、パンパ領では、休日という考え方そのものが一般的ではないのだろう。
「……ねえ、ヴァイプさん」
「はい!」
「買い物をしたり、ゆっくり過ごしたりしたいとは思わない?」
「買い物ですか? たまにしていますが?」
「……たまに?」
買い物をすることはあるらしい。
なら、休日に買い物を楽しむという考え方もあるのでは?
「何を買うの?」
「領主ご家族のお食事に使う材料とかですね!」
「…………」
ああ、うん。そういうことね。
仕事のための買い物か。
「……ほかには?」
「ほか、ですか?」
「ええ。自分のために買い物をしたり、何か好きなものを見たりとか」
「うーん……。必要なものがあれば買いますけど」
「…………」
話が噛み合わないにも程がある!
いや、ヴァイプさんは何も悪くない。
私の質問に、きちんと答えてくれている。
ただ、私が想像している買い物と、ヴァイプさんが考えている買い物が違うのだ。
私が言いたいのは、必要だから買うという話ではない。
買い物そのものを楽しむこと。
特に目的もなく店を見て回ったり、気に入ったものを買ったり。
そういう時間のことなのだけれど……。
「…………」
……駄目だ。
このままでは、話が進まない。
もっと根本的なところから聞いてみよう。
「ねえ、ヴァイプさん」
「はい!」
「ヴァイプさんが小さい頃って、遊んだりしなかったの?」
「遊びましたよ?」
「……遊んだ?」
「はい!」
おお!ようやく、それらしい話が出てきた。
子供の頃に遊んでいたのなら、仕事とは関係のない時間もあったということだろう。
「どんな遊びをしていたの?」
「両親や友達と、木の実を拾ったり、山菜を採ったりしました!」
「……ほう」
木の実拾い。山菜採り……うん。
確かに、子供の遊びとして成立するのかもしれない。
山の中で、家族や友達と一緒に木の実を拾う。
食べられる山菜を探す。
それ自体は、楽しいことだろう。
「それから、川で釣りもしましたよ!」
「釣り?」
「はい! 魚が釣れると、みんな喜んでいました!」
「……なるほど」
楽しそうではある。
家族や友達と一緒に川へ行き、釣りをする。
釣れた魚を見せ合ったり、誰が一番釣れるか競争したり。
そういう時間は、きっと楽しかったのだろう。
……でも。
「ヴァイプさん。それって、お仕事のお手伝いではなかったの?」
「えっ?」
ヴァイプさんは、不思議そうな顔をした。
「木の実や山菜を採れば、食べられますよね? お魚だって、夕食になりますし」
「……そうね」
「だから、家族みんなで採りに行っていたんです!」
「…………」
なるほど。そういうことか。
ヴァイプさんにとって、木の実拾いや山菜採り、釣りは、遊びであると同時に生活の一部でもあったのだ。
家族と一緒に過ごす時間ではある。
友達と楽しむ時間でもある。
でも、同時に食料を確保するための活動でもある。
つまり……。
「…………」
やっぱり、話が噛み合わない!
いや、遊びがなかったわけではないのだろう。
ヴァイプさんは、ちゃんと子供時代を楽しんでいたはずだ。
ただ、遊びと生活、仕事の境目が、私の前世とは違うのかもしれない。
私の前世では、仕事をする時間と、休む時間を分けて考えることが多かった。
でも、この領地では、生活そのものが仕事とつながっている。
食べるために採る。
暮らすために作る。
必要なものを手に入れるために働く。
そして、やるべきことが終われば休む。
そういう考え方なのだろう。
「……うーん」
私は、再び頬杖をついた。
これは、思っていた以上に難しい問題かもしれない。
単に休日を作ればいいという話ではない。
休むことに、どんな意味があるのか。
仕事をしない時間を、どう考えるのか。
そのあたりから、少しずつ理解してもらう必要がありそうだ。
「……ヴァイプさん」
「はい!」
「今の生活で、疲れたときはどうしているの?」
「疲れたときですか? 少し休んで、それから仕事に戻ります!」
「……そう」
やっぱり、そうなのね。
疲れたら休む。でも、仕事がなくても休む、という発想は薄い。
そして、仕事がある限り、基本的には仕事を続ける。
……うーん。
定期的に休むという考え方を広めるには、時間がかかりそうだ。
「……分かったわ。ありがとう、ヴァイプさん」
「いえ! お役に立てましたか?」
「ええ。とっても!」
……実際、かなり参考になった。
この領地の人たちが、どういう生活を送っているのか。何を楽しみにしているのか。
それを知ることが、休日を考える第一歩になるだろう。
ただ、今すぐ領地全体の働き方を変えるのは難しそうだ。
まずは、自分の周囲から考えてみる。
仕事を交代で休めるようにする。
一日の作業時間を調整する。
そして、休んでも仕事が回る仕組みを作る。
そうすれば、少しずつ変えていけるかもしれない。
「…………」
……あれ?
それって、また新しい仕事が増えるってことじゃない?
「…………はぁ」
私は、思わずため息をついた。
休日を作るために、休日なしで働く。
……本末転倒じゃない!
「お嬢様? やっぱり、お疲れなのでは?」
「……そうかもしれないわね」
ヴァイプさんの言葉に、私は苦笑した。
まずは、自分が休めるようにするところから始めるべきかもしれない……でも。
どうすればいいのかしら。
私は、またしても頭を抱えることになった。




