森の中で、源泉を発見しました!
ヴァイプさんに担がれ、例の茶色い場所へ向かう。
木から木へ、枝から枝へ。
シュッ! シュッ! シュッ!
……そして、あっという間に到着!
「…………」
いや、早い。本当に早い。
便利なのは間違いない。
でも、これって徒歩なら、どれくらいかかる場所なのかしら?
私の足で歩いたら、一時間? 二時間?
いや、もっとかかるかもしれない。
毎日こんな移動をしているせいで、距離感がバグってきた気がする。
「……ヴァイプさん」
「はい、クルークお嬢様!」
「ここまで、歩いたらどれくらいかかると思う?」
「うーん……。普通に歩くのでしたら、かなり時間がかかると思います!」
「……そうよね」
具体的な時間は分からないらしい。
まあ、ヴァイプさんにとっては、木から木へ移動する方が普通なのだろう……パンパ領の常識、本当にどうなっているの?
とりあえず、私たちは茶色い土地から少し離れた場所に降りた。
何があるか分からないからね。
いきなり近づくのは危険だ。
まずは安全な距離から観察する。
「……さて」
私は、茶色い土地をじっと見つめた。
周囲には木々が生い茂っている。
それなのに、そこだけ植物が育っていない。
土がむき出しになり、茶色い地面が広がっている。
「うーん……。何もないわね」
「そうですね。特に異常は……木々がないくらいでしょうか?」
「そうなのよね……」
遠くから見た限りでは、特に変わったものは見当たらない。
建物もない。大きな岩が転がっているわけでもない。ただ、植物が育っていないだけ。
……いや、それが不思議なんだけど。
「もう少し近づいてみましょう!」
「はい!」
私たちは、周囲を確認しながら、ゆっくりと茶色い土地へ近づいていった。
すると……。
「……ん?」
何か、変な匂いがする。
ツーシュさんが言っていた、何とも言えない匂い。
最初は気のせいかと思ったけれど、近づくにつれて、だんだんとはっきりしてきた。
「お嬢様。何か匂いますね?」
「……ええ」
この匂い。どこかで嗅いだことがあるような……。
「……まさか」
私は、思わず立ち止まった。
この独特な匂い。前世の記憶を探る。
温泉。温泉街。湯けむり。そして……。
「……硫黄?」
「シオウ?」
「違う違う。硫黄よ!」
「イオウ……ですか?」
「そう!」
……いや、待て。本当に硫黄の匂いなのか?
記憶では、温泉地で嗅いだことがある。
でも、すべての温泉が硫黄の匂いをするわけではないし、似たような匂いがする別の原因だって考えられる。
まだ断定するのは早い。
「ヴァイプさん!」
「はい!」
「この辺りに、お湯が湧いている場所はない?」
「お湯ですか?」
「ええ。地面から温かい水が出ているような場所よ!」
ヴァイプさんは、周囲を見回した。
「あっ! お嬢様、あちらの窪みはどうでしょう?」
「どこ?」
「あそこです!」
ヴァイプさんが指差した先。
地面が少しくぼんでいる場所があった。
そして、その周囲には……。
「……あれ、水蒸気?」
白いものが、ゆらゆらと立ち上っている。
遠目には分かりにくかったけれど、近づいてみると、確かに何かが地面から出ているように見えた。
「行くわよ!」
「はい!」
私は、慎重にその場所へ向かった。
ただし、湯気が出ているからといって、いきなり手を入れたりはしない。
熱いお湯だったら危険だし、地面が不安定な可能性もある。
少し離れたところから、まずは様子を見る。
そして……。
……ブクブク?
窪みの中で、水が泡立っていた。
地面から湧き出した水が、静かに揺れている。
その周囲には、白い湯気が立ち上っていた。
「…………」
「…………」
私とヴァイプさんは、顔を見合わせた。
そして、私は確信した。
「ふふふ……」
「お嬢様?」
「源泉発見!」
「ゲンセン?」
「そう! 温泉のお湯が地面から湧き出している場所よ!」
……たぶん!
いや、正確には、水温や成分を調べないと、温泉として利用できるかどうかは分からない。
でも、地面から水が湧き、湯気が出ている。
それに、あの独特な匂い。
これは、温泉である可能性が高い!
「木々が育たないのも、これが原因なのかもしれないわ!」
「これが原因……?」
「ええ! 温かい水や、地面から出ている成分の影響で、植物が育ちにくくなっている可能性があるのよ!」
もちろん、原因が温泉だけとは限らない。
土壌の性質も関係しているかもしれないし、湧き出す水に含まれる成分が植物の成長を妨げている可能性もある。
詳しく調べる必要はあるけれど……。
それでも、新しい発見には違いない!
「お嬢様、これは何か役に立つのですか?」
「ええ! うまく利用できれば、役に立つかもしれないわ!」
「おお!」
ヴァイプさんが、嬉しそうに声を上げた。
……まあ、まずは安全確認だけどね。
温度も分からないし、湧き出している水にどんな成分が含まれているのかも分からない。
今すぐ入浴できるわけではない。
でも……。
「……温泉かぁ」
思わず、つぶやいてしまった。
温泉。
たっぷりのお湯に浸かって、ゆっくりと体を休める。
前世では、温泉旅行なんてものもあった。
仕事の疲れを癒やすために、温泉に入る。
温泉街で食事をして、宿に泊まって、のんびり過ごす。
……ああ。いいわね。すごく、いい。
「ふふふ……」
「お嬢様、また何か思いついたのですか?」
「ええ。ちょっとね!」
そう。
もし、この領地に温泉があるのなら……。
新しい資源として利用できるかもしれない。
温泉を使った施設を作る。
湯船を作って、ゆっくり入浴できるようにする。もしかすると、温泉を目当てに人が来るかもしれない。そうなれば、宿泊施設や食事処も必要になる。
つまり……。
「温泉街!」
思わず声が出た。
「オンセンガイ?」
「そう! 温泉を中心に、人が集まる場所を作るのよ!」
「なるほど……!」
ヴァイプさんは、分かったような、分からないような顔をしている。
まあ、説明していないのだから、当然だ。
でも、待てよ?
この場所は、山深い森の中だ。
ここまで来るのは大変。
道路も整備されていない。
そもそも、この世界に旅行という概念はあるのだろうか?
わざわざ遠くまで出かけて、温泉に入るためにお金を払う。
そんな習慣があるのかどうかも分からない。
「…………」
うーん。分からん!
温泉があるからといって、すぐに儲かるわけではない。
温泉として安全に利用できるかも調べなければならないし、施設を作る費用も必要だ。
それに、利用する人がいなければ商売にならない。
「……まあ、少し考えてからね」
まずは調査。
温度を測り、水の性質を調べる。
湧き出している場所が安全なのかも確認する。
そのうえで、利用できるかどうかを考えればいい。焦る必要はない……いや、温泉と聞くと、どうしても期待してしまうけれど!
「ヴァイプさん!」
「はい!」
「ここは危険かもしれないから、これ以上は近づかないようにしましょう。場所を覚えて、あとでお父様たちにも報告するわ」
「承知しました!」
私は、もう一度だけ、湯気の立ち上る窪みを見つめた。
パンパ領には、まだまだ知らないものがある。
木材や竹だけではない。
石灰も見つかった。
そして今度は、温泉らしきものまで見つかった。
「……この領地、意外とすごいのかもしれないわね」
思わず笑みがこぼれた。
もっとも、これが本当に商売になるかどうかは、まだ分からない。でも、可能性があるなら調べてみる価値はある。
「よし! 戻りましょう!」
「はい!」
こうして、私たちは謎の茶色い土地を後にした……温泉街か。
たっぷりのお湯に浸かれる生活。
そして、うまくいけば新しい収入源。
「……ふふふ」
夢が広がるわね!
ただし、その前に木の上通勤を何とかしたい。
温泉街を作るよりも、まずは普通の道路を整備する方が先かもしれない。
私はそんなことを考えながら、ヴァイプさんに担がれた。
「……お願いね」
「お任せください!」
……やっぱり、帰りも木の上なのね。
地面を歩いて帰れる日は、まだ遠そうだ。




