手紙を届けるより、お祖父様の方が早い!?
「うーん……」
私は地図を広げ、腕を組みながら唸っていた。
さて、開拓は順調に進んでいる。
食糧庫は完成した。
正確には、二つ目の食糧庫が完成したのだ。
一つ目は、掘り進めていたところから石灰が出てきたため、そのまま石灰の採石場になってしまった……まあ、資源が見つかったのだから、結果オーライということにしておこう。
そして、セメントとモルタルも完成した。
ツーシュさんたちは、早速それらを使って、斜面を平らにする作業に取りかかるらしい。
もちろん、斜面を平らにするだけなら、土を削ればいいという話ではない。
土が崩れないようにしなければならないし、水がたまらないように排水も考える必要がある。
だから私は、私なりに水抜きや排水の重要性を説明しておいた。
すると、ツーシュさんは特に驚く様子もなく頷いていた。
どうやら、斜面を整備する工法自体には実績があるらしい。
今までセメントを使ったことがなかっただけで、土木作業の経験はあるということだ。
……なら、問題ないかな?
新しい資材を使う以上、強度の確認は必要だけれど、基礎となる技術があるのなら安心できる。
「……よし。ここはツーシュさんたちに任せましょう」
私が地図に印を付けていると、声をかけられた。
「クルークお嬢様でいらっしゃいますか?」
「はい。そうだけど?」
振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。
手には、一通の手紙を持っている。
「第三集落から手紙を預かっておりますので、お届けに参りました」
「ありがとう!」
私は手紙を受け取った。
第三集落からの手紙か。
……そういえば、第三集落の人と直接会うのは初めてかもしれない。
「ところで、ここまでどうやって来たの?」
「へ? 山道を歩いて来ましたが?」
「あ、そうなのね」
まあ、それが普通よね。
普通に考えれば、山道を歩いて移動するのが当たり前だ。
私だって、地面を歩くつもりだった。
……ただ、第二集落の人たちは違うらしい。
「でも、第一と第二集落の方々は、木の上をぴょんぴょんと移動されるんですよね? あれは凄いですよね!」
「…………」
ああ、やっぱり。
「……なるほど」
私は、心の中で納得した。
第二集落と第三集落の間には、木から木へ飛び移る移動ができる人たちと、そうではない人たちの違いがあるのかもしれない。
第二集落の人たちは、木々を利用した移動が得意。
一方、第三集落の人たちは、普通に山道を歩いて移動する。
……いや、普通って何だっけ?
最近、分からなくなってきたわ。
「では、私はこれで戻りますので」
「あ、はい! わざわざありがとう!」
男性は軽く頭を下げると、来た道を戻っていった。
私は、手元の手紙を見つめた。
「……お祖父様から?」
差出人の名前を見ると、そこにはお祖父様の名前が書かれていた。
なるほど。
第三集落から届いた手紙だけれど、お祖父様からなのね。
「……まあ、家に戻ってから読めばいいか」
今は、開拓地の確認が先だ。
私は手紙をしまい、再び地図へと目を向けた。
さてさて。
家はこの辺りに作るとして……。
その前に倉庫を作るべきかしら?
いや、先に道路を整備した方がいい?
でも、水道の計画もあるし……。
「うーん……」
考えることが多すぎる。
とりあえず、優先順位を整理しなければ。
私は地図を眺めながら、頭の中を整理していった。
◇
「はぁー……。疲れたなぁ」
ようやく、一日の仕事が終わった。
私は屋敷へ戻ると、玄関から声をかけた。
「ただいまー!」
「おう! お帰り!」
「……え?」
聞き覚えのある声。
まさかと思いながら、声のした方を見る。
そこには……。
「お、お祖父様!?」
なぜ、ここにいるの!?
お祖父様は、いつもどおりの様子で椅子に座っていた。
「おう。どうした?」
「どうしたって……。お祖父様、いつからいらっしゃったの?」
「ついさっきじゃよ」
ついさっき?
……いや、待って。
私は、手紙を受け取ったのが今日のことだと説明しようとして、ふと思い出した。
「そういえば、お祖父様。手紙は……」
「手紙は読んだか?」
「いやいや……。今さっき、私の手元に届いたんですが……」
「そうかそうか!」
お祖父様は、豪快に笑った。
「それで、開拓は進んでおるな?」
「え? あ、はい。順調ですけど……」
「さっき寄ったときに、クルークはどこかへ行っていると言われてなぁ」
「…………」
……え?さっき、寄った?
つまり、お祖父様は一度、開拓地に来ていたということ?
しかも、私が不在だったから屋敷に戻ってきた?
「…………」
ちょっと待って。
私は、手紙を受け取った。
その手紙を届けた人は、第三集落から山道を歩いてきたと言っていた。
そして、その手紙の差出人であるお祖父様は、すでに屋敷にいる。
……どういうこと?
「お、お祖父様……」
「なんじゃ?」
「手紙を出したのは、いつですか?」
「ん? 昨日の朝じゃが?」
「…………」
昨日の朝。手紙を出した?
そのあと、お祖父様は開拓地へ来た。
私がいなかったので、屋敷に戻った。
そして、手紙は第三集落から運ばれてきて、ようやく私の手元に届いた。
「…………」
いやいやいや!
おかしいでしょう!?
手紙を届ける人は、山道を歩いてきたのよ?
それなのに、お祖父様は手紙が届くより先に、開拓地を確認して、屋敷に来ている。
「……お祖父様」
「なんじゃ?」
「一体、どうやって移動したんですか?」
「普通に歩いてきただけじゃが?」
「…………」
普通に歩いてきただけ……うん。
もう、聞くのはやめよう。
パンパ領の常識を理解しようとすると、私の頭が壊れそうになる。
「そうか……。まあ、開拓が順調ならよい!」
お祖父様は満足そうに頷いた。
私は、手紙を握りしめたまま、深いため息をついた……もしかして。
手紙を届ける人より、お祖父様の方が早いのでは?
いや、もしかしなくても、そうなのだろう。
「…………はぁ」
開拓の問題は、まだまだ山積みだ。
でもそれ以上に、この領地の人たちの移動速度が、一番の謎かもしれない。
私は、そう思わずにはいられなかった。




