パンパ領に、休日という概念はありません!
「ふぁ〜……」
眠い。とにかく、眠い。
最近は連日、開拓地への出勤。
現場の確認をして、職人たちに指示を出して、地図を見ながら次の計画を考える。
食糧庫に、セメントに、水道に、道路。
次から次へと問題が出てくるし、考えることも多い……いや、四歳児の仕事量じゃないでしょう!
「はぁ……」
私は、ベッドの上で大きく伸びをした。
そこで、ふと気がついた。
「……ん?」
ちょっとお待ちよ。
「…………」
休んでなくね?
休日がなくね?
「……えっ?」
私は、思わず上半身を起こした。
今まで、まったく気がつかなかった。
毎日、開拓地へ行く。現場で仕事をする。
屋敷に戻って、次の日のことを考える。
そして、また朝が来る。
……あれ?休みの日って、いつ?
「…………」
ない。どう考えても、ない!
いや、もちろん、仕事が終われば休んでいる。
夜には寝ているし、食事だって取っている。
でも、そういうことじゃない!
仕事そのものをしない日がないのだ。
「……これは、まずいわね」
私は、腕を組んだ。
前世では、仕事が休みの日があった。
休みの日には、好きなことをする。
家でのんびりしたり、買い物に出かけたり、何もせずに過ごしたり。
そういう時間があったはずだ。
ところが、今の私はどうだろう。
毎日、領地開発。
しかも、本人は四歳児。
「……ブラック領地?」
いやいやいや!そんなはずはない。
お父様は優しいし、お母様だって厳しく働かせるような人ではない。
私が勝手に仕事を増やしているだけ……なのかもしれない。
でも、だからといって、休みがないのはおかしい!
「……よし」
朝ごはんのときに聞いてみよう。
◇
朝食の席。
私は、お父様に声をかけた。
「お父様?」
「どうした、クルーク?」
「ちょっと聞きたいことがあるの」
「何だ?」
私は、少しだけ身を乗り出した。
「休日って、どうなっているんですか?」
「……休日?」
お父様は、首を傾げた。
「休日とは……?」
「…………」
はい、決定!ブラック領地……いや、待て。
もしかして、私の常識が間違っているのだろうか。
この世界では、休みの日というものがないのが普通なのかもしれない。
でも、だからといって、何も聞かずに諦めるわけにはいかない。
「お父様。休日というのは、仕事を何もせず、好きなことをして過ごすためのお休みの日です!」
「……仕事をしない?」
「はい!」
「何故?」
「…………」
そこからか!
まさか、休日という概念そのものが伝わらないとは思わなかった。
「えっと……。人はずっと働き続けることはできません。身体を休めたり、ゆっくりしたりすることで、疲れを取る必要があるんです」
「疲れを取る?」
「はい。そうすることで、次の仕事にも集中できるようになります!」
私は、できるだけ分かりやすく説明した。
身体が疲れれば、作業の効率も落ちる。
集中力が切れれば、失敗も増える。
だから、定期的に休息を取ることが大切なのだ。
……前世では、そんなことを考えなくても、休日は当たり前にあったのだけれど。
お父様は、少し考え込んでから答えた。
「……仕事がないときに休めばよいのではないか?」
「…………」
うーん。これは……考え方が根本から違う。
お父様の言いたいことも分からなくはない。
仕事がなければ休めばいい。
確かに、それも一つの考え方だ。
でも、仕事がある限り、休まないということになってしまう。
領地の仕事なんて、いくらでもあるのだ。
開拓が終われば、今度は別の開拓。
作物が育てば収穫。
冬になれば冬の仕事。
領主の仕事だって、季節に関係なく発生するだろう。つまり……。
「…………」
休めないじゃない!
「……お父様。仕事があるときでも、定期的に休むことが大切なんです」
「そうなのか?」
「はい!」
お父様は、再び考え込んだ。
……うーん。
これは、すぐには理解してもらえそうにない。
そもそも、パンパ領では昔から、仕事がなければ休むという考え方なのだろう。
そこへ、突然、定期的に仕事をしない日を作りましょうと言っても、簡単には受け入れられないかもしれない。
「…………」
これは、今すぐどうこうできる問題ではなさそうだ。
まずは、領地の仕事がどのように回っているのか、もっと知る必要がある。
それに、働いている人たちが休日を望んでいるのかどうかも、確認しなければならないだろう。
……いや、普通に考えたら、休みたい人はいると思うけど。
でも、私が勝手に決めていい話でもない。
「……分かりました」
私は、ひとまず引き下がることにした。
「何でもないです!」
「……そうか?」
お父様は、不思議そうな顔をしていた。
……うん。
今は、これ以上言っても仕方がない。
休日の導入については、もう少し考えよう。
いきなり領地全体の働き方を変えるのではなく、まずは開拓地から試してみる方法もある。
仕事の予定を調整して、交代で休めるようにするとか。
作業の進み具合を確認しながら、休みを設けるとか。
そうすれば、仕事を止めずに休息を確保できるかもしれない。
……まあ、それを考えるのも、私の仕事になりそうだけど。
「…………はぁ」
私は、朝食を食べながら、小さくため息をついた。
パンパ領の開拓は順調だ。
新しい資材も見つかった。
人手も増える予定だ。
やりたいことは、たくさんある。
でも……。
「休日くらい、欲しいわよね……」
小さくつぶやいた。
「何か言ったか、クルーク?」
「何でもないです!」
私は、慌てて首を振った。
……いつか。
いつか、パンパ領にも休日を導入してみせる。
そう心に決めた。
ただし。そのための計画を考える時間が、いつ取れるのかは分からない。
「…………」
……やっぱり、ブラック領地なのでは?
私は、心の中でそうつぶやいた。




