セメントとモルタル、早くも完成です!
開拓地に戻って参りましたー!
「……ふぅ」
今日も無事に帰ってこられた。
もちろん、帰りも木の上を移動してきたわけだけど。もう、そこは考えないことにする。
慣れって怖いわね。
さて。温泉を発見した。
これで、あの茶色い土地の謎は、ひとまず解けたことになる。
植物が育たない原因が温泉に関係している可能性もあるし、あとは詳しく調べればいい。
問題は、その先だ。
温泉開発。温泉街。宿泊施設。
……うん。夢は広がる。
たっぷりのお湯に浸かれる生活なんて、最高じゃない!
しかも、観光地として人が集まるようになれば、新しい収入源にもなる。
パンパ領の新たな名物になるかもしれない。
「……ふふふ」
いや、待て。
今は夢を膨らませている場合じゃない。
温泉を開発するとなれば、湯船を作り、建物を建て、道を整備しなければならない。
湯の温度や成分も調べる必要があるし、安全に利用できるかどうかも確認しなければならない。お金も人手も、かなり必要になるだろう。
つまり……。
「後回しね!」
今、最優先で進めなければならないのは、ここ。つまり新しい集落の開拓だ。
これから移住してくる人たちが住める場所を作らなければならない。
住居がなければ、人は増えない。
人が増えなければ、働き手も増えない。
働き手が増えなければ、領地の発展も遅くなる。まずは、住む場所を整える。
そして、できるだけ早く金に、つながる方法を考える。温泉は、そのあとでも遅くない。
「……よし!」
私は気持ちを切り替えた。
そのときだった。
「お嬢様! お帰りなさい!」
元気な声が聞こえてきた。
振り返ると、ツーシュさんがこちらへ駆け寄ってくる。
「どうしたの? 何かあった?」
「はい! ご報告があります!」
「報告?」
ツーシュさんは、興奮した様子で頷いた。
「例のセメントとモルタルが開発できました!」
「……え?」
一瞬、言葉が出なかった。
「もう!?」
「はい!」
早くない!?
いや、確かに実験を始めてから、それなりに日数は経っている。
でも、もう完成したの?
「ど、どうやって?」
「石灰を加工する方法をいくつか試し、原料の配合を変えながら実験を繰り返しました。その結果、セメントに使えそうなものができたんです!」
「……本当に?」
「はい! モルタルも、砂との配合を変えて何種類も作りました!」
ツーシュさんは、まるで新しい玩具を手に入れた子供のように、目を輝かせている。
「配合も数十通りを試しました! 固まり方や強度に違いがあり、用途によって使い分けられそうです!」
「数十通り!?」
すごい。本当にすごい。
私が伝えたのは、石灰を加工すること、砂や砂利を混ぜること、水を加えると固まること。
それくらいだったはず。
それなのに、職人たちは自分たちで実験を繰り返し、使えそうな材料を見つけてくれたのだ。
「素晴らしい資材です! これまで木材や石材だけでは難しかった場所にも、使えるかもしれません!」
「そうね!」
私は、思わず笑顔になった。
「それなら、ここの開拓にどんどん使いましょう!」
「はい! お嬢様!」
よし!
これで、新しい建造物が作れるかもしれない。
木材だけでは難しかった構造も、セメントやモルタルを使えば可能になる。
水路だって、もっと丈夫に作れるかもしれない。建物の基礎を固めることもできる。
地面の状態を確認しながら、必要な場所に使っていけば、開拓の効率も上がるはずだ。
「ちなみに、どんなものができたの?」
「こちらです!」
ツーシュさんが、試作品を見せてくれた。
見た目は、灰色がかった塊。
確かに、セメントらしい。
ただし、見た目だけで判断するわけにはいかない。
「これ、どれくらいの強度があるの?」
「現在、いくつかの方法で試験をしています。まだ十分な結果が出ていないものもありますが、配合によって違いがあるのは確かです」
「そうね。大事な建物や橋に使うのは、強度を確かめてからにしましょう」
「承知しました」
いくら新しい資材ができたからといって、すぐに何でも作れるわけではない。
どのくらいの重さに耐えられるのか。
雨に濡れても大丈夫なのか。
長い時間が経っても、ひび割れたり崩れたりしないのか。
そうした確認は必要だ。
特に、橋や大きな建物に使うなら、慎重に進めなければならない。
でも、小さな試験を繰り返して、使える場所から使っていけばいい。
「ツーシュさん。まずは小さな構造物で試してみて。それと、配合や試験結果は、きちんと記録に残してね」
「はい!」
「使えるものが分かったら、この開拓地で必要な場所から使い始めましょう」
「分かりました!」
うん。いい流れだ。
温泉の発見に、セメントとモルタルの開発。
新しい資源と、新しい建築資材。
パンパ領は、少しずつできることが増えている。
……ただし。
「…………」
私は、ふと思った。
新しい資材ができた。
これで、開拓の幅が広がる。
できることが増えた。ということは……。
「……仕事も増える?」
「お嬢様?」
「い、いえ! 何でもないわ!」
危ない。
また余計なことを考えるところだった。
今は、喜ぶべきだ。新しい技術が生まれたのだから。これをうまく活用できれば、開拓の速度も上がるだろう。
人が住める場所が増えれば、移住者も受け入れやすくなる。
そして、人口が増えれば、さらに領地を発展させられる。
「ふふふ……」
これは、いい。とてもいい。
「ツーシュさん! 引き続き、よろしくね!」
「お任せください!」
ツーシュさんは、元気よく返事をした。
私は、開拓地を見渡した。
これから住居を作り、道を整え、水を引き、食糧を確保する。
まだまだやることは多い。
でも、新しい建築資材が手に入ったことで、今までよりも選択肢が増えた。
一つずつ、確実に進めていこう……そして、いつか。温泉にも、たっぷり入れるようにするのだ!
「……よし!」
私は、改めて気合を入れた。
まずは、新しい集落の開拓。
温泉は、そのあと……たぶん。そう、たぶんね!




