竹の水道で、各家に水を届けよう!
開拓地の責任者、ツーシュさんとの打ち合わせ。
「お嬢様。今後の進め方ですが……」
「そうね……」
私は、広げた地図を見ながら考えた。
開拓地には、まだ何もない。
木を切り倒し、わずかな平地を確保しただけだ。
これから住居を作り、食料を保管する場所を整え、畑を作るための土地も探していかなければならない。やることは山ほどある。
でも、まずは……。
「水源は、ここかしら?」
私は、地図の一点を指さした。
「はい。こちらと、こちらです。二カ所見つけておりますので、水の確保については十分かと思います」
ツーシュさんが、地図上の二カ所を指し示した。
「なるほど。どちらも、今いる場所より高い位置にあるのね」
「はい」
それなら、うまく利用できるかもしれない。
水源が高い場所にあるなら、そこから低い場所へ水を流せる。
もちろん、水源の水量や地形を確認する必要はあるけれど。
「ところで、今ある集落では、どんなふうに水を使っているの?」
「水源の近くに、池のようなものを作っております。そこから、皆がバケツで水を汲んで運ぶ形ですね」
「……なるほど」
クルークは、思わず眉を寄せた。
つまり、毎回、水源まで水を汲みに行っているわけだ。
飲み水にしても、料理にしても、洗濯にしても、水は必要になる。
そのたびにバケツで運ぶのは大変だろう。
特に、山の中では水を運ぶだけでも重労働だ。
「……いちいち汲みに行くのも、面倒ね」
「ええ。ですが、今のところは、それが普通ですので」
……普通、か。また出た。パンパ領の常識!
「そうしたら、まずは水源の近くに池のようなものを作って、水を溜めましょう」
「はい」
「それから、竹の節を抜いて、パイプにするの」
「……パイプ、ですか?」
「そう。竹をつないで、水が流れる道を作るのよ」
竹なら、この領地には大量にある。
節を抜いて中を通れるようにし、竹同士をつなげて水路を作る。
水源から低い場所へ向けて、うまく傾斜をつければ、水を流せるはずだ。
もちろん、継ぎ目から水が漏れないようにする工夫も必要だろう。
それに、竹は傷んだり詰まったりすることもあるから、点検や交換ができる構造にしておきたい。
まずは、簡単なものから試せばいい。
「そして、その竹の水道を各家につなげるの!」
「……各家に!?」
ツーシュさんが、目を丸くした。
「そうよ。水源まで汲みに行かなくても、家の近くで水が使えるようになるでしょう?」
「……確かに。それなら、ずいぶん楽になりますね」
「でしょ?」
クルークは頷いた。
水汲みの手間が減れば、その分、ほかの仕事に時間を使える。
開拓地で暮らす人たちにとっても、大きな利点になるはずだ。
「それに、この方法なら、ほかの集落でも使えるわよね」
「……確かに!」
ツーシュさんの表情が明るくなった。
「水源の位置と高低差が合えば、第一集落や第二集落でも応用できそうです!」
「そういうこと!」
竹は、この領地で手に入りやすい資源だ。
それを使って水を運べるようになれば、パンパ領全体の暮らしが便利になるかもしれない。
「なら、竹を大量に持って来るとします!」
「お願いね!」
よし。まずは、水の確保。
これだけでも、開拓地の生活は大きく変わるはずだ。
……そして。
「それと、道だけど」
「道、ですか?」
「そう!」
クルークは、地図を指でなぞった。
「ここは、第一集落と第二集落の、だいたい中間地点でしょう?」
「はい。その通りです」
「だから、道を広げたいのよね」
ツーシュさんは、少し考えるように地図を見た。
「……道を、ですか?」
「そう。荷馬車が通れるくらいの道にしたいの!」
「しかし……ここだけ広げても、ほかの道が狭いままでは……」
「その通り!」
クルークは、勢いよく頷いた。
「そのうち、領内全部の道を整備したいわ!」
「……領内全部、ですか!?」
ツーシュさんの顔が、少し引きつった。
まあ、そうなるよね。
パンパ領は山ばかりだ。
集落と集落をつなぐ道も、狭くて曲がりくねっている。
荷馬車が通れるようにするなら、場所によっては道を広げるだけでは済まない。
斜面を削ったり、崩れないように補強したりする必要もあるだろう。
「大規模な工事になりますが……」
「分かっているわ。だから、少しずつ進めるのよ!」
いきなり領内全域を整備するのは無理だ。
まずは新集落の周辺から。
その後、必要性の高い区間を優先して整備していけばいい。
荷馬車が通れる道が増えれば、木材や竹材、食料などの運搬が楽になる。
商人たちも荷物を運びやすくなるだろう。
道が便利になれば、商売にも良い影響があるはずだ。
「それと、歩く人もいると思うので……」
「歩く人、ですか?」
「そう。荷馬車が通る道とは別に、遊歩道みたいな道も作りたいわね」
「……ゆうほどう?」
ツーシュさんが、不思議そうに首を傾げた。
「ええと……人が安全に歩ける道よ。荷馬車とすれ違うときに危なくないようにしたり、歩きやすくしたりするの」
荷馬車が通れるように道を広げても、歩行者が安心して歩けるとは限らない。
場所によっては、歩く人のための道を別に作った方がいい。
ただし、山道で無理に道を増やせば、工事も大変になる。
だから、そこは地形を見ながら考えればいいだろう。
「……なるほど。そういう道もあるのですね」
「まあ、詳しいことは後で図に描いて渡すわ!」
「分かりました!」
ツーシュさんは、真剣な顔で頷いた。
クルークは、地図を見つめた。
水源。竹の水道。
荷馬車が通れる道。
歩く人のための道。
考えれば考えるほど、やりたいことが増えていく。
でも、どれも領地を便利にするためには必要なことだ。
「まずは、水の確保よ!」
「はい!」
ツーシュさんが、力強く返事をした。
水源の調査を進め、竹を集め、実際に水を流せるか試してみる。
うまくいけば、新集落の各家に水を届けられるかもしれない。
「ふふふ……これで、少しずつ暮らしやすくなるわね!」
クルークは、地図を見ながら笑った。
新しい集落は、まだ始まったばかり。
けれど、水を運ぶ手間が減り、道が整い、住む場所が増えていけば、きっと今より暮らしやすくなる。
そして、その仕組みがほかの集落にも広がれば……。
「……よし! パンパ領を、もっと便利にしてみせるわ!」
クルークは気合いを入れ直した。
……ただし。
竹の水道も道路整備も、実際に作るとなれば簡単ではない。
まずは試してみて、問題があれば改良していく必要がある。
そして、また職人さんたちにお願いすることになるのだろう。
「……あれ? また仕事を増やした?」
クルークは、ふと手を止めた。
まあ、いいか。
領地が便利になるなら、それでいいのだ!
……たぶん。




